• 語り手

    レンジについてまとめておこうと思う。

  • 語り手

    レンジ
    海岸通りの海に住む子供。

  • 語り手

    「海岸通り 開拓歴史」という本にも海の守り神と触れられており

  • 語り手

    大人にはレンジの姿も声も見えておらず、触れることは出来ない。

  • 語り手

    大人とは成熟した人間の意味を指す。

  • 語り手

    しかし、レンジの場合は身体ではなく、精神年齢で見えるか、見えないかが決まる。

  • 語り手

    精神年齢が13歳から15歳を迎えると、姿も声も聞こえなくなる。

  • 語り手

    「ボク」は子供体型だが、「ワタシ」は58年生きてきた年寄りだ。

  • 語り手

    だから、姿が見えないのだ。

  • 早朝。
  • 語り手

    親父達を起こし、共にカップラーメンの麺を啜る。

  • 語り手

    たまに食べるとかなり美味い。

  • 語り手

    エンじいが夜中は流れ星が綺麗だったと呟いていた。

  • 語り手

    そういえば、「ワタシ」が「ボク」だった頃は、

  • 語り手

    親父と流れ星を見ていた記憶がぼんやりとある。

  • 語り手

    この国でまだ見る機会があるならば、今度は親父と流れ星をゆっくりみたいな。

  • 語り手

    なんて呑気なことを言っている場合ではなかった。

  • 語り手

    仕事場の仲間全員、ご飯を食べ終えて、仕事服に着替えたりしはじめている。

  • 語り手

    私もひとくちで汁を飲み干し、工具ベルトを装着する。

  • 語り手

    スコップをつかむ。

  • 語り手

    よし。

  • 語り手

    また真夏の職場へと向かうのであった。

  • 午後
  • 語り手

    屋根の補修作業を行った。

  • 語り手

    昼飯代を親父からもらい、ひとり旅行気分で街をうろつく。

  • 語り手

    なんとなく

  • ボクくん

    ほっ

  • ボクくん

    はっ

  • ボクくん

    はあっ!とおっ

  • 語り手

    道に敷き詰められた、石レンガをどれくらい開けて飛べるかをやってみたかった。

  • ボクくん

    レンジ!

  • 語り手

    反応はなし。

  • ボクくん

    ちえ…

  • ボクくん

    振り向いたら

  • ボクくん

    後ろで真似してくれている気がしたんだけどな…

  • 語り手

    この時は割とマジで自信があった。

  • 語り手

    そういえば、今日はスクールのプール授業で着用する水着を下に着込んでいる。

  • 語り手

    おかげさまで汗疹で尻がかゆい。

  • ボクくん

    すみません。アイスキャンデーを――

  • ボクくん

    ひとつください。

  • 語り手

    アイスキャンデー
    ブルーハワイ味

  • 語り手

    口に咥えながら海岸通りを抜け、海にたどり着く。

  • 語り手

    アイスは棒だけとなり、海の家の近くにあるゴミステーション(燃えるゴミ)に投げ捨てた。

  • 語り手

    当時は気にしていなかったが、安全面だけではなく、衛生面に気を配っているのがよくわかる国だ。

  • 語り手

    砂浜には海に流れ着いた木の枝やわかめ以外は目立つゴミはなく、

  • 語り手

    定期巡回しているスタッフがきちんと綺麗にしている。

  • ボクくん

    関心するなあ…

  • 語り手

    戦後、人類は環境、野生動物狩り等、おかまいなしに発展をし続けた。

  • 語り手

    特に私が今いる90年代は、そのツケが回ってくる時代で、

  • 語り手

    ようやく人類は環境を良くしようと積極的に行い始めたと思う。

  • 語り手

    良くしようとはしてはいるが、そこまでで、なかなか明るい進展をしているように見えないのは

  • 語り手

    きっと私が年寄りだから、そう見えるのかもしれない。

  • 語り手

    失ってしまった物に気づいたとしても、現状維持だけでは意味が無い。

  • 語り手

    戦後、焼き野原にされたこの国が、リゾート土地になれたのは、

  • 語り手

    人類のためだけではなく、植物、生物が生きやすくするための「未来に向けて」

  • 語り手

    レンジ、地元の人、発展関係者の団結力と努力の結晶なのだ。

  • 崖につかまって
  • ボクくん

    やーっとついた…

  • ボクくん

    レンジー!

  • ボクくん

    …

  • ボクくん

    おれの声は聞こえているかー!?

  • 環境音

    ざぁぁぁああんん…
    ざぁあああん――

  • ボクくん

    おれ、今から海にもぐっからよお

  • ボクくん

    いたら、呼吸できるようにしてくれ

  • ボクくん

    たのむ!

  • 語り手

    もちろん、返事はない。

  • 語り手

    結果的に言うと、失敗した。

  • 語り手

    足はつかないし、とても冷たくて怖かった。

  • 語り手

    レンジがそばにいてくれた時は

  • 語り手

    こわいものなんてないし、不安なんてなかったはずだった。

  • 語り手

    この時の私は完全に自信を失っていた。

  • 語り手

    地元の子供たちと遊んでみた。

  • 語り手

    仲良くは、なれなかった。

  • 夜。
  • 語り手

    親父とディナーの予定だったが、気分が乗らなかった。

  • ボクの父

    地元の友達と喧嘩したんだろ

  • ボクの父

    お前、妙に大人の真似事するからな

  • ボクの父

    だから寄り付かないんだよ。

  • ボクくん

    うるせえなあ クソおやじ!!

  • ボクの父

    おお!ひさしぶりに呼んでくれたじゃないか!!

  • ボクくん

    俺は真剣なんだよ!!変態!ばーか!!

  • 語り手

    私はめしを買ってくると声をかけ、事業所を飛び出した。

  • 語り手

    夜空をボケーッと眺めながら、スコップを引きずって、海岸通りを歩く。

  • ボクくん

    …はあ。

  • 語り手

    こんなにもおなかが空かないのは産まれてはじめてかもしれない。

  • 語り手

    妻と大喧嘩をした時と似た気持ちだ。

  • 語り手

    はじめてではなかった。

  • ボクくん

    もう、この世界にいる必要なんて、私にはない気がする。

  • ボクくん

    そもそも、親父との関係を修復するためだけに「このセカイに来た」だけだと思う。

  • ボクくん

    レンジに逢えるのは「ワタシ」ではなく「ボク」なのだ。

  • ボクくん

    ボクに身体を返してあげて、ボクのためにレンジに逢わせてあげたい。

  • ボクくん

    すまない、ボク。
    すべて、私のせいだ。

  • 語り手

    気がつくと

  • 語り手

    星空が、輝いて、まぶしい。

  • 語り手

    今日は十分がんばった。

  • 語り手

    深い海にも潜ったし、慣れない子供の世話をした。子供の演技だってするのも一苦労なのだ。

  • 語り手

    「大人はもう二度と子供には戻れない。」

  • ボクくん

    …

  • ボクくん

    あれ、スコップ…

  • ボクくん

    スコップどこだ!?

  • 語り手

    気がつくとスコップを落としてしまっていたらしい。

  • ボクくん

    !!

  • 語り手

    後ろを振り向くが、すぐ近くはなく、かなり前に落としてしまったのかもしれない。

  • 語り手

    後戻りをしようとした。

  • 環境音

    カンッ、カカンッ、カンッ

  • ボクくん

    ・・・

  • ボクくん

    なんのおとだ?

  • 環境音

    かんっ、かんっ、かんっ

  • 語り手

    まわりを見渡しても、音を鳴らしている人はいない。

  • 語り手

    それ以前にこの音は、ボクのスコップの音だ。

  • ボクくん

    レンジ…?

  • 環境音

    カンカン・・・カン・・・

  • ボクくん

    まって!

  • 語り手

    音をリズムよく鳴らしている。

  • 語り手

    昔、聞いたこと、ある。

  • 語り手

    ――いつの頃か、忘れたが――

  • ボクくん

    れんじっまって

  • 語り手

    ボクは音をたよりに追いかけた。

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