噂と真実

 やはり白騎士団の連中は苦手だと、マイクロトフは思った。特に、団長であるゴルドーに近しい者であればあるほど。例えただの騎士であっても彼らは傲慢さを隠そうともせず、慇懃無礼な態度を取ってくる。
 だからといって、青騎士団のトップであるおのれがへりくだる理由など無い。よってマイクロトフは堂々と胸を張り、白騎士たちから浴びせられる数々の嫌味をことごとく撥ね退けて終始冷静に対処した。
 しかしそれが気に食わなかったのか、とある白騎士が、去り際にこう言った――『お美しい赤騎士団長殿は清く正しい貴殿などより、我らがゴルドー団長とのほうがよほど〝懇意の仲〟であるようですぞ』と。
 いくら色恋事に疎い性分とはいえ、この言葉の意味が分からないマイクロトフではない。その場では平静を保ったものの、カミューの様子が明らかにおかしかった夜があったことを思い出したマイクロトフは、居ても立っても居られず駆け出した。友であり、想い人でもあるカミュー本人から直接真相を問いただすために。

 部屋へとやってきたマイクロトフをいつもどおり迎え入れたカミューだったが、親友の表情が硬く強張っていることに、カミューは目を丸くした。「どうした、マイクロトフ? 何かあったのか?」と問われ、勧められた椅子に腰掛けたマイクロトフは、しばしの躊躇の後に、静かに切り出す。
「――先程白騎士団の者から、こんな噂を聞いた。お前とゴルドー様が、懇意な間柄・・・・・である、と」
「!」
 向かい側のソファーに座るカミューが目を見開き、息を呑んだ。その反応にマイクロトフは思わず立ち上がり、大きく身を乗り出す。
「まさか、真実なのか!? では……では、お前の様子がおかしかった、あの日の夜に……!」
「……だとしたら、何だ?」
「……何?」
 カミューのまさかの返答に、マイクロトフはそのままの姿勢で固まった。マイクロトフを見上げるカミューの声音と表情はひどく冷めたもので、顔立ちが美しいだけにまるで無機質な人形のように見える。
「私がゴルドー様とそういう関係だったとして、お前に何か損があるのか?」
「なっ……」
「それとも、お前は俺の物だとでも? 付き合ってすらいないのに? ……しかし、驚いたな。あの夜のことを私たち以外に知っている者がいたとは。もしやゴルドー様が、白騎士たちに――」
 突如マイクロトフが動き出し、大股でカミューの元へと歩み寄った。彼は身を屈めて両腕を突き出すと、勢いよくカミューの体を引き寄せ強く抱きしめる。
 まさかの事態に唖然とするカミューの耳元で、マイクロトフは低く囁く。
「……いくらあの方と波風を立てたくないからといって、己の身を犠牲にするのはやめてくれ。お前はこの程度のことと思っていても、友の身と心が傷ついていたという事実に、俺は……」
「……」
 「お前は私の何なんだ」という気持ちと、この男が己の身を本気で案じてくれているというひそかな喜びの感情で、カミューの心が揺れる。さすがにそろそろ、真実を伝えるべきだろう。危うくはあったものの未遂に終わり、けがされてなどいないことを。カミューが己を抱きしめる逞しい腕を軽く叩くとマイクロトフは抱擁を緩め、目の前の親友を力なく見つめる。
「安心しろ、私は無事だ。ゴルドー様の寝所に呼び出され危うい目に遭ったことは事実だが、なんとか逃げてきたんだ。以降も何度か誘われたものの、一切応じないことにしている。私とて、好きでもない男と体の関係を持ちたくはないからな」
 カミューの言葉に、マイクロトフの強張ったままだった顔が安堵に緩んで行く。その様子を見たカミューは上目遣いでマイクロトフを見上げ、揶揄からかうように続ける。
「なんだ。そんなに私の貞操が守られたことが嬉しいのか?」
「当然だろう! 俺は友として、本気でお前の身と心を案じてだな……」
「本当か? 先程からのお前の態度を見ていると、どうにもお前が私の〝彼氏づら〟をしているように思えるんだが」
「そ、そこまでは……! ……いや、何と思われてもいい。お前が無事であれば、それでいい……そして今後も、危ない橋を渡るような真似はしないでほしい。頼む」
 カミューの両肩を掴んだまま、マイクロトフは真剣な顔で頼み込んだ。そのあまりの切実さにカミューが小さく吹き出し、「無茶ばかりしているお前にだけは言われたくないな」と返すと、マイクロトフはうっ、と言葉に詰まって口をつぐむ。
 ともかく、疑いは晴れた。これでひと安心――と言ったところだが、「ところで、いつまでこうしているつもりだ?」と突っ込まれたマイクロトフは慌ててカミューの肩から手を離し、しなやかなその体をようやく解放する。
 いつの日か、今ひと時味わった温もりを自分だけのものにし、身も心も満たされたい。そんな想いを抱きながらもマイクロトフとカミューは再び元の場所に座り直し、二人きりのティータイムを楽しむことにしたのだった。
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