お前が何よりの贈り物

「カミュー。今、いいか?」
 部屋の外からの聞き慣れた男の声に、カミューは書類に目を通しながら「ああ」と短く答えた。
 姿を現したのは「親友」から「恋人」、そして「婚約者」の関係となったマイクロトフで、彼はどこか緊張した面持ちでカミューの部屋へと入ってきた。見れば背後に何かを隠しているようで、扉の閉め方がぎこちない。
「? 何を隠しているんだ?」
「……今日は、本来であれば男から女性に贈り物をする日だと聞いた。お前は男だが、今の俺たちは婚約関係にある上に、お前には相変わらず苦労ばかりかけている。だから……」
 そう言ってマイクロトフは、背後に隠していたものをカミューに向かって差し出した。それは赤い薔薇の花束で、見たところ、軽く10本以上はあるように見える。
「――日頃の感謝の気持ちだ。花など贈られて嬉しいかどうかは分からないが、部屋のどこかにでも飾ってくれ」
「……」
 きっと、マイクロトフなりに考えた結果なのだろう。確かにおのれはマイクロトフと同じ男である上に花を贈られて喜ぶようなたちでもないが、カミューにとっては「愛するマイクロトフが自分に贈り物をしてくれた」という事実が嬉しいのだ。約3年前の旅の最中さなかに贈られた、とある小さな村の露店で買ってくれた揃いの指輪、そしてつい先日贈られた婚約指輪同様に。
 だから、その気持ちを正直に伝えることにした。マイクロトフから「いや、嬉しいよ。ありがとう」と花束を受け取り、カミューは甘い笑みを浮かべながら言う。
「私は、お前が私に贈り物をしてくれるということ自体が嬉しい。揃いの指輪といい婚約指輪といい、こんなにもお前からの愛を与えられていいのか、と。……そういえば、今日はそんな日だったな。しまった、私も何か用意しておけば良かったな」
「気にしないでくれ。俺にとってはお前と過ごす日々が、お前自身が何よりの贈り物だ。お前が俺のそばにいてくれる、それだけで充分に満たされている」
「はは、それを言うなら私もさ。プレゼントはもちろん嬉しいが、何にも勝る一番のプレゼントは『お前』だよ」
 カミューが目の前の婚約者に顔を近付け、自らの額をマイクロトフの額にこつん、と合わせた。額と額を触れ合わせた二人は自然と顔を綻ばせ、カミューはふふ、と小さく笑い、マイクロトフもふ、と穏やかに微笑む。
「ところで、この薔薇は……12本か。確か、意味は……」
「『付き合ってほしい』『結婚してほしい』という意味だと聞いた。12本贈るのが定番だ、とも。既にお前とはそういったやりとりは済ませてしまっているが、花は何度贈ってもいいのだと、花屋の主人が……」
「また勢いに押されたのか。普段は自分が周囲を巻き込む側だというのに、どうしてお前は、そう……」
 人差し指で鼻の頭を軽くつつかれ、マイクロトフはむ、とわずかに口を尖らせる。そんな婚約者が可愛らしくてカミューはその唇へ自身の唇を軽く合わせると、花束を腕に抱えて部屋の奥へと歩いて行った。不意打ちのキスはやめてほしいと、マイクロトフは頬を赤く染めながら自らの唇を指でそっと撫でる。
「キスどころか、もっと凄いことだってさんざんしているだろう。いい加減慣れていただけませんか? 騎士団長殿」
「突然煽るのはやめていただきたいものだな、副長殿」
 マイクロトフの返しに、カミューは花束をテーブルに置いて蠱惑的に微笑む。
「……団長殿がお望みならば、今すぐにでもこの身をお捧げいたしますが?」
「……言ったな」
 煽ったのはカミューだ。マイクロトフは大股でカミューの元へと歩み寄ると己よりしなやかなその体を強く抱き寄せ、二人はもつれ合うようにしてベッドへとなだれ込んだのだった。
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