何度だって、その手を
「……時々考えるんだ。もし私が長男に生まれて実家で家督を継いでいたら、マチルダ騎士団に入団することはなく、お前と出会うこともなかったのだろうな、と」
つい先程まで愛を交わしていたゆえの火照りと気怠 さの残る体をマイクロトフの腕の中に預けながら、カミューがぽつりと呟いた。そんなカミューを労 わるように抱き寄せつつ、マイクロトフは穏やかな表情で恋人を見つめる。
「お前はマチルダの騎士として、私はカマロの騎士として生き、それぞれがそれぞれの地で妻を娶り、ごく普通の家庭を築いていただろう。子供が産まれたらそれを期に前線からは退いて、後進の育成にあたっていたかもしれない。そこまでの可能性は考えられるが、お前も私もただの一般人に戻っているところは、なぜか想像ができない。不思議だな」
「……」
「もしくは今の境遇のままで互いに特別な感情を抱くことなく、生涯ただの親友であったなら。お前は、私はどんな女性を恋人に、そして伴侶に選んだのだろう。パートナーがいたらお前がこうして私の旅に付き合うことはなかっただろうし、今生の別れになっていた可能性もある。だがそのほうが、世間一般的には――」
「……カミュー」
窘 めるように名を呼ばれて、カミューは我に返った。目の前のマイクロトフは溜め息を吐き、眉間に皺を寄せている。彼はカミューの体をぐい、と引き寄せると、自身の意見を述べ始めた。
「もしもの話など無意味だ。異なる次元に生きている俺たちならばそういった人生を歩んでいるのだろうが、この世界の俺たちはこうして出会い、マチルダ騎士として共に歩み、長い片想いを経て、今がある。あの時俺がお前に告白していなければ、お前にこの想いを受け入れられていなかったら……と考えたことはあるが、あの状況で長らく秘めていた想いを告げないなど、有り得なかった。一世一代の賭けではあったんだがな」
「……」
「だが……今だから言うが、お前ならば応えてくれるという予感はあったんだ。互いの立場上、言い出す機会が無かっただけで。……伝えられて良かった。夢が叶って良かった。お前と恋仲になることができて良かった」
「……マイクロトフ……」
マイクロトフの手が、カミューの柔らかな髪をくしゃりと撫でた。そして、
「俺はそれこそ世間が何と言おうと、今更お前以外の人間を選ぶつもりはない。お前が俺と同じ気持ちだったと知った瞬間から、生涯お前だけを愛し抜くと決めたんだ。……お前は俺に対して負い目を感じているようだが、もう二度と、お前を離すつもりはないぞ。俺は、諦めが悪いんだ」
どこか悪戯 っぽい笑みを浮かべたマイクロトフに、カミューはふ、と笑って「知ってる」と答えた。この男は一見さっぱりしているようだが、己 に対しては愛情深過ぎるというか、あまりに一途だ。だが、だからこそ確かに愛されているのだと実感できるし、思考の沼にはまりがちな己を力強く引っ張り上げてくれる、頼もしい存在でもある。強く惹かれたのは、必然だったのだろう。
カミューもまた手を持ち上げ、マイクロトフの頬を優しく撫でた。気持ち良さそうに目を細めたマイクロトフへ、カミューは蕩けるような笑みを向ける。
「……私も……こうなった以上はお前から離れることはもちろん、離すつもりもないよ。お前に負けず劣らずお前を愛しているし、諦めも悪いのでね。ただ、あれこれ考え過ぎてしまうのは私の性分だから、私が思考の海に沈みかけていたら、今のように引き戻してほしい。お前を不安にさせたいわけではないし、私自身も安心したいんだ」
「任せろ。何度だって引っ張り上げてやる。お前にはさんざん助けられてきたからな、今度は俺が助ける番だ。だが無論一方的ではなく、これからは今まで以上に助け合い、支え合おう」
マイクロトフの力強い言葉に、低く落ち着いた声に、カミューの胸がいっぱいになる。
(――ああ、幸せだな)
毛布の下で脚を絡め合い、どちらからともなく唇を重ねる。
激しく求め合った後の甘く優しい時間を、二人はしばらくの間、存分に楽しんだのだった。
つい先程まで愛を交わしていたゆえの火照りと
「お前はマチルダの騎士として、私はカマロの騎士として生き、それぞれがそれぞれの地で妻を娶り、ごく普通の家庭を築いていただろう。子供が産まれたらそれを期に前線からは退いて、後進の育成にあたっていたかもしれない。そこまでの可能性は考えられるが、お前も私もただの一般人に戻っているところは、なぜか想像ができない。不思議だな」
「……」
「もしくは今の境遇のままで互いに特別な感情を抱くことなく、生涯ただの親友であったなら。お前は、私はどんな女性を恋人に、そして伴侶に選んだのだろう。パートナーがいたらお前がこうして私の旅に付き合うことはなかっただろうし、今生の別れになっていた可能性もある。だがそのほうが、世間一般的には――」
「……カミュー」
「もしもの話など無意味だ。異なる次元に生きている俺たちならばそういった人生を歩んでいるのだろうが、この世界の俺たちはこうして出会い、マチルダ騎士として共に歩み、長い片想いを経て、今がある。あの時俺がお前に告白していなければ、お前にこの想いを受け入れられていなかったら……と考えたことはあるが、あの状況で長らく秘めていた想いを告げないなど、有り得なかった。一世一代の賭けではあったんだがな」
「……」
「だが……今だから言うが、お前ならば応えてくれるという予感はあったんだ。互いの立場上、言い出す機会が無かっただけで。……伝えられて良かった。夢が叶って良かった。お前と恋仲になることができて良かった」
「……マイクロトフ……」
マイクロトフの手が、カミューの柔らかな髪をくしゃりと撫でた。そして、
「俺はそれこそ世間が何と言おうと、今更お前以外の人間を選ぶつもりはない。お前が俺と同じ気持ちだったと知った瞬間から、生涯お前だけを愛し抜くと決めたんだ。……お前は俺に対して負い目を感じているようだが、もう二度と、お前を離すつもりはないぞ。俺は、諦めが悪いんだ」
どこか
カミューもまた手を持ち上げ、マイクロトフの頬を優しく撫でた。気持ち良さそうに目を細めたマイクロトフへ、カミューは蕩けるような笑みを向ける。
「……私も……こうなった以上はお前から離れることはもちろん、離すつもりもないよ。お前に負けず劣らずお前を愛しているし、諦めも悪いのでね。ただ、あれこれ考え過ぎてしまうのは私の性分だから、私が思考の海に沈みかけていたら、今のように引き戻してほしい。お前を不安にさせたいわけではないし、私自身も安心したいんだ」
「任せろ。何度だって引っ張り上げてやる。お前にはさんざん助けられてきたからな、今度は俺が助ける番だ。だが無論一方的ではなく、これからは今まで以上に助け合い、支え合おう」
マイクロトフの力強い言葉に、低く落ち着いた声に、カミューの胸がいっぱいになる。
(――ああ、幸せだな)
毛布の下で脚を絡め合い、どちらからともなく唇を重ねる。
激しく求め合った後の甘く優しい時間を、二人はしばらくの間、存分に楽しんだのだった。
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