元騎士団長たちの、とある1日

 グラスランドを巡る旅の最中さなか、とある村を訪れていたマイクロトフとカミューは、自分たち同様に村を旅立とうとしていた女行商人の護衛を引き受けることになった。一目見た瞬間に、彼らが腕の立つ剣士であると分かったらしい。
「あんたたち、どこかの騎士様だろう? 立ち居振る舞いに品があるからただの剣士ではないだろうと思ったんだけど。違うかい?」
 長身の見目麗しい青年たちに鼻の下を伸ばしつつ尋ねてきた女行商人へ、カミューが穏やかに微笑みながら返す。
「よく分かりましたね。我々は、先日発足したばかりのデュナン国に属するマチルダ騎士団の者です。ご存知でしょうか?」
「ああ、マチルダ騎士団の! 確か、デュナン統一戦争で色々あった騎士団だったね。三つの騎士団のうち二つの騎士団が離反しただの、残った騎士団が敵国に寝返った途端に瓦解しかけただの……けど戦争終了後に、離反した騎士団の団長さんたちが再建したって聞いたよ。……で、その団長さんたちっていうのが、あんたたちなんだろう?」
「!」
「……」
 女行商人のあまりにも鋭過ぎる推測に、マイクロトフはもちろんカミューも言葉に詰まった。そんな青年たちを見て、女行商人はふふん、と得意げに胸を反らす。
「やっぱりね。マチルダ騎士団を再建した二人の団長さんは、揃っていい男だって聞いてたからねえ。こんな所でまさかの本人にお目にかかれて光栄だよ。噂どおりの……どころか、それ以上の美男子だ」
「恐縮です。しかし、ここまで見破られるとは……バレてしまっては仕方がありませんね。――私は、カミューと申します。マチルダ騎士団で、赤騎士団長を務めていました。そして、こちらがマイクロトフ。同騎士団で、青騎士団長を務めていた男です」
 観念したカミューが自身とマイクロトフの素性を明かすと、女行商人はうんうんと頷き、青年たちの顔を交互に見回す。
「そんな偉い人たちを、あたしは一瞬とはいえ侍らせることができるわけだ。できることならずっとついてきてほしいくらいだけど、あんたたちは自分たちの手で再建した騎士団を離れなきゃならないほどの目的があって旅をしてるんだよね。なら、無理を言うわけにはいかないね」
「申し訳ありません。ですがレディのエスコートは我々の得意とするところですので、全力で務めさせていただきましょう」
「やだよぉ、こんなおばさんに『レディ』だなんて。まあ、これだけいい男のしかも騎士団長様にエスコートしてもらう機会なんて、そうそうあるもんじゃないからねえ。……それじゃ、暗くなる前に出発しようか。しっかりあたしを守っておくれよ」
「はい。お任せください」
「謹んでお受けいたします。この剣と誇りにかけて、必ずや次なる目的地までお送りいたしましょう」
 優雅に一礼するカミューとは対照的に口調も態度も堅苦しいマイクロトフに、女行商人は「頼もしいねえ。じゃあ、頼むよ」と朗らかに笑った。女行商人が背負っている荷物も、体格のいいマイクロトフが背負うことにした。

 道中は特に危険なこともなく、話好きの女行商人のおかげで実に賑やかなものとなった。
 ここ最近のグラスランドの話、デュナン国の話、マイクロトフとカミュー二人のことについて。自分たちの話題となるとマイクロトフはやや言葉を濁したが、二人がただの親友同士ではなく恋仲であることまで見抜かれて、再び観念するしかなかった。なんでも声を掛ける前の二人が醸し出す雰囲気があまりにも甘く、「宿でよろしくやった後」だと勘付いたらしい。女行商人のあけすけな表現に根が純情なマイクロトフは大いに狼狽したものの、あっさり開き直ったカミューが「これでも二人きりの時は実に情熱的な男なんですよ」と笑顔で言い放ち、慌てたマイクロトフに「カミュー!」とたしなめられる一幕もあった。赤の他人に、夜のことまで知られるのは御免だ。
 女行商人の目的地――彼女の実家がある村に着いたのは限りなく夜に近い夕方で、マイクロトフとカミューも旅の疲れを癒すため、一泊していくことにした。別れ際に女行商人はたっぷりの金を二人に渡し、「体を大事にするんだよ。色々な意味でね」と言って去って行った。カミューは笑顔で見送ったが、マイクロトフは思わず赤面しながら咳払いをする。
「はは、体の心配をされてしまったな。まあ確かに、毎晩あれだけ――」
「カ、カミュー! 外でそういう話をするな!」
「ふふ。相変わらず外ではウブなままだな、お前は。……風が冷たいな。早く宿に向かったほうが良さそうだ」
 カミューの言うとおり、今日はいつもより風が冷たく感じる。寒さに強いマイクロトフでさえそう感じるのだから、一刻も早く屋内に入ったほうがいいだろう。
「宿は……あの建物か。一階が酒場になっているようだ。お礼も弾んでいただいたことだし、夕飯はいつもより豪勢に行くか」
「む……そうだな、今夜くらいは多少贅沢をしてもいいか。合間に軽い食事を挟んだとはいえ朝から歩き通しだったからな、さすがに腹が減ったぞ」
 そう言って腹に手を遣ったマイクロトフを見て、カミューが笑う。
 こうして二人は一階で少し贅沢な夕食を楽しんだ後に二階でしっかり甘い夜を過ごしたわけだが、〝英気を養い過ぎた〟せいか翌朝カミューがなかなかベッドから出ることができずに出発が大幅に遅れ、宿屋兼酒場の主人から「夕べはお楽しみのようでしたね」と言われて気まずい思いをしたのは言うまでもない。
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