香りと移り香
香りも紳士の嗜みの一つと考えているのか、カミューは、香水をつけている。
反面、マイクロトフは男が香水など……という昔ながらのタイプだったが、カミューはいわゆる「優男」なので、華やかな香りの香水をつけていても違和感はなかった。むしろ周りからは「カミュー様はいつもいい匂いがする」と好評だ。
親友であった頃はカミューなりのこだわりなのだろうと、割り切って接していた。だが今の二人は、恋人同士である。抱きしめれば途端にその香りに包まれ、ベッドの上で肌を重ねれば体温の上昇によってより強く香り、カミュー自身の匂いと混ざり合った官能的なそれは、マイクロトフの欲を大いに刺激する。
だからこそマイクロトフは、少々困っていた。ある日の朝、通りすがりの者から「マイクロトフ様もついに色気づかれましたか! いや~、いったいどこのご令嬢がマイクロトフ様のお心を射止められたのでしょうなあ」と揶揄 われ、それを聞いていた女性たちに鬼気迫る表情で詰め寄られたからだ。
「……と、いうことがあったんだ。皆、匂いの原因は女性だと思い込んでいるようだが、どう考えてもお前の匂いが移ったもので――」
マイクロトフからこう聞かされたカミューだったが、当の彼は恥じらうどころか笑い出し、恋仲となっても根はお堅く生真面目なマイクロトフのほうが顔を赤らめる羽目になった。相変わらず、色恋の話題は苦手だ。
「笑っている場合か!」
「いや、なかなか面白いことになっているじゃないか。マチルダ騎士団随一の堅物男の女性スキャンダル……これはしばらくの間、ロックアックス中が盛り上がるに違いない」
「……お前はそれでいいのか」
「何だ、お前を慕うレディたちに嫉妬しろとでも? 残念ながら私はそこまで可愛げのある男じゃないんだ、すまないな。……それとも……もしや、ひそかに交際している女性がいたりして?」
「断じて無い! 予定も無い!!」
力強く否定して、マイクロトフは唐突にカミューの両肩を掴んだ。彼は目を瞬かせる恋人を見据え、常日頃から感じている不安と不満を口にする。
「お前は俺が女性に言い寄られていたら面白がる上に、親しくしていたら身を引くつもりでいるんだろう。俺はそれが不安であり、不満なんだ。俺が想っているのは、お前だけだというのに」
「おお……熱烈」
「どれだけ思い悩んできたと思っている。それがようやく成就したんだ、何度でも伝えるぞ。俺は、常に誠実でありたい」
「分かった、分かったから。不安にさせてすまなかった。こんなに一途で愛が重い男を選んだのは他ならぬ私だ、お前が愛してくれる以上は、私もお前を離す気はないよ」
そう言って微笑んだカミューを見て、マイクロトフは唇を引き結んだ。どこか掴み所がないカミューに抱く不安が消えたわけではないが、今、彼は目の前に居て、想いに応えてくれている。ならば、全力で愛するのみだ。
「……ん、いいのか? こんなにきつく抱きしめたら、また私の香りが移るぞ?」
「……別にいい。常に同じ香りがしていれば、却 って魔除けになりそうだ」
「魔除け、か……まあ、一部の者は私とお前の匂いがよく似ていることに気付いているようだが。以前から我々の仲は疑われていたことだし、殊更に隠しておく必要はないのかも……って、こら。ここでサカるな」
マイクロトフがカミューの首筋に顔を埋 め、緩やかな口付けを落として行く。
熱を逃がすように小さく息を吐き出したカミューの体から、花のような香りがふわりと漂った。
反面、マイクロトフは男が香水など……という昔ながらのタイプだったが、カミューはいわゆる「優男」なので、華やかな香りの香水をつけていても違和感はなかった。むしろ周りからは「カミュー様はいつもいい匂いがする」と好評だ。
親友であった頃はカミューなりのこだわりなのだろうと、割り切って接していた。だが今の二人は、恋人同士である。抱きしめれば途端にその香りに包まれ、ベッドの上で肌を重ねれば体温の上昇によってより強く香り、カミュー自身の匂いと混ざり合った官能的なそれは、マイクロトフの欲を大いに刺激する。
だからこそマイクロトフは、少々困っていた。ある日の朝、通りすがりの者から「マイクロトフ様もついに色気づかれましたか! いや~、いったいどこのご令嬢がマイクロトフ様のお心を射止められたのでしょうなあ」と
「……と、いうことがあったんだ。皆、匂いの原因は女性だと思い込んでいるようだが、どう考えてもお前の匂いが移ったもので――」
マイクロトフからこう聞かされたカミューだったが、当の彼は恥じらうどころか笑い出し、恋仲となっても根はお堅く生真面目なマイクロトフのほうが顔を赤らめる羽目になった。相変わらず、色恋の話題は苦手だ。
「笑っている場合か!」
「いや、なかなか面白いことになっているじゃないか。マチルダ騎士団随一の堅物男の女性スキャンダル……これはしばらくの間、ロックアックス中が盛り上がるに違いない」
「……お前はそれでいいのか」
「何だ、お前を慕うレディたちに嫉妬しろとでも? 残念ながら私はそこまで可愛げのある男じゃないんだ、すまないな。……それとも……もしや、ひそかに交際している女性がいたりして?」
「断じて無い! 予定も無い!!」
力強く否定して、マイクロトフは唐突にカミューの両肩を掴んだ。彼は目を瞬かせる恋人を見据え、常日頃から感じている不安と不満を口にする。
「お前は俺が女性に言い寄られていたら面白がる上に、親しくしていたら身を引くつもりでいるんだろう。俺はそれが不安であり、不満なんだ。俺が想っているのは、お前だけだというのに」
「おお……熱烈」
「どれだけ思い悩んできたと思っている。それがようやく成就したんだ、何度でも伝えるぞ。俺は、常に誠実でありたい」
「分かった、分かったから。不安にさせてすまなかった。こんなに一途で愛が重い男を選んだのは他ならぬ私だ、お前が愛してくれる以上は、私もお前を離す気はないよ」
そう言って微笑んだカミューを見て、マイクロトフは唇を引き結んだ。どこか掴み所がないカミューに抱く不安が消えたわけではないが、今、彼は目の前に居て、想いに応えてくれている。ならば、全力で愛するのみだ。
「……ん、いいのか? こんなにきつく抱きしめたら、また私の香りが移るぞ?」
「……別にいい。常に同じ香りがしていれば、
「魔除け、か……まあ、一部の者は私とお前の匂いがよく似ていることに気付いているようだが。以前から我々の仲は疑われていたことだし、殊更に隠しておく必要はないのかも……って、こら。ここでサカるな」
マイクロトフがカミューの首筋に顔を
熱を逃がすように小さく息を吐き出したカミューの体から、花のような香りがふわりと漂った。
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