運命の人は、

 晴れ渡る青空の下に、賑やかな歓声と教会の鐘の音が響き渡る。
 ロックアックス郊外のとある開けた場所で、一組の若い男女が結婚式を挙げていた。永遠の愛を誓い合った後にこちらへと歩いてくる新郎新婦へ、集まった人々が花びらをまいて祝福する。その列の中に、二人はいた。
「どうした? ぼうっとして」
「いや……ついこの間まで無邪気に街中を走り回っていた子供たちが、随分成長したものだと思ってな。いつの間にか結婚できる年齢になっていたのか、と」
「感慨深いって? ……そうか。お前は生粋のロックアックス育ちだから、彼らのことは子供の頃から知ってるんだな。わざわざ護衛を申し出たのは、そういうことだったのか」
 どこかしんみりと新郎新婦を見つめるマイクロトフの横顔を、カミューが静かに見守る。彼はグラスランドからやってきた異国人なので、ロックアックスには昔馴染みと呼べる人間がいない。今でこそマチルダ騎士団で赤騎士団長としての地位を確立しているが、こういう時に、親友との隔たりを感じる。やはりおのれはよそ者なのだと痛感するのだ。
 そうこうするうちに、今日の主役である新郎新婦が二人の目前へとやってきた。マイクロトフは姿勢を正し、カミューは柔らかな笑みを浮かべて、彼らに祝いの言葉を贈る。
「このたびはご結婚おめでとうございます。お二人の幸せな門出を心よりお慶び申し上げます」
「ご結婚おめでとうございます。末永くお幸せに」
「マイクロトフ様、カミュー様、ありがとうございます」
「ありがとうございます。今を時めくお二人からも祝っていただけるなんて、身に余る光栄ですわ。……マイクロトフ様」
 不意に花嫁が、マイクロトフの名を呼んだ。何事かと首を傾げるマイクロトフへ、花嫁はわずかに目を潤ませつつ告白する。
「実は私の初恋の人は、マイクロトフ様でしたのよ」
「えっ」
「それも、あなたが本当の騎士様になられる前から。階段で足を踏み外して転がり落ちかけていた私を受け止めてくれたのは、あなただった。その拍子に私が足を捻って挫いたことを知って、あなたは私を背負って家まで送り届けてくださいましたね」
「……」
「私はまだ幼かったけれどあの時あなたに恋をして、いつかあなたのお嫁さんになることを夢見ていました。けれどその後すぐにあなたはマチルダ騎士団に入団され、手の届かない人になってしまった。街中で時折お話できるのは嬉しかったけれど、あなたはますます遠い存在になっていって、ついには青騎士団の団長にまで。ただの一般人である私が、隣に並び立てるわけがない……失恋して泣いていた私を励ましてくれたのが、幼なじみでもあるこの人なんです」
 そう言って花嫁に紹介された花婿が、照れ笑いを浮かべながらマイクロトフを見上げた。彼もまた、マイクロトフに憧れていた者の一人だ。
「僕もマイクロトフ様に憧れて、マチルダ騎士団に入ることが夢ではあったんですけどね……剣の腕がからっきしで。そもそも僕は臆病者なんで、何かの間違いで騎士になれたとしても魔物はおろか、人間相手に剣を振るうことなんてできやしません。そんなわけで騎士になることは早々に諦めましたが、僕は僕なりに子供の頃から好きだった彼女を守りたいと思って、プロポーズしました。それが今日、叶ったんです」
「彼は昔から『大きくなったら結婚しよう、僕が君の騎士ナイトになる』と言ってくれていましたから。私が叶わぬ恋に身を焦がしていた間も、私だけの騎士ナイトはすぐそばにいたんだな、って。……長々とごめんなさい。でも、これだけはどうしてもお伝えしておきたくて」
 まだ二十歳に満たない若い二人に答えたのは、マイクロトフではなくカミューのほうだった。彼は微笑みながら、何と言っていいか分からず戸惑っているマイクロトフを軽く小突く。
「いえ、なんとも素敵なお話ではないですか。初恋の人を一途に想い続け、生涯をかけて守ると誓った花婿殿は、それだけで充分立派な騎士ナイトの一人です。そんな良き伴侶に恵まれたあなたは、とても幸せ者だ。この朴念仁を選ばなくて大正解でしたね」
「おい」
 青年たちのやりとりに、花嫁と花婿が声を上げて笑う。けなされたマイクロトフはしばし渋面を作ったが、心底幸せそうな二人を見て再び感慨深くなったのだろう。その表情が顰め面から穏やかなものへと変わり、彼は再度新郎新婦を祝福する。
「どうか末永くお幸せに」
「はい!」
「はい。マイクロトフ様とカミュー様も、いつか運命の人に巡り会えますように」
 花嫁の言葉に、マイクロトフとカミューは反射的に顔を見合わせた。本当に無意識に、偶然に。ばっちりと目が合ってしまった二人はこれまた反射的に、そしてほぼ同時に視線を逸らしたのだった。

 この時の彼らは、まだ知らなかった。一生を共にすることになる運命の人は驚くほど近くにいて、既に巡り会えていたことを。
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