ROCKYは正しく生きている。突如SWORD地区に蔓延した謎の動く死体、特に女性と子どもの死体を一切殺さない……殺せないのだ。
　私や多くの仲間たちは、心を閉ざして、動く死体たちをエイリアンのようなものだと割り切っている。淡々とビッグスクーターで轢き、杖で頭を叩き潰し、そうして今うろついている死体の数を着実に減らせば、感染元が減る。噛みつかれたり、死体の体液を取り込んだりしない限り、それには感染しない。
　だが、ROCKYは割り切っていなかった。女性と子どもは弱者だ。しかも、彼女らはROCKYが「助けられなかった」弱者だ。それは母と姉であり、売り飛ばされた女たちであり、何もできなかった幼い自分だ。かつて店で見た顔だろうが知らぬ顔だろうが、そこに違いはない。助けからこぼれ落ちた彼女らに、手をあげることはできなかった。例えそれが、今生きている弱者を脅かす遠因になったとしても。
　ROCKYは常々「悪あがきだ」と言いながら、きっと成人していただろう男の死体だけを始末した。ROCKYの事情を知っているホワイトラスカルズの面々は、彼の代わりに進んでかつての弱者を殺した。
「ROCKY、誰もあなたを責めません」
「あなたはそれでいいのよ。生き方を捻じ曲げて生きたって、それは正しく生きていることにはならないでしょ？」
　KAITOは無言だが、私やKIZZYと心は同じだろう。悪魔になるのは、悪魔になれてしまうのは私達だけで十分だ。悪魔になれなかったROCKYは、いつかこの騒動が収まったら、清らかな身で生きている弱者を救ってくれるだろう。
（あなただけは染まらないでください）
　ROCKYの内に吹き荒れる葛藤の嵐を想いながら、私は今日も彼のすぐ後ろで祈っている。