Swordsman joke

「お、あんたか。おはよう。青騎士団の連中は、朝から元気だな」
「おはようございます、フリック殿。彼らの早朝鍛錬は、ここでもすっかり名物になりましたね。かれこれ一時間前くらいからおこなっているのではないでしょうか」
 青騎士団長マイクロトフの指導のもと、朝の鍛錬に精を出す青騎士団を上階から眺めていたカミューが、この本拠地の「美青年」仲間であるフリックと朝の挨拶を交わした。フリックはカミューのやや後ろに立ち、声を張り上げている青騎士団を見下ろす。
「赤騎士団はやらないのか?」
「合同鍛錬ならば時折行いますが、その場合は今くらいの時間から開始ですね。私は彼ほど早起きが得意ではないので」
「この時間でも充分早いと思うが……あいつはいったい、何時に起きてるんだ?」
 フリックの言葉に、カミューは苦笑する。今朝だってもう少し寝ているつもりだったのに、床で寝ていた同室のマイクロトフが立てる物音で起こされたのだ。「いくらなんでも早過ぎるだろう……ここはお前一人の部屋じゃないんだぞ……」とベッドの中から文句を言うと、「何を言う。騎士たる者、日頃の鍛錬を怠るべからず。人の少ない今だからこそ、存分に場所を使うことができる。お前もいつまでも寝ていないで、部下たちの手本となったらどうだ。この軍の一員としても、怠慢は許されんぞ」と返ってきたのである。それでもなかなかベッドから出ようとしないカミューを置いて、マイクロトフはさっさと部屋を出て行ってしまった。相変わらず、鍛錬に関しては厳しい男だ。
 少しの間があって、カミューが「ああ、そうだ」と言ってフリックを振り返った。フリックは何事かと目を瞬いた後、話を聞くべく姿勢を正す。
「あなたのお顔を拝見して思い出しました。以前ヒックス殿とお話する機会があった際に聞いたのですが、彼の出身地である戦士の村では、男性は自らの剣に最も大切な者の名を付ける風習があるそうですね。ヒックス殿の剣は彼の想い人であるテンガアール殿の名を冠しているのだと、恥じらいながらも教えてくれました。そしてフリック殿も戦士の村の生まれである、と」
「と、唐突だな。あいつ、余計なことを喋りやがって……」
「お会いしたのが酒場を出てすぐの場所でしたからね。酔いが回ってすっかりいい気分になっていたようで、それは色々なお話をしてくださいましたよ。テンガアール殿との惚気話も聞かされました」
「……」
「……それで? フリック殿は、その剣にどのような名を付けていらっしゃるのですか?」
 そら来たと、フリックは俯いて溜め息を吐いた。その様子に、カミューは不思議そうに首を傾げる。
「何かお聞きしてはいけない事情でも?」
「いや、そういうわけではないんだが……朝っぱらからこんな所で話したいもんじゃあないし、少し長くもなる。だから気が向いたらそのうち、な」
「そうなのですか? それはますます気になりますね。ぜひとも気が向かれることを願っております」
 フリックの表情に一瞬陰りが見えたことから、あまり明るい話ではないのだろうと想像はついた。カミューは率先して鍛錬に励むマイクロトフへ再び視線を遣ると、たった今思いついたことを口にする。
「それにしても、やはり素敵な風習ですね。……いっそのこと、私も真似てみるべきか……」
「ん? ……おい、待て。まさか……!」
 親友を凝視しながら呟いたカミューに、フリックは顔を強張らせた。「マチルダ騎士団からやってきた元赤騎士団長殿と元青騎士団長殿はデキているらしい」という噂は聞いているが、目の前でそれを見せつけられるだなんて御免な上に、騎士の魂が宿る愛剣の名は、その場のノリで軽々しく変えて良いものでもないはずだ。
 フリックの静止の声に、カミューはややあってからそれまでの真剣な表情を崩し、ぷっと小さく吹き出した。そして、
「もちろん冗談ですよ。恋人ではなく同性の友人の名を冠するなど、前例がないでしょう? ですが、この剣を彼の名で呼んだ時の反応は少し……いえ、かなり見てみたいですね。いったい、どんな顔をするのやら」
 くすくすと笑いながら言うカミューを、フリックは呆れ顔で見つめる。それからようやく鍛錬を終え、ずらりと並んだ青騎士たちに向かって再び声を張り上げている生真面目な元青騎士団長へ、やや同情を含んだ視線を向けたのだった。

 この日の、昼下がり――
 カミューが自らの愛剣の名を本当に変えることはさすがになかったが、フリックと話していたことを聞かされたマイクロトフは「それは絶対にやめろ。色々と誤解が生じそうな上に、俺も周りも間違いなく気まずくなる」と、固く止めたという。
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