あれから

同類

「呪いのショート動画急上昇!『見たら死ぬ』は本当?Z世代には『懐かしさが目新しい』」
 AIがまとめたであろうSNSニュースの見出しに、ピンとくるものがあった。サムネイルは見覚えのある画面。リンクを開く。
「これ見たら死ぬ動画らしいw」「こんなん音と色でびっくりさせてるだけ。しょーもな」「レトロな作りしててこれはこれで」「見ちゃったんだがー……」「結構こういうの好き」などなどの反応。
 そして転載されている動画は、もちろんあの女の出ているものだ。
「おい、なんでデータまだ残ってんだよ。流行るなよ!邪魔なんだよ!!」
 クソが、と床を踏み鳴らしたいが、たくみが起きて泣いてしまうからできない。
 せっかく穏やかな午後だったのに。
 もう窓の外に赤いコートの女の気配がある。さっきまで晴れていて自然光が降り注いでいたのに、部屋に嫌な陰りが落ちる。だが恐怖よりも怒りが勝った。
 彼女とは度々すれ違うが、たくみを取り戻した私は呪う対象ではなくなってしまったらしく、気づけばいつの間にかいなくなっている。
 でも今日だけは、今日だけは私のテリトリーを荒らされたんだから。
 窓を開いて、虚空の双眸と対峙する。
 血まみれの顔でも掲げた両腕でも何発か殴ってやる。
 そんな気持ちで向き合ったのに。

 瞬間、ただお互いに「わかった」だけだった。
 相手に牙を向ける意味がないこと、同じ言語を解すること。
 私はようやく気がついた。
 自分の名前までましらさまに差し出してしまった、あの女だけが。
 私の唯一の同志なんだ。

 いつの間にか彼女は消え失せていて、たくみの泣き声で私は我に返った。部屋に差し込む午後の光は穏やかで、どうやら彼女との邂逅は一瞬だったらしい。
「あーっごめんねえ、お腹すいたねえ」
 ふにゃふにゃと泣くたくみを抱きあげる。最近は身代わりの動物ばかりだったし、そろそろ人も食べなければ。
「お母さん、頑張るからね」
 彼女も、きっと同じように話しかけている。
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