所有印をつける理由

「……あ」
 ベッドから出てそれぞれが着替えている中、不意にカミューが声を上げた。「何だ?」とマイクロトフが問うと、カミューは鏡に映る自身の首元を凝視している。
「これ、お前がつけたキスマークだ。服を着ても見えてしまっている」
「!」
 途端に赤面して狼狽うろたえ始めたマイクロトフへ、だが当のカミューはまったく動揺した様子もなく続ける。
「まあ、あれだけ何度もされたらな。はは、言い寄ってくる人間に対しての魔除けにはなるか?」
「そ、その……本当に、すまない……」
「お前はベッドの中では理性を失いがちになるからな。一応注意はしたんだぞ? 見える所に跡はつけるなと。なのにお前と来たらまったく耳を貸さずに、無我夢中で私の体を貪るものだから」
「……すまない……」
 大きな体を縮こまらせてぼそぼそと詫びるマイクロトフに、カミューは「やってしまったものは仕方がない、今後気を付けてくれればいいさ」と笑った。この件で律儀な性格のマイクロトフは、カミューの首筋に口付けを落とす時は至極慎重に、跡を残さぬよう気を付けようと決意した。

 しかし、その翌日――
「ああっ!?」
 朝、鏡を見た拍子におのれの首筋にくっきりと赤い跡がついているのを見つけてしまったマイクロトフは、真っ先にカミューを振り返った。昨晩はやけに積極的に攻めてきたので、その際につけられたものだろう。カミュー本人は首はやめろと言っていたのに、己に対してはこれ・・だ。
「……」
「ははは、昨日の仕返しだ。だが配慮はしたんだぞ? 服を着て動いた時にギリギリ見えるか見えないかくらいの位置に。そもそもお前の服は私よりも襟ぐりが狭いから、よほど近付いて凝視でもしない限りは大丈夫だろう」
「そういう問題ではない! お前……っ、昨夜俺がどれだけ我慢して……!」
「おや、我慢していたのか。……ああ、だから本番のほうがなかなか終わらなかったわけだ。キスを我慢していた分、セックスの回数がいつも以上に――」
「カミュー!」
 恥じらうことなく昨夜のことを口にしたカミューを、マイクロトフが顔を真っ赤にしてたしなめた。相変わらず根は純情だなと笑い、カミューは仕上げに着用した紫色のショートマントを翻しつつ言う。
「いくら首筋に跡をつけまいと努力したところで、私はもう公衆浴場には入れない体になっているぞ? まあお前もだが。それに、好きな相手に所有印をつけたいと思うのは当然だろう。お前もそのつもりで山ほどつけているんじゃないのか?」
「い、いや……俺はどちらかというとお前の全てを愛したいからああしているだけであって、所有印がどうの、というのはあまり考えたことが……」
「はは、やはりお前は根が純情なんだな。前戯は割としつこいし、セックスは激しいが」
「カミュー!!」
 一歩ベッドの外に出た途端に本来の純情さを取り戻すマイクロトフを可愛らしいなと思いつつ、カミューは妖艶な笑みを浮かべながら恋人にふわりと抱きつき、その唇に自らのそれを軽く押し当てたのだった。
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