鬼耶区役所には一般に開放された食堂がある。公共施設に併設されている食堂らしく、安くて、具は多くなくて、味はまあ、慣れるとこんなもんかと思う。誠司がそんな食堂事情を実感を伴って知ったのは最近のことだ。
　何を頼めばいいか迷った新太が安いし、と選んだうどんを真似して頼んだら、まあ、それなり以下の味だった。麺はともかく、出汁か水か、普段食べ慣れている味と大いに違う気がする。値段に値段なりの理由があった。
　ちらりと隣の新太を見ると、新太も器を見ながら眉間に皺を寄せている。誠司の視線に気がつくと、新太は困ったように笑った。こういうとこもあるんだね。
　新太は言葉にこそしなかったが、我慢して何も言わない、何も言えないときほど新太の気持ちはわかりやすい。今回は優しさが先行していることも、すぐにわかった。
　しかし頼んでしまったものは仕方がない。二人は苦笑いを交わして、せめて冷めてしまう前にと、無言で目の前のうどんを啜った。