お前にだけ

 今日の護衛は、恰幅の良い男ばかりが集まった行商人たち。そんな彼らと焚き火を囲んで昼食を摂ることになり、マイクロトフとカミューも地面に腰を下ろした。皆が座りひと段落ついたところで、行商人たちは二人の青年を口々に褒めそやす。
「いやぁ~お二方とも、やはりイイ男ですなあ。キリッとした男前と、我々と同じ男子とは思えぬ美人。特にそちらのお方は初め、男装の麗人かと思いましたよ」
「……本当に、女性ではなく? 座り方もお上品でいらっしゃるのに」
 一人の行商人の指摘で、マイクロトフも含めたその場の男たちの視線がカミューに集中した。見ればカミューはいわゆる「横座り」をしていて、まるでどこぞの淑やかな令嬢のように見える。完全によそ行きモードなのだろうと予想はついたが、そのせいで行商人たちがカミューをまじまじと見つめながら鼻の下を伸ばしており、マイクロトフは気が気でなかった。カミューがれっきとした男性であることはマイクロトフが一番よく知っているものの、行商人たちにとってはもしかすると……といった期待があるのだろう。
 この場に漂い始めた異様な空気を、カミューは愛想笑いを浮かべたまま一刀両断する。
「私は、純然たる男子です。体は男だが心は……などということもありません。これでも以前の居住地では、女たらしとして名を馳せていたのですよ」
「なんと! 遊び人でありましたか!」
「しかしこれほどの容姿の持ち主ならば、女たちがなびくのも無理はありませんなぁ。いや男であっても、思わず血迷ってしまいそうな」
 ――明らかに誤解されている。おのれは誑しではなく紳士だとさんざん言い張っていただろう。それでいいのかカミュー。一人でハラハラしているマイクロトフをよそにカミューは、行商人たちから次々と投げかけられる質問や賛辞に笑顔で応えている。
「にしてもこんなにお美しい方が相棒で、貴殿も大変ですなあ。聞けばお二人で旅をされているとのこと、うっかりイイ雰囲気になってしまったこともあるのでは?」
 突然矛先が己に向き、行商人たちがカミューに手出ししないよう見張りつつ焼き上がった肉を頬張っていたマイクロトフは、危うくせかけた。むろん自分たちは「イイ雰囲気」どころの関係ではないのだが、赤の他人にまで話す気はない。咄嗟に否定しようと口を開きかけたマイクロトフを遮り、カミューはさらりと答える。
「いえ、それ以上ですね。彼は私の無二の親友であると同時に、恋人です。いい男でしょう?」
 ぐい、と引き寄せられ、頬と頬が触れ合う。まさかの展開に「カ、カミュー!」とマイクロトフは慌てふためき、行商人たちは「なんだ、人妻か……」と肩を落として思わず本音を漏らした。そんな彼らの反応を見てマイクロトフはカミューの判断が正しかったことを知り、やがて吹っ切れたのか飢えた獣同然の行商人たちを牽制するような視線を送るまでに至った。

 その甲斐あってか道中は何事もなく、二人は無事行商人たちを目的地の村へと送り届けることができた。彼らが来たことで村の小さな宿はあっという間に満員になってしまったが、行商人たちが「我々の護衛をしてくださったあなたたちを外で寝かせるわけにはいかない」と宿を譲ってくれたため、「いや、我々のほうこそ野宿でいい」と言い張るマイクロトフをカミューが遮って、ありがたく宿泊させてもらうことにした。己の美しい容姿と色香を利用したのだ。
 部屋に入るなりカミューはベッドに腰掛け、はあ~、と大きな溜め息を吐いた。行商人たちの前で見せていた行儀の良さとはあまりにもかけ離れたその様子に、マイクロトフはやや揶揄からかいを含んだ口調で声を掛ける。
「……先程までの慎ましさはどこへ行った? さすがに違いがあり過ぎだろう」
「当たり前だろう? 本当の私の姿を見せられるのは、お前だけだからな」
「それにしてもあの時のお前は、あまりにも淑やか過ぎてだな……」
 マイクロトフの言葉に、今度はカミューが揶揄うように言う。
「何だ? 淑女じみていたほうが好みだったって?」
「いや、そういうわけでは」
「――脚を開くのは、ベッドの中だけで充分さ」
 妖しく囁くカミューにマイクロトフは一瞬ぽかんとし、だがその意味を理解した次の瞬間、耳まで真っ赤になって「カミュー!!」と大声でたしなめたのだった。
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