悪い子より愛を込めて

 夜、安全な自宅を抜け出すのは悪い子だ。でもこの団地は悪い子の方が多い。
 楓士雄は他の棟のヤツと、俺は誠司と、公園に落ちたBB弾を拾っている。学校帰りにも見つかるけど、朝の方がたくさん落ちている。でも早起きして探すより、夜中に探す方が大人な気がしたのだ。
「新太、眠くない?」
「大丈夫だし…」
 本当は昨日も夜抜け出したから眠い。あくびを噛み殺す。
 パン!
 甲高い発砲音が静まった公園に響いた。眠気が一瞬で吹き飛ぶ。遊具の影に二人で身をひそめる。飛び出しそうな心臓を押さえる代わりに、誠司の手を握る。
 発砲音のあと、ガサガサと人が走っていく音が続く。制服姿の中学生…いや高校生?ゲラゲラ笑いながら銃と懐中電灯を向け合い、また発砲音が響く。一人が遊具の影に隠れようとしたのか、光と気配が近づいてくる。光の筋がゆらゆらと足元をかすめる。連続する発砲音。
「いってぇ!頭はアウトだろ!!」
 高校生は弾の撃ってきた方向に、ぐるりと振り返って叫んだ。撃った相手も見つけたのか、気配と光が遠ざかる。
 ずっとドキドキしていた心臓が普段通りになるまで、唇を噛みながら誠司を見ていた。誠司も同じように、うっかり叫ばないようにじっと俺を見ていた。

 しばらくして楓士雄たちと合流した。
「なんか、もうよくね?」
 楓士雄はあくびをしながら、公園を出ていこうとする。
「なんで?」
「だってこれ、あいつらの遊んだ『あと』だろ。なんかそう思うとさー。もういいかなーって。新太、いるならやるよ」
 必死で集めていた色とりどりの粒は、年上の不良のおこぼれだった。それに気づいた楓士雄は急に冷めてしまったらしい。高校生が来るまでに集めたであろう、よく見るうすだいだいや白色の弾に、珍しい半透明の赤や青の弾。二十個あまりの弾が俺の手のひらに乗せられた。
 取り残されては危ないから、誠司も俺も楓士雄が帰るのに合わせて帰ることになる。ポケットの中でBB弾が揺れている。もうこれから増えることはないけれど、家にはこれまでに集めたものも結構残っている。
「新太も、もう集めるのやめる?」
「多分」
「じゃあさ、団地に埋めない?」
 きっと大量のBB弾を見つけた下級生は喜ぶだろう。誠司の提案に乗って、翌日俺たちはまた夜中に二人して家を抜け出し、団地のあちこちへ埋めた。



「わ、すごい荒れっぷり」
 誠司が思わず洩らした言葉に、荒らした原因の俺は何も言えない。
 鬼耶高から持ち込まれた紙くずやゴミで余計に汚れた中庭を通り抜け、かつて住んでいた棟の窓側へ向かう。誠司と俺の部屋のちょうど中間地点の垣根に、特にきれいな色のBB弾だけを誠司の分も併せて埋めた。掘り出すと、すぐにBB弾を詰めたビタミン剤の瓶が見つかった。案外誰にも見つからずに埋まっていたらしい。夏の日差しにかざすと、半透明のBB弾の影は赤や青に色づいた。
「ほんとにこんなの供えて大丈夫かな」
「食べ物みたく腐らないし、お下がりで分けなくていいし、いいんじゃね。今度こそ誰か持っていくかもしんないし」
「まだBB弾流行ってるかな」
「流行ってるだろ、きれいだし」
 駄菓子や飲み物の他に、思い出のものも供えられたらと言い出したのは誠司だった。思い出のもので、なおかつ供えてもいいと思えるものは意外と少ない。あわよくば、肝試しをする子どもたちの景品になればいい。サダ婆は化けて出るような人じゃないし、子どもには優しかったから多分許してくれるだろう。
(大人になったら、もっといいもの持ってくるからね)
 きっとその時も誠司を誘っているんだろう。日差しも照り返しも蒸し暑い墓前で手を合わせる。内心約束してみたものの、『もっといいもの』が何なのか、俺にはまだわからない。
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