約束
「うーん……」
「どうしたんだ?」
鏡を覗き込み何やら唸 っているカミューへ、マイクロトフが不思議そうに問いかけた。
この部屋の主であるカミューには先ほど彼の生まれ故郷の家族から手紙が届いたばかりで、マイクロトフも開封を見守っていた。さすがに手紙を共に読むことはなかったが、同封されていた小さなお守りは赤色と青色の二つで、お守りを作ったカミューの母が息子の親友のマイクロトフの身まで案じてくれていることに、二人で少なからず驚いたものだ。
繊細な花の刺繍が施された青色のお守りを大切そうに手にしているマイクロトフに、カミューはなおも鏡に映る己 の顔を見つめながら答える。
「私の家族の元に、ごく最近の私が描かれた絵が届いたそうなんだが……なんでもそれが、若かりし頃の父とそっくりだと言われてな。私はてっきり自分は母に似たのだと思っていたが、子供の頃に見ていた父の顔は、確かに今の私とよく似ていた気がするんだ」
「そうなのか」
つまりカマロには異様に顔面偏差値の高い男が以前から存在し、美男子が自分そっくりの新たな美男子を生み出したということになる。己が容姿・性格共に父によく似ていることも含め、つくづく遺伝とは恐ろしいものだと、マイクロトフは思う。
「ではカマロへ行けば、お父上を介して未来のお前が見られるということか」
マイクロトフの言葉に、カミューは一瞬目を丸くした後にはは、と笑う。
「かもしれないな。今の父の顔がどうなっているかは分からないが、父を見れば年を重ねた私の顔はだいたい想像できる可能性が高い。まさかあの顔にゴルドー様のようなご立派な髭は生やしていないだろうし……」
「……それは嫌だな」
「うん、私も嫌だ」
二人は顔を見合わせ、ふ、と小さく吹き出した。ようやく鏡の前から戻り向かい側の椅子に腰掛けたカミューに、マイクロトフは珍しく柔らかな表情で続ける。
「余計に行ってみたくなったな。お前の故郷に」
「そうか。だが我々の今の立場や日々の状況からして、二人揃って行くことはまず不可能だろうな。それこそ団長職を退いた後か、騎士団そのものから引退した後か……何年後になるか分からない。それでも行ってみたいという気持ちが変わらなければ、その時は私が案内しよう」
「ああ、ぜひ頼む。……なんとしてでも生きねばならない理由ができたな」
「はは、大袈裟だな。だが、先の楽しみが一つ増えた。共に行けるといいな」
ここロックアックスから、カマロの地までは遠い。現在の気力も体力もある二人ならばまだしも、現役騎士を引退しなければならないほどに年を取った二人が向かうにはあまりにも長い道のりで、決して楽しいだけの旅にはならないだろう。
それでも、親友に――その実この世で唯一愛する男に、己の故郷を見せることができるのならば。
それでも、親友の――その実この世で最も愛しく思う男の故郷を、この目で見ることが叶うのならば。
確実性があるとは言えない遠い約束を交わした二人だったが、この日から数年後にマイクロトフとカミューの人生は大きく変わり、デュナン統一戦争終結後に親友から恋人同士の関係へと変わった彼らの約束は、晴れて果たされることになるのである。
「どうしたんだ?」
鏡を覗き込み何やら
この部屋の主であるカミューには先ほど彼の生まれ故郷の家族から手紙が届いたばかりで、マイクロトフも開封を見守っていた。さすがに手紙を共に読むことはなかったが、同封されていた小さなお守りは赤色と青色の二つで、お守りを作ったカミューの母が息子の親友のマイクロトフの身まで案じてくれていることに、二人で少なからず驚いたものだ。
繊細な花の刺繍が施された青色のお守りを大切そうに手にしているマイクロトフに、カミューはなおも鏡に映る
「私の家族の元に、ごく最近の私が描かれた絵が届いたそうなんだが……なんでもそれが、若かりし頃の父とそっくりだと言われてな。私はてっきり自分は母に似たのだと思っていたが、子供の頃に見ていた父の顔は、確かに今の私とよく似ていた気がするんだ」
「そうなのか」
つまりカマロには異様に顔面偏差値の高い男が以前から存在し、美男子が自分そっくりの新たな美男子を生み出したということになる。己が容姿・性格共に父によく似ていることも含め、つくづく遺伝とは恐ろしいものだと、マイクロトフは思う。
「ではカマロへ行けば、お父上を介して未来のお前が見られるということか」
マイクロトフの言葉に、カミューは一瞬目を丸くした後にはは、と笑う。
「かもしれないな。今の父の顔がどうなっているかは分からないが、父を見れば年を重ねた私の顔はだいたい想像できる可能性が高い。まさかあの顔にゴルドー様のようなご立派な髭は生やしていないだろうし……」
「……それは嫌だな」
「うん、私も嫌だ」
二人は顔を見合わせ、ふ、と小さく吹き出した。ようやく鏡の前から戻り向かい側の椅子に腰掛けたカミューに、マイクロトフは珍しく柔らかな表情で続ける。
「余計に行ってみたくなったな。お前の故郷に」
「そうか。だが我々の今の立場や日々の状況からして、二人揃って行くことはまず不可能だろうな。それこそ団長職を退いた後か、騎士団そのものから引退した後か……何年後になるか分からない。それでも行ってみたいという気持ちが変わらなければ、その時は私が案内しよう」
「ああ、ぜひ頼む。……なんとしてでも生きねばならない理由ができたな」
「はは、大袈裟だな。だが、先の楽しみが一つ増えた。共に行けるといいな」
ここロックアックスから、カマロの地までは遠い。現在の気力も体力もある二人ならばまだしも、現役騎士を引退しなければならないほどに年を取った二人が向かうにはあまりにも長い道のりで、決して楽しいだけの旅にはならないだろう。
それでも、親友に――その実この世で唯一愛する男に、己の故郷を見せることができるのならば。
それでも、親友の――その実この世で最も愛しく思う男の故郷を、この目で見ることが叶うのならば。
確実性があるとは言えない遠い約束を交わした二人だったが、この日から数年後にマイクロトフとカミューの人生は大きく変わり、デュナン統一戦争終結後に親友から恋人同士の関係へと変わった彼らの約束は、晴れて果たされることになるのである。
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