実質ハロウィン

 報酬に札束だけでなく小さな飴までもらった。 そういえばそういう日だった。雅貴は喜び勇んで街へ出た。多分今晩は帰らない。飴は包装から見るに好きな味ではなかった。持て余してサイドテ ーブルに置く。明日雅貴にあげればいい。なんだかんだ言いながら喜ぶ。
 広斗は横になればすぐ眠れる方だったから、平時のように何も考えずに目を閉じた。
 気がつくと、視界は開けているのに身体が動かない。黒っぽいもやが足元を押さえつけている。 目を凝らす。もやは段々明るくなる。埃と汚れでくすんだモスグリーンの上着、白くてパサパサに乾燥した髪、痩せこけて眼光の強さが増した瞳、 薄い唇、は最後にニヤリと口角を持ち上げた。知っている顔だ。猫のように身体を丸めて、顔だけこちらに向けて笑っている。
 声が出ない。重たさは胸の上まで上がってくる。 お前、出る場所間違えてんだろ。
(まだ夜は長い。家族の元にも行くが、お前が早寝だったからな)
 頭に声が響く。無名街にもハロウィンの習慣は あるのだろうか。そもそもこの亡霊自体がイタズラめいている。菓子も欲しがるのか、もしかして。
(欲しい。家族からは取れないからな)
 即答。サイドテーブルの飴へ視線をやると、胸元からフッと笑いが漏れる。広斗が視線を戻すと、 もう胸の重しは跡形もなく消えていた。
 なんだよ、 別れを惜しむ暇もねえとか。目を閉じると、睡魔が身体を覆う。
 もうすぐ、二年だ。
(初出2019.11.1)
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