甘い仕返し
特別に気を許している証拠なのだろうが、カミューは、友であるマイクロトフに対してよく思わせぶりな態度を取る。
マイクロトフは生真面目で色恋に疎い堅物なので、カミューのそういった言動にいちいち翻弄され、動揺することが多かった。とはいえ実のところ両者とも互いへ親友以上の好意を抱いているため、カミューは誘惑と揶揄 いの意味を込めて、マイクロトフは人の気も知らないで……とやきもきさせられているわけだが、やられっぱなしでは性に合わないと思い立ち、ある時、反撃をしてみようと決意した。カミューが己 の反応を面白がっているのなら、こちらも予期しない言動を取って彼の反応を見てやろうと思ったのだ。
そして、そのチャンスはすぐにやってきた。いつもどおりマイクロトフがカミューの部屋を訪れ、しばし真面目な話をした後に「さて、これからどうする?」となったからだ。
「このまま屋内デート続行か、気分転換に屋外デートか……どちらにする?」
悪戯 っぽい笑みを浮かべながら訊 いてくるカミューに、マイクロトフはひと呼吸置いてから答える。
「……お前と共に過ごせるのなら、どちらでも構わない」
「……ん?」
「お前はいつも俺の希望ばかり訊いてくるが、たまにはお前の希望に合わせたい。お前はどうしたいんだ?」
マイクロトフの問いに、カミューは一瞬目を丸くしてからふ、と笑う。
「急にどうしたんだ? もしや柄にもなく、私に遠慮しているのか?」
「遠慮をしているわけではない。ただ、いつも俺の希望ばかり聞いてもらっているのでは、いくらお前が相手とはいえ不公平なのではないかと思っただけだ」
「別にそんなことは気にしていないぞ? お前と私の仲だろう。私は、何かと根を詰めがちなお前が少しでも肩の力を抜けるようにと――」
「気遣いはありがたいが、ともかく今日はお前に合わせる。そうしなければ、俺の気が済まないんだ」
いったい、マイクロトフにどういう心境の変化があったのか。誰かに何か言われたのだろうか。不思議に思いながらもカミューは少し考え、やがて自らの希望を口にする。
「お前がそこまで言うのなら……じゃあ、屋外デートにしよう」
「城の外に出るんだな? どこへ行く?」
「うーん……街中デート……もいいが、遠乗りならば人目を気にせずお前と二人きりで過ごせるからいいかな」
再び悪戯っぽい笑みを浮かべながら言うカミューへ、マイクロトフも負けじと応戦する。
「分かった。……実は俺も、同じことを考えていた」
「……んん?」
「遠乗りをすると、お前と二人で旅に出ている気分になれるんだ。もう何度も言っているが、俺はいつか、お前の故郷を見てみたい。マチルダ騎士団とカマロ自由騎士団は昔から親交がある上に、グラスランド自体に興味があるからな。お前との旅は楽しそうだ」
やはり今日は、何かがおかしい。カミューは心配になり、マイクロトフの顔をまじまじと見る。
「……お前、今日はおかしいぞ。何があった?」
「別に何もない。俺は嘘偽りのない言葉を述べているだけだ」
「突然愛の告白でもされるのかと思ったぞ」
「……されたいのか?」
今度こそカミューは、ぽかんとした顔でマイクロトフを見つめた。してやったりだ。
予想外の展開に言葉を失っているカミューへ、マイクロトフはわずかに口元を綻ばせながらとどめを刺す。
「……『デート』、するんだろう? 早く行こう。もたもたしていると邪魔が入って、機会を失うことになるぞ」
〝精一杯頑張って〟背を向けたマイクロトフの耳が赤くなっていることに、カミューは気付かない。なぜならカミューの頬も、仄 かな期待にほんのりと染まっているからで――この後の『デート』で何らかの進展があったわけではないものの、二人は相手が己と同じ気持ちを抱いているのではないかと、終始ひそかに胸を高鳴らせていたのだった。
マイクロトフは生真面目で色恋に疎い堅物なので、カミューのそういった言動にいちいち翻弄され、動揺することが多かった。とはいえ実のところ両者とも互いへ親友以上の好意を抱いているため、カミューは誘惑と
そして、そのチャンスはすぐにやってきた。いつもどおりマイクロトフがカミューの部屋を訪れ、しばし真面目な話をした後に「さて、これからどうする?」となったからだ。
「このまま屋内デート続行か、気分転換に屋外デートか……どちらにする?」
「……お前と共に過ごせるのなら、どちらでも構わない」
「……ん?」
「お前はいつも俺の希望ばかり訊いてくるが、たまにはお前の希望に合わせたい。お前はどうしたいんだ?」
マイクロトフの問いに、カミューは一瞬目を丸くしてからふ、と笑う。
「急にどうしたんだ? もしや柄にもなく、私に遠慮しているのか?」
「遠慮をしているわけではない。ただ、いつも俺の希望ばかり聞いてもらっているのでは、いくらお前が相手とはいえ不公平なのではないかと思っただけだ」
「別にそんなことは気にしていないぞ? お前と私の仲だろう。私は、何かと根を詰めがちなお前が少しでも肩の力を抜けるようにと――」
「気遣いはありがたいが、ともかく今日はお前に合わせる。そうしなければ、俺の気が済まないんだ」
いったい、マイクロトフにどういう心境の変化があったのか。誰かに何か言われたのだろうか。不思議に思いながらもカミューは少し考え、やがて自らの希望を口にする。
「お前がそこまで言うのなら……じゃあ、屋外デートにしよう」
「城の外に出るんだな? どこへ行く?」
「うーん……街中デート……もいいが、遠乗りならば人目を気にせずお前と二人きりで過ごせるからいいかな」
再び悪戯っぽい笑みを浮かべながら言うカミューへ、マイクロトフも負けじと応戦する。
「分かった。……実は俺も、同じことを考えていた」
「……んん?」
「遠乗りをすると、お前と二人で旅に出ている気分になれるんだ。もう何度も言っているが、俺はいつか、お前の故郷を見てみたい。マチルダ騎士団とカマロ自由騎士団は昔から親交がある上に、グラスランド自体に興味があるからな。お前との旅は楽しそうだ」
やはり今日は、何かがおかしい。カミューは心配になり、マイクロトフの顔をまじまじと見る。
「……お前、今日はおかしいぞ。何があった?」
「別に何もない。俺は嘘偽りのない言葉を述べているだけだ」
「突然愛の告白でもされるのかと思ったぞ」
「……されたいのか?」
今度こそカミューは、ぽかんとした顔でマイクロトフを見つめた。してやったりだ。
予想外の展開に言葉を失っているカミューへ、マイクロトフはわずかに口元を綻ばせながらとどめを刺す。
「……『デート』、するんだろう? 早く行こう。もたもたしていると邪魔が入って、機会を失うことになるぞ」
〝精一杯頑張って〟背を向けたマイクロトフの耳が赤くなっていることに、カミューは気付かない。なぜならカミューの頬も、
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