赤騎士たちは団長をお護りしたい

 室内だというのに、吐き出した息が白い。いつもどおり早朝に目を覚ましたマイクロトフは、ベッドから出ると冷水で顔を洗い、てきぱきとした動作で青騎士団長の隊服を身に付けて自室を後にした。
 訓練所へ向かうと、既に彼の部下である青騎士たちがずらりと整列しており、マイクロトフの顔を見るなり「団長、おはようございます!」と声を張り上げて挨拶をする。常ならばここからすぐに鍛錬開始となるのだが、今日は地面に降り積もった雪を取り除くことからスタートだ。寒さに震えながらも青騎士たちは互いに活を入れ合って、雪かきにいそしむのだ。
 むろんマイクロトフも見ているだけではなく、自身も雪かきに精を出した。今日は随分と積もったな、これは後で城下の除雪も手伝いに行くべきか、などと考えていると、数名の赤騎士たちと赤騎士団長の隊服を纏った親友・カミューの姿が見え、マイクロトフは手を止めて顔を上げる。
「やあ、おはようマイクロトフ。相変わらず青騎士団は、朝から働き者だな」
「カミュー」
「あまりにも部屋が寒いものだから目が覚めてカーテンを開けてみたら結構な積もり具合で、我々赤騎士団も雪かきに出向くべきかと思ったんだが……朝が早い青騎士団のおかげで、大方終わってしまったようだな。これならば、手伝いは要らないか」
「お前……初めからこのタイミングを見計らっていただろう?」
「いや、これでもかなり早起きしたつもりなんだがな? 手伝う気がなかったわけではないぞ。……それにしても、今日は一段と寒いな。ここは一度部屋に戻って、いつもどおり温かい紅茶を飲んでから……」
「安心しろ。城内の除雪が終わっても、城下が残っている。民の安全のためにも、我々騎士団が一丸となって――」
「っくしゅん!」
「大丈夫ですか、カミュー様!」
「このようなことでお風邪など召されたら……」
 この寒さにびくともしていない様子のマイクロトフとは裏腹に、くしゃみをしたカミューを、周りの赤騎士たちが庇うように取り囲んだ。赤騎士団の騎士たちは団長であるカミューに似て冷静沈着な性格の者が多いが、その実マイクロトフを熱烈に慕っていることを隠そうともしない青騎士たちに負けず劣らず、カミューに心酔している。とある青騎士いわく、「赤騎士団の連中がカミュー様のお側に侍っていると、周りに薔薇の花が見える」。つまり「団長! 一生ついていきます!」というノリの熱血青騎士団とは、温度・湿度がまったく異なるのだ。
 マイクロトフとてカミューを心配していないわけではなかったが、赤騎士たちが醸し出す独特なオーラに圧倒され、それ以上は何も言えなくなってしまった。そんな彼へ一人の赤騎士が振り返り、にこやかに言う。
「――というわけで、我々はこれにて失礼いたします。人手が要るようでしたら、この私にお申し付けください。私から直接、副長へ伝えますので」
「あ、ああ……」
「さあカミュー様、お部屋に戻りましょう。お体が冷えた時には、生姜紅茶がよろしいかと。材料は私が用意いたしますので、カミュー様は暖かいお部屋でお休みになっていてください」
「ありがとう、君はいつも頼りになるな。――悪いな、マイクロトフ。この埋め合わせは今夜のワイン一本でするから、お前の可愛い部下たちと共に頑張ってくれ」
 赤騎士たちにがっちりとガードされたカミューが、もう一度小さなくしゃみをしてから去って行く。急な寒さにやられて、本当に風邪を引いてしまっているのではないだろうか。ならば親友として見舞いに行きたいところだが、あの赤騎士たちが側にいるであろうことを考えると、なんとも近づきがたい。……そもそも、あの取り巻きたちは何なんだ? 赤騎士団は、あんなだったか?
 カミューたちを茫然と見送るマイクロトフの周りにはいつの間にか青騎士たちが集まり、「やっぱり俺には、薔薇の花の幻が見えるんですよね……」「お耽美というか、なんというか」「あれじゃまるで逆ハーレム状態じゃないですか」などと囁き合う。
 この日カミューの体調が悪化することはなかったものの、側で彼の世話を焼いていた赤騎士からはもっとカミューを大切にするように言われ、「ははは、彼は私をお姫様か何かと思っているのかな?」と笑う親友へ、マイクロトフは大いに困惑したのであった。
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