腐れ縁コンビと元騎士団長たちの、とある日の恋愛談義

「……なぁ。お前らって、デキてんのか?」
 ビクトールのあまりにも唐突つ直球過ぎる質問に、彼の隣に座っているフリックが飲んでいた水を噴き出しそうになり、彼らの向かい側で優雅に食事をしていたマイクロトフとカミューもぴたりと手を止め顔を上げた。げほごほと咳き込むフリックには構わず、ビクトールはテーブルに頬杖をつきながら元騎士団長二人の顔を交互に見つめる。
「……そう見えますか?」
 先に口を開いたのは、カミューだった。おう、と答えるビクトールに、カミューは隣で固まっているマイクロトフを一瞥してから続ける。
「結論から申し上げますと、我々は友人です。長い付き合いではありますが、いわゆる恋愛的な意味での交際はしておりません。あなた方のご関係とそう変わらないと思いますよ」
「そうかぁ~? 俺らはひと言で言えば〝腐れ縁〟ってヤツだが、お前らはどう見てもそういう感じじゃねえんだよなぁ。女子共も言ってたぜ、あの距離感は絶対付き合ってるか、付き合ってなくとも互いに好意を抱いてる、ってよ」
「……」
 少し困ったように笑うカミューと、そんな親友にどう協力していいのか戸惑うマイクロトフへ、呼吸を落ち着けたフリックがようやくツッコミを入れる。
「本人たちがデキてないって言ってるんだからそれでいいだろ! なに人の恋愛事情に首を突っ込んでるんだ、気色悪い」
「本人『たち』ぃ~? 否定したのは一人だけで、もう一人の騎士サマはダンマリのままだぜ? もしや『俺的には付き合っているつもりだったのに』なんてショックを受けて――」
「そ、そんなことはありません! カミューの言葉どおり、俺たちは至って普通の親友です。長い付き合いゆえに気が置けない数少ない人間なので、あらぬ誤解をされがちですが……」
 おのれに矛先を向けられてからようやく、マイクロトフも慌てて否定した。「好意を抱いている」事実まで否定してしまったことには罪悪感を覚えたが、カミューと築いている良い関係を勝手に誇張され、事あるごとにネタにされるのは御免だ。そもそも本当に恋愛的な意味での交際はしていないのだし、少なくとも現在の関係性は、間違いなく「親友」である。早くこの話が終わってくれることを願いつつ、マイクロトフはカミューの横顔をちらりと見遣る。
 カミューもまた、マイクロトフを一瞬見遣った。それからすぐにビクトールとフリックに視線を戻し、彼は穏やかに微笑みながらとんでもないことを口にする。
「――この本拠地には女性はもちろん多感な少年少女も多く在籍していますから、我々大人、ましてや礼節を重んじる騎士自らが色恋に溺れ、風紀を乱すようなことがあってはなりません。なので交際を始めるにしても、この軍がこの戦いに勝利してからになりますね。それまで命があれば、気持ちが冷めていなければ、ですが」
「なっ……」
「おお……」
「おい、まさか本気……じゃ、ないよな? あくまでも例えばの話、だよな……?」
 唖然とするマイクロトフとますます興味深そうに身を乗り出すビクトール、なぜか焦るフリックを順番に見回し、カミューは笑顔のまま答える。
「さて、どうでしょうか」
「カ、カミュー! 自ら誤解を招くようなことを言うのはやめろ、悪ふざけが過ぎるぞ! ……申し訳ありません、ビクトール殿、フリック殿。彼は時折こういった言動で人を惑わせる悪癖がありまして……どうか、お気になさらず」
「あ、ああ……」
「いーや、俺は気になるね。……で? 実際のところ、あんたはどうなんだい? 元青騎士団長さんよ」
 再びテーブルに頬杖をついてニヤニヤと見つめてくるビクトールにマイクロトフは「どう、と言われましても……」と狼狽うろたえ、そんな親友の顔をカミューも横から覗き込みながら、返答を待つ。
「……カミュー、あんまり相棒を揶揄からかってやるなよ。親友はもっと大事にしな。マイクロトフ、うちのバカがすまないな。バカな質問にはいちいち真面目に答えなくたっていいからな」
 二人の男の標的となってしまったマイクロトフに同情したフリックがすかさず間に入り、「そういえば――」と強制的に話題を変える。
 ビクトールはチッ、と面白くなさそうに舌打ちをしたが、新たな話題はつい最近この軍に加わったばかりのカミューとマイクロトフも知っておいたほうがいいことだったので、カミューは真面目な顔に戻って姿勢を正し、一方のマイクロトフもフリックの機転に感謝しつつ、背筋を伸ばしたのだった。
1/1ページ