思い出オーバーラップ
今日用事があったのは区役所の五階の窓口だった。行きは急いでいたから古びたエレベーター、帰りは別れ難いから階段の方へ。誠司の選んだ方へ、新太は素直に着いていく。 区役所の年季の入った階段は、塗装の剥げていないところを探す方が難しい。
「なんかこれさ、思い出さない?」
誠司の言葉に、新太は首をかしげた。
「団地の階段の壁にさ、ちょっと剥げてるところがあって、楓士雄とドカがそこをベリベリ破ってさ、めちゃくちゃ怒られてた」
一瞬足を止めた新太の、アーモンド形の瞳が輝く。それからすぐに、穏やかな笑顔。
「思い出した、結局オロチ兄弟の部屋の前まで破って」
「楓士雄、『なんかスイッチ入っちゃって……』って言ってね。新太も、今みたいな顔してた」
「そうだっけ……」
「見てたら思い出した」
「あ、」
踊り場に降りた新太のスニーカーのつま先が、斑になった塗装に引っかかる。元は白く塗られていた地面に虫食いが広がった。
新太は反射的に、剥がれた欠片をつま先で元の場所に押し戻す。俯いてちまちまと修復する姿はちょっとかわいい。
「えい」
正面に立って、戻された破片をずらした。
「えっ戻したのに・・・・・・近」
「スイッチ入ったんだよ、ちょっとだけど」
「なんかこれさ、思い出さない?」
誠司の言葉に、新太は首をかしげた。
「団地の階段の壁にさ、ちょっと剥げてるところがあって、楓士雄とドカがそこをベリベリ破ってさ、めちゃくちゃ怒られてた」
一瞬足を止めた新太の、アーモンド形の瞳が輝く。それからすぐに、穏やかな笑顔。
「思い出した、結局オロチ兄弟の部屋の前まで破って」
「楓士雄、『なんかスイッチ入っちゃって……』って言ってね。新太も、今みたいな顔してた」
「そうだっけ……」
「見てたら思い出した」
「あ、」
踊り場に降りた新太のスニーカーのつま先が、斑になった塗装に引っかかる。元は白く塗られていた地面に虫食いが広がった。
新太は反射的に、剥がれた欠片をつま先で元の場所に押し戻す。俯いてちまちまと修復する姿はちょっとかわいい。
「えい」
正面に立って、戻された破片をずらした。
「えっ戻したのに・・・・・・近」
「スイッチ入ったんだよ、ちょっとだけど」