そんな灯りをくれるのは、この街でお前くらいだ
「なあスモーキー、お前は大人なのか?」
「なんだ、藪から棒に」
「大人なら、俺と酒が呑めるだろう?」
無名街の無数に在るねぐらの一つ、暗く埃っぽい部屋。その部屋とよく調和するありあわせの廃棄物で作られたテーブルの上に、カインは小さな洋酒の酒瓶を置いた。表面のラベルにはうっすらと港町が見える。テーブルの上に置かれた小さな灯りでは、不透明な瓶に収まる液体は透けない。しかし部屋の主であるスモーキーにとっては、この暗さも、カインの態度も慣れた世界だった。
カインは度々無名街を出る。稼ぎを求め街を出ていく住人は珍しくない。特に親しくしているシオンにだけ、時折土産を渡していることもスモーキーは知っている。
シオンにむける親しさと危ういやり取りとは別に、カインはスモーキーと語りたがった。語らいで愛情を得たい、思索や見識を深めたい、そんな殊勝な熱意を、スモーキーはついぞカインから向けられることはなかった。
無名街で崇められ始めた痩せぎすを言い負かし、惨めに落ちた鳥を踏みにじりたい。そんな暗い執念が、いつも瞳の奥でごうごうと燃えている。それはそれは不変の炎なので、スモーキーはとても愉快だった。
カインはその内なる炎を消せないために、何度外の世界を見に行っても結局無名街に帰ってきた。
「年なんて知らねえ」
「それは俺も同じだよ、でももうしばらく背は伸びてないだろ」
「単純な定義だな。無名街で背が伸び続けるやつなんてどれだけいる?」
「お前はよく育った方だろ」
「それにしても珍しいな、俺に外の土産なんて」
「そうだ、俺がお前になにかやるのは初めてだったなあ」
「シオンにくれてやった方が、俺より喜んでもらえるだろうに」
「シオンはまだ子どもだ」
「俺に毒でも盛るのかな」
「盛られるような覚えでもあるのか?」
「あるさ。お前を名付けたときから、お前の中に、ずっと」
無名街は昼夜問わず暗い。火も電気も常に足りないし、屋内に進むほど部屋の中に差し込む光が減って暗くなる。しかしそこに人間が生きてさえいれば、老い若い関係なく、どこも眩しい。眩しさを内包しているこの街の人間を、スモーキーは愛している。
こちらを潰すつもりで強い酒を選んだはいいが、唆されて先に何杯も飲んで潰れてしまったカインだって、愛おしい灯りだった。
「なんだ、藪から棒に」
「大人なら、俺と酒が呑めるだろう?」
無名街の無数に在るねぐらの一つ、暗く埃っぽい部屋。その部屋とよく調和するありあわせの廃棄物で作られたテーブルの上に、カインは小さな洋酒の酒瓶を置いた。表面のラベルにはうっすらと港町が見える。テーブルの上に置かれた小さな灯りでは、不透明な瓶に収まる液体は透けない。しかし部屋の主であるスモーキーにとっては、この暗さも、カインの態度も慣れた世界だった。
カインは度々無名街を出る。稼ぎを求め街を出ていく住人は珍しくない。特に親しくしているシオンにだけ、時折土産を渡していることもスモーキーは知っている。
シオンにむける親しさと危ういやり取りとは別に、カインはスモーキーと語りたがった。語らいで愛情を得たい、思索や見識を深めたい、そんな殊勝な熱意を、スモーキーはついぞカインから向けられることはなかった。
無名街で崇められ始めた痩せぎすを言い負かし、惨めに落ちた鳥を踏みにじりたい。そんな暗い執念が、いつも瞳の奥でごうごうと燃えている。それはそれは不変の炎なので、スモーキーはとても愉快だった。
カインはその内なる炎を消せないために、何度外の世界を見に行っても結局無名街に帰ってきた。
「年なんて知らねえ」
「それは俺も同じだよ、でももうしばらく背は伸びてないだろ」
「単純な定義だな。無名街で背が伸び続けるやつなんてどれだけいる?」
「お前はよく育った方だろ」
「それにしても珍しいな、俺に外の土産なんて」
「そうだ、俺がお前になにかやるのは初めてだったなあ」
「シオンにくれてやった方が、俺より喜んでもらえるだろうに」
「シオンはまだ子どもだ」
「俺に毒でも盛るのかな」
「盛られるような覚えでもあるのか?」
「あるさ。お前を名付けたときから、お前の中に、ずっと」
無名街は昼夜問わず暗い。火も電気も常に足りないし、屋内に進むほど部屋の中に差し込む光が減って暗くなる。しかしそこに人間が生きてさえいれば、老い若い関係なく、どこも眩しい。眩しさを内包しているこの街の人間を、スモーキーは愛している。
こちらを潰すつもりで強い酒を選んだはいいが、唆されて先に何杯も飲んで潰れてしまったカインだって、愛おしい灯りだった。
