喧嘩せずとも仲がいい

「マイクロトフさんとカミューさんって、ケンカしたことはないんですか?」
 うららかな昼下がりの、新同盟軍の本拠地。この軍のリーダーを務める少年・リオウからの問いに、ティーカップを優雅に傾けていたマイクロトフとカミューは、反射的に顔を見合わせた。リオウの隣でケーキを頬張っていたナナミも「あっ、それ私も気になる!」と身を乗り出し、元騎士団長たちは好奇心にキラキラと目を輝かせる少年少女の熱視線を浴びる。
「ナナミ殿、お喋りはお口の中の食べ物を飲み込んでからにしたほうがいいですよ」
「あっあっ、ごめんなさい! 〝レディ〟なのにはしたないよね」
「女性に限らず、男も同様です。黙食しろとは言いませんが、先程のナナミ殿は、口いっぱいに木の実を頬張ったリスのようだったので」
「……」
 カミューの指摘に、さすがのナナミも恥ずかしそうに頬を染めて俯く。そんなナナミに「ですが、そんな貴女もお可愛らしい」とフォローを入れてから、カミューは再びかたわらのマイクロトフに視線を戻した。マイクロトフはフォークもティーカップもテーブルに置き、話が終わるまで飲食はしないことに決めたようだ。
「喧嘩、か。したことなどあったか?」
「少なくとも、殴り合いの喧嘩はしたことが無いな。手が出たことも無い。ただ、互いの意見をぶつけ合って、私が先に口をつぐんだことなら何度か」
 カミューの言葉に、その時のことを思い出したのかマイクロトフが気まずそうに肩を竦めた。「何ですかそれは、もっと詳しく」と視線で訴えてくるリオウとナナミへ、マイクロトフは小さく咳払いをしてから続ける。
「……プライベートで言い争ったことは無いのですが、戦絡みの話で白熱したことはありましたね。俺とカミューの性質は、正反対なものですから」
「ご存知のとおりこの男は、考えるより先に体が動くタイプの人間ですからね。それが駄目だとは言いませんがほぼ毎回そうなので、熟考してから行動に移したい私とは意見が合わずに、その場を騎士団領に雪が降った日の朝のような空気にしたことならあります。大抵は力押しでなんとかなったのが彼の凄いところですが、ならなかった時もあって……」
「……ならなかった?」
 恐る恐る尋ねたリオウへ、カミューはふふ、と柔らかく微笑みながら答える。
「詳細は、マイクロトフの名誉のために伏せておくとしましょうか。これでも以前より多少は落ち着いたほうなんですよ。とはいえごく最近、マチルダ騎士団からの離反という大事件を起こしたばかりですが」
「そ、それは……! そういうお前だって、嬉々としてついてきただろう。お前と俺の部下たちの約半数を説得してまで」
「……とまあ、我々は大体このような関係性です。よって本気の喧嘩はしたことが無い、喧嘩にまで発展しないと言えますね」
「そうなんだ……」
「やっぱり仲良しなんだね! いいなあ。……リオウと、ジョウイだって……」
「……ナナミ」
 今は敵対関係にある幼なじみを思い出してしゅんと肩を落としたナナミへ、リオウが困り顔を向ける。そんな二人をマイクロトフとカミューはしんみりと見つめ、自分たちが敵対することにならずに済んで良かったと、ひそかに思ったのだった。
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