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語り手
いよいよ明日は海岸通りに行く日だ。
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語り手
親父との関係は良好ではあるが、幸せすぎて先々が少しだけ不安だ。
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語り手
でも、また夏と逢えると想うと、胸が踊る。
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語り手
夏は変わらないでいてくれているだろうか。
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早朝
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ボクくん
だーーーおやじ!渋滞しちまうよ!
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ボクくん
はやくトイレから出てくれ!!
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語り手
必死にしぼりだした過去の記憶。渋滞に巻き込まれたような気がした。
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語り手
前日に5時に起きて、渋滞をなるべく避けようと助言したのも関わらずこの親父は…。
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ボクの父
大丈夫だって。もうちょっとだから。
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ボクくん
あーもー先に行っちまうぞ!
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ボクの父
運転できないだろ!!まちなさい!!
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語り手
一度、もたつく親父に対し、イライラしてトラックを運転しようとしたことがある。
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語り手
かなりホンキだったのが親父にも伝わったのか
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ボクの父
も~朝は新聞ゆっくり読みたいのにい
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語り手
タバコを咥えながら、脇に新聞を挟んで出てきた。
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ボクくん
遅刻したらビールおごりな
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ボクくん
仕事仲間にも迷惑かかんだからよう。
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ボクくん
はやく行こうぜ
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語り手
まあ、渋滞したわけだが。
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渋滞
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語り手
クラクションの音。
セミの鳴き声。
急かす怒鳴り声。 -
ボクくん
…。
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ボクの父
おっかしいなあ
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ボクの父
渋滞の道を避けたはずなんだが。
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ボクくん
冷房はやめに直してよかったな。
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ボクくん
暑かったらおれ先に行ってたわ
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語り手
数日前。トラックの冷房が故障していたのだ。
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語り手
親父はしぶっていたが、渋滞に巻き込まれる可能性も考えて、エンじいに直してもらった。
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語り手
エンジニアのおじいちゃんだからエンじいだ。
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ボクの父
先に工具いくつか持って行ってくれないか。
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ボクくん
イヤだよ!!あちーだろ!!?
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ボクくん
かわいい息子が炎天下で日射病とかになったらどうすんだよ!
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語り手
親父は前を向いたまま豪快に笑う。むかつく。
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ボクの父
仕事は選べないんだぞ。
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ボクの父
遅刻したらその分仕事も遅れるし、頼むよ。
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語り手
断れるわけがない。
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語り手
仕事の効率を考えると、往復して手に持てるものは全員で協力して運んだ方が早いだろう。
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語り手
バンッとトラックのドアを閉め、ガードレールを飛び越えた。
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語り手
歩道に寄り、駆け足で向かう。
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語り手
今年は忙しい年だ。
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ボクくん
だああ~~~ちくしょお あち~~~!!
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ボクくん
ちくしょ~~~!!
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語り手
仕事仲間をフル活用にして資材を持ち運び、なんとか仕事ができる段階にはなった。
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語り手
もうすでに待機組が仕事を早い段階で進めている。
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語り手
昼には親父が乗っているトラックも来た。
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語り手
のほほんとしているのが妙に腹が立ち
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語り手
職場に向かう途中で水風船をついでに買っていたので
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語り手
仕事仲間と一緒に水風船をトラックにぶつけた。
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落ち着いて。
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ボクの父
ボク。
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ボクくん
なに
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ボクくん
あ、スコップ――
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ボクの父
大事なものだろ。かわいそうだから忘れるな。
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語り手
親父からスコップを受け取ると胸が熱くなる。
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ボクくん
ん ありがと。
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語り手
ああ、なるほど
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語り手
スコップは私と親父のつながりだったのを思い出した。
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語り手
親父との心の距離はもうそんなに離れているとは想っていない。
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語り手
今はもう無くても大丈夫なのだが
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語り手
いつ「ワタシ」が消えるのかわからない。
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語り手
「ボク」が戻ってきた時、スコップが手元にないと不安になるだろう。
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語り手
「ボク」のために「ワタシ」はスコップは持ち続けることにした。
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語り手
この気持ちを「ワタシ」がいなくなっても「ボク」が覚えてくれていたら良いのにな。
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午後
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語り手
解放された。
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語り手
私は駆け足で海に向かう。
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語り手
ガチャガチャと工具入れがケツに当たり、スコップは汗で手が滑る。
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語り手
海岸通りを抜けると海が見えてくる。
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語り手
暑いという気持ちも、お腹が空いた気持ちも、全て忘れて
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語り手
今はとにかく君に逢いたかった。
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環境音
ざぁぁああん――
ざああぁぁん―― -
環境音
ぱしゃぱしぱしぱし
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ボクくん
レンジ!
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ボクくん
レンジー!
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語り手
必死に崖に掴まって、レンジの住み浜に足を踏み入れたが
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語り手
波の音と隣のビーチの人の声がかすかに聞こえるだけだ。
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ボクくん
寝てるのか…?
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語り手
レンジの寝床だったはずの洞窟に入る。
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語り手
奥には深い海溜まりがあるが…深すぎて確認が出来ない。
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ボクくん
レンジー!いるかー!
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語り手
風の音しか聞こえない。
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ボクくん
なんで、いないんだ?
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語り手
どれだけ限られた記憶を振り絞ってみても
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語り手
レンジ プライベートビーチ
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語り手
それだけしか、今は思い出せない。
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語り手
何か会話をしていたはずなのに、それすらも思い出せないとは…
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語り手
今の私がとても歯がゆく思えた。
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ボクくん
潜ってみるか?
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語り手
もし、レンジがそこにいるなら、多分、海の中でも息ができたはずだ。
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語り手
しかし――
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語り手
こわい…
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ボクくん
れ、んじ…
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語り手
海の底が見えないのは、かなり深かったためだと思う。
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語り手
それにしても、こんなに「なにもない」場所だっただろうか。
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語り手
試す勇気が無かった。この世界で死んでしまったら、もう二度と戻れない気がしたからだ。
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語り手
何を言い訳しているのだろう。
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語り手
自分の臆病さには呆れてしまう。
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語り手
レンジを信じきれなかったことも胸が締め付けられた。
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語り手
信じようともしなかったのは紛れもない事実だ。
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語り手
明日はレンジを信じて潜ってみよう。
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ひるめし
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語り手
昼はホットドッグデビルというものを買って食べた。
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語り手
口当たりがピリッとするが、挟まれたポークは塩胡椒が効いていて、とても美味い。
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語り手
店員にポークはどこから仕入れてきているのかを聞いてみた。
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語り手
海岸通りの高台をのぼると、展望台図書館があり、さらに奥の方に抜けると田舎町が広がっているのだ。
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語り手
そこにあるでかい牧場から仕入れてきているらしい。
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語り手
辛いものが苦手な子供はみんな買わないのに、あんたすごいねと言われた。
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ボクくん
おれ!辛いの大好きだから!
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語り手
等といきがってるが
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語り手
「ボク」も辛いのが苦手で、カレーライスは激甘が好きなのを今更思い出した。
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語り手
もし、レンジが近くにいたら
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語り手
牧場に行ってみたい。
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街のこと
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ボクくん
ここが図書館か――
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ボクくん
夕涼みには図書館が一番だよな
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環境音
がちゃ
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ボクくん
すげえ、すずしい…
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語り手
海岸通りの高台にある展望図書館は屋根が海色の透明ガラスなのだが、魚やサンゴ…の模様で彩られている。
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語り手
太陽の光で魚の影ができ、ロビーの中央では小さな女の子が親の手を引き、魚さん泳いでいるよとか、なんとか、そういう話をしていた。
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語り手
ほほえましい。
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語り手
ツヤの入った手すりを指で触りながら、2階にあがる。
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語り手
文化コーナーに立ち入る。
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語り手
少し寒いくらいまでに体温が下がり、スコップが冷たくなってくる。
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語り手
ざらつきが伝わってきた。
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ボクくん
あった!
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語り手
「海岸通り 開拓歴史」
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語り手
これは後でゆっくり読もう。
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ボクくん
もうひとつ・・・文化コーナーにはないか。
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ボクくん
レンジのこと――本にしている人、いるよな。絶対。
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語り手
色々大人向けのコーナーをうろちょろしていたが、人の通りが少なく、とても静かだった。読書席も人は少ない。
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語り手
ここの地元で暮らしていたら、ずっとここに居ても良いなとは思えるが
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語り手
ずっとレンジのそばにいただろう。
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語り手
いくつか持ってきた本を机の上に置き、少しでも、レンジの情報を確かめてみたかった。
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ボクくん
スキューバダイビングとかやってるか調べてみる必要もあるな。
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語り手
ついでに図書カードも登録してみた。
明日から利用可能らしい。 -
日が暮れて
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ボクくん
ただいまーおやじー夜飯どうする?
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語り手
テーブルの上にはビールやおつまみでごった返しだ。
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語り手
宴会のつもりらしい。
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ボクくん
悪いけど、おやじを借りるわ。
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ボクくん
おやじ 海の家でめし食おうぜ
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ボクの父
…そうだな、行こうか。
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環境音
ずあぁああん…
ぱしゃ、ぱしぱしぱし -
語り手
オープンテラスも人が混んでいたし、どうせなら海の近くで食べようと、現場から失敬したブルーシートを砂浜に敷いて、ごはんを食べた。
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ボクの父
旅行気分だな。
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ボクくん
そういうつもりで仕事も「ここ」を選んだのだろ?
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語り手
父さんは豪快に笑うとビールに口つける。
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語り手
私も心地よくて思わず笑みをこぼしていた。
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語り手
海と星空をじっくり見たのは、もうずっと昔のことのように感じた。
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語り手
この世界に「ワタシ」がいなくなっても「ボク」のためにずっと続いてほしい。
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語り手
「ワタシ」がいなくなる前提で考えてしまうのは
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語り手
この世界はあまりにも「幸せすぎる」からだ。
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環境音
ざぁぁああんん…
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ボクくん
レンジ
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ボクくん
明日はまた、会えるよな
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ボクの父
…おい、こら
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ボクくん
え?なに?
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ボクの父
俺のホットドッグ食べたろ
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ボクくん
え!?たべてないよ!?
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ボクくん
ガードリアが盗んだのかも!
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ボクの父
なんだ。ガードリアって。
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ボクの父
おいこら、ごまかすな
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ボクくん
しらねえ!しらねえ!おれはたべてねえぞ!
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ボクの父
こらまてっ!!
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語り手
ガードリアってなんだったけな。
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語り手
明日こそ、君を見つけたい。
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