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♡ありがとうございました!

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【傷跡に消毒のキス】

額の傷跡に唇を触れさせると、バロック様はいつも、少し不機嫌そうな表情をする。

ある日、『どうして、そうも嫌そうになさるんですか?』と尋ねたら、逆に訊き返されてしまった。

「……お前こそ、どうしてわざわざ口付けたがる?」

こんな大きな傷跡など見ていて気持ちの良いものでも無いだろう、と、バロック様は隠すように手で額を覆った。
確かに目立つ位置にある傷跡だし、人目を引いてしまうだろう。バロック様が気にするのも無理はないと思う。
しかし、私は、『バロック様を傷つける言葉かもしれない』と不安を抱きながらも、どうしても言わずにはいられなかった。

「私は、バロック様のその傷跡が好きです。だから、消毒してるんです」
「消毒?」
「ええ。一日も早く、傷跡が無くなりますように、って」

バロック様が、僅かに瞠目した。
まだバロック様の前で働き始める前のことなので噂話程度にしか知らない情報だが、バロック様の額の傷は、悪漢に襲撃された際にできたものらしい。
もともと、悪事を裁く検事の仕事は恨まれやすいだろうに、バロック様の場合は、加えて『死神』の件もある。
そんな敵だらけの状況の中でも、バロック様は検事として、悪人に裁きを与え続けた。
額の傷は、その心の強さの象徴だ。

「……私の願いは、バロック様のその傷が消えるまで、ずっと貴方の傍にいることです。
花に水を与えるように、私は毎日だって、貴方の傷跡に愛情を注ぎたい。刻まれた跡が薄くなるように、唇に願いを込めて、祈り続けたいんです」

勿論、私のキスに、魔法のような力はない。
でも、はるか遠い島国には百日間毎日神様を参るなんて風習もあるらしいし、絶やさず願っていれば、きっと神様だってちょっとは贔屓してくれる。そう信じている。

バロック様は私の言葉にしばらく黙っていたが、やがて額から手を下ろすと、ほんの僅かに口角を上げた。付き合いの長い者ではないとそうとわからない、ささやかな笑み。

「……なら、この傷が治ったら、もう傍にはいてくれないのか?」

答えなんてわかりきっているのに、わざわざ聞いてくるあたり、バロック様も意地悪だ。
答えの代わりに、私はうんと背伸びをして、バロック様の唇に口付けた。

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