団長の威厳

 マチルダ騎士団青騎士団長・マイクロトフの部屋。威圧感たっぷりに腕を組み仁王立ちをしているマイクロトフの目の前では、彼直々に呼び出された一人のいかにもやんちゃそうな若い青騎士が、直立不動の姿勢を取っていた。足に力を入れていなければ、緊張と恐怖でその場に崩れ落ちてしまいそうだ。
「――なぜ呼び出されたか、分かっているな?」
「……はい」
 若い青騎士には、大いに心当たりがあった。羽目を外し過ぎた昨夜のおのれの行動を見兼ねて、誰かがマイクロトフに報告したのだろう。内心でどこのどいつが余計なことをと思ったが、元々騎士とは、礼節を重んじるべきものである。それに反することをしたのだから、叱られて当然と言えば当然なのだ。
 マイクロトフは身を縮こまらせている若い青騎士を見下ろし、低い声で切り出す。
「俺が聞いた話ではお前は昨夜遅くまで酒場に入り浸り、複数人の女性たちを侍らせた上に、不埒な行為に及んだと言う。騎士たる者は何よりも女性を敬うべきだというのに、お前という奴は……」
「で、ですが! 女性のほうから集まってきたんです! しかも、誘うように俺の体をベタベタと触ってきて……」
「だからと言ってお前から手を出していい理由にはならないだろう! あまりにも目に余る光景だったゆえに、酒場の主人や周りの客が止める事態にまで発展したとも聞いたぞ。お前の軽はずみな行動が我が青騎士団、ひいてはマチルダ騎士団の品位を損ねたんだ。本来であれば、即座に騎士の称号を剥奪すべきところだが……」
 マイクロトフの言葉を聞いた若い青騎士は、ヒッと短く悲鳴を上げて青褪めた。彼は思わず身を乗り出し、両手を合わせて懇願する。
「そ、それだけは……! 俺、マイクロトフ様に憧れて入団したんです! 何でもしますから、称号剥奪だけは……!!」
「ならば、今から酒場へ謝罪しに行くぞ。お前が暴れて壊した調度品の弁償は団長である俺の監督不行き届きとして、半分は俺が出す。ただし、二度目はないからな」
「は、はい! 本当に、すみませんでした……」
 やんちゃが過ぎた部下を今一度睨み付け、マイクロトフが部屋から出て行く。その後ろに、がっくりと項垂れた若い青騎士が続いた。

 泥酔した若い青騎士が暴れ回ってさんざん迷惑をかけたロックアックス城下の酒場に心からの謝罪と弁償をした二人は、再び城内へと戻ってきた。その途中で赤騎士団長・カミューと出くわしたマイクロトフは、親友の顔を見て少し気が緩んだのか、小さく溜め息を吐いて肩の力を抜く。
「カミュー」
「やあ、マイクロトフ。聞いたぞ、昨夜の城下の酒場は大盛り上がりだったって。……少しはりたかい?」
「は、はい……今後このようなことがないよう、いっそう気を引き締めます……」
 マイクロトフへの親しげな挨拶の後にちくりと駄目押しされて、若い青騎士は再び項垂れた。カミューはマイクロトフより細身で「美形」「美人」と言われることが多いいわゆる「優男」だが、赤騎士団の団長を務めているだけあって、やはり独特な貫禄がある。二人の騎士団長に見つめられ、若い青騎士はすっかり萎縮してしまった。ぷるぷると震えている哀れな青騎士から視線を外し、カミューはマイクロトフに向かってふ、と微笑む。
「彼は相当反省しているようだ。睨むのはもうやめて、そろそろ解放してやれ。我が赤騎士団にはお前のところほど血気盛んな人間はいないと思うが、一応注意喚起はしておこう。私はお前と違って、部下がやらかしたことの責任まで取りたくはないからな」
「お前はまたそういうことを……部下が犯した不祥事の責任を取るのは、団長である俺たちの役目だぞ。――兵舎に戻るといい。酒場へ行くなとは言わないが、一度失った信頼を取り戻すには、かなりの時間を要するだろう。あとはお前の今後の行動次第だ」
「……はい……それでは、失礼します」
 とぼとぼと去って行った若い青騎士を見送ってから、マイクロトフはカミューと顔を見合わせた。目が合ったと同時に「お疲れ様」とねぎらわれ、マイクロトフもようやく表情を緩める。
「とんだ災難だったな。お前の財布も相当なダメージを受けたことだろう、せめて今夜のワインはとっておきのものを用意しよう」
「それはありがたい。この恩は、後日必ず」
「お前と私の仲なのだからそんなものは……と言いたいところだが、それでお前の気が済むというのなら期待するとしようか。――昼食の時間まで、まだあるな。気分転換に、私の部屋で話でもするか?」
「ああ。そうさせてもらう」
 はあ、と溜め息を吐いたマイクロトフの背中を、カミューが励ますように軽く叩く。己を先導するように歩き出したカミューの心遣いに感謝しつつ、マイクロトフもその後に続いたのだった。
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