笑って!
「……ふと、思ったんだ。私たちは長い付き合いだというのに、お前が声を上げて笑っているところを見たことがないな、と」
突然カミューが口にした言葉に、今まさに彼に口付けようとしていたマイクロトフは、怪訝そうな顔で目の前の恋人を見つめた。抱き合ったままではあるものの二人の間に流れていた甘い空気は瞬時に吹き飛び、普段ならば情欲の炎を灯している琥珀色のその瞳は、無邪気且 つ好奇心旺盛な子供のようにきらきらと輝いている。
「……何だ、いきなり」
〝お楽しみ〟を中断された不満と困惑の表情を浮かべるマイクロトフへ、だがカミューは、悪びれる様子もなく続ける。
「お前だって人間なんだ、おかしくてたまらなかったことの一つや二つはあるだろう? 静かに微笑むお前はもちろん魅力的だが、屈託なく笑うお前も見てみたいと思ってな。今は騎士団長の重圧から解放されているんだ、もっと内なる自分を解き放ってもいいんだぞ?」
「……」
己 を解き放つどころかますます眉間に皺を寄せたマイクロトフの唇を指で突 き、カミューが悪戯 っぽく笑った。マイクロトフとしてはカミューに余さず愛を伝えることで、己を解き放っているつもりなのだが。そもそも俺は、笑うこと自体がさほど得意ではない――すっかり難しい顔になってしまったマイクロトフを、カミューは上目遣いで覗き込む。
「……お前は、私と共にいて楽しくはないのか?」
少し悲しげな顔で問われ、マイクロトフはうっ、と言葉に詰まった。彼はしばし考えた後、正直に答える。
「楽しい……というよりは、嬉しい。それに、幸せだ。俺はお前ほど笑うことが得意ではないから、この気持ちが伝わりにくいのかもしれないが……長年想っていたお前と恋仲になることができた喜びは、常に感じている。本当だぞ」
話しているうちに幸福感が込み上げてきたのだろう。マイクロトフの精悍な顔に少しはにかんだような、それでいて蕩けるような笑みが浮かぶ。「笑うことが得意ではない」と言った矢先に、この顔だ。恋人である己にしか見せない、極上の笑顔――これで充分ではないか。カミューも目を細め、ふ、と柔らかく微笑む。
「なんて顔をするんだ。私を悩殺する気か? ……まあ長く共に在れば、いつかは朗らかに笑うお前も見られるようになるだろう……今は、そう思うことにしておく。――中断してすまなかったな。続き をしようか」
カミューの琥珀色の瞳に先程とは異なる光が宿り、柔らかな笑みが、妖艶なそれへと変わる。
再び漂い始めた甘い空気の中、二人は互いのみが知る表情や姿を堪能すべく、恋人の背に回した腕に力を込めたのだった。
突然カミューが口にした言葉に、今まさに彼に口付けようとしていたマイクロトフは、怪訝そうな顔で目の前の恋人を見つめた。抱き合ったままではあるものの二人の間に流れていた甘い空気は瞬時に吹き飛び、普段ならば情欲の炎を灯している琥珀色のその瞳は、無邪気
「……何だ、いきなり」
〝お楽しみ〟を中断された不満と困惑の表情を浮かべるマイクロトフへ、だがカミューは、悪びれる様子もなく続ける。
「お前だって人間なんだ、おかしくてたまらなかったことの一つや二つはあるだろう? 静かに微笑むお前はもちろん魅力的だが、屈託なく笑うお前も見てみたいと思ってな。今は騎士団長の重圧から解放されているんだ、もっと内なる自分を解き放ってもいいんだぞ?」
「……」
「……お前は、私と共にいて楽しくはないのか?」
少し悲しげな顔で問われ、マイクロトフはうっ、と言葉に詰まった。彼はしばし考えた後、正直に答える。
「楽しい……というよりは、嬉しい。それに、幸せだ。俺はお前ほど笑うことが得意ではないから、この気持ちが伝わりにくいのかもしれないが……長年想っていたお前と恋仲になることができた喜びは、常に感じている。本当だぞ」
話しているうちに幸福感が込み上げてきたのだろう。マイクロトフの精悍な顔に少しはにかんだような、それでいて蕩けるような笑みが浮かぶ。「笑うことが得意ではない」と言った矢先に、この顔だ。恋人である己にしか見せない、極上の笑顔――これで充分ではないか。カミューも目を細め、ふ、と柔らかく微笑む。
「なんて顔をするんだ。私を悩殺する気か? ……まあ長く共に在れば、いつかは朗らかに笑うお前も見られるようになるだろう……今は、そう思うことにしておく。――中断してすまなかったな。
カミューの琥珀色の瞳に先程とは異なる光が宿り、柔らかな笑みが、妖艶なそれへと変わる。
再び漂い始めた甘い空気の中、二人は互いのみが知る表情や姿を堪能すべく、恋人の背に回した腕に力を込めたのだった。
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