早春散歩

清々しく晴れた早春の真っ昼間、明るく正しさの権化のようなこんな日に、誰が自分の死を予測できるだろう?車の後部座席から空を見上げると、薄い雲が風に押し流されている。あの呆気ない雲のように、これから人の命が奪われる。俺の手の中には、奪う手段が握られている。血なまぐさい仕事には慣れているが、今までの俺とは違うのだ。
車は目的地より少し手前に止められた。できるだけ静かにドアを開けると、冷たく強い風が、車内にどっと流れ込む。
「楽しみにしているぞ……"二階堂"」
俺はこれから新しい名前で呼ばれる。新しい名前は俺に吹く春の風だ。忌々しい過去を全て押し流して、元の形が見えなくなるほど、遠くへやってくれる。車に乗る前に叩かれた肩を思い出しながら、俺は光の中に飛び出していく。
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