恋人の樹
「おお、あれは」
何かを見つけたらしいカミューが、一本の木へ早足で近付いて行った。隣を歩いていたマイクロトフも後ろに続き、木の上をじっと見上げているカミューに倣 う。
「何だ?」
「この木の上のほうに見える鳥の巣のような丸い塊……あれはおそらく、ヤドリギだ。『ヤドリギの下に立っている女性はキスを拒めない』『この木の下でキスをした男女は必ず結ばれる』という言い伝えがあるらしいぞ」
「……そうなのか」
女性。男女。ならば自分たちには関係のないことだと、マイクロトフは思う。己 はカミューを親友以上の存在として好いているが、両者共にいい年をした男同士だ。カミューはこういったロマンチックな話題を好むので、今回もおそらく書物か何かで得た雑学をほんの軽い気持ちで口にしただけなのだろうと視線を戻すと、不意に顔を覗き込まれて、マイクロトフはぎょっとする。
「な、何……」
「……ならば、男はどうなんだろうな? 男二人でも、この木の下でキスをすれば必ず結ばれるんだろうか」
「何を、真剣に……」
「おや、顔が赤いぞ。――もしや、私とそうなった場合のことでも考えたのか?」
ぐい、と間近に迫り艶 やかに微笑むカミューから視線を逸らし、マイクロトフはゴホン! と大きく咳払いをした。まさか、今ここで本当に試すわけにはいかないだろう。どうせカミューのこの言動も、この手の話が苦手な己を面白がり揶揄 っているだけなのだ。きっとそうだ。そうに違いない。
だからマイクロトフは一瞬頭に浮かんだ「そうなった場合」の妄想を振り払い、ヤドリギの宿る木の下から抜け出した。そんなマイクロトフの背中を、カミューが残念そうな表情で見つめる。
「なんだ、しないのか」
「するわけがないだろう!」
顔に加えて耳まで真っ赤になっているマイクロトフの背後でカミューは表向きは愉快そうに笑い、だがその後にもう一度、ヤドリギの宿る木を名残惜しそうに、そして少し切なげな表情で見上げたのだった。
何かを見つけたらしいカミューが、一本の木へ早足で近付いて行った。隣を歩いていたマイクロトフも後ろに続き、木の上をじっと見上げているカミューに
「何だ?」
「この木の上のほうに見える鳥の巣のような丸い塊……あれはおそらく、ヤドリギだ。『ヤドリギの下に立っている女性はキスを拒めない』『この木の下でキスをした男女は必ず結ばれる』という言い伝えがあるらしいぞ」
「……そうなのか」
女性。男女。ならば自分たちには関係のないことだと、マイクロトフは思う。
「な、何……」
「……ならば、男はどうなんだろうな? 男二人でも、この木の下でキスをすれば必ず結ばれるんだろうか」
「何を、真剣に……」
「おや、顔が赤いぞ。――もしや、私とそうなった場合のことでも考えたのか?」
ぐい、と間近に迫り
だからマイクロトフは一瞬頭に浮かんだ「そうなった場合」の妄想を振り払い、ヤドリギの宿る木の下から抜け出した。そんなマイクロトフの背中を、カミューが残念そうな表情で見つめる。
「なんだ、しないのか」
「するわけがないだろう!」
顔に加えて耳まで真っ赤になっているマイクロトフの背後でカミューは表向きは愉快そうに笑い、だがその後にもう一度、ヤドリギの宿る木を名残惜しそうに、そして少し切なげな表情で見上げたのだった。
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