熱と温もり

 背後から聞こえたどさっ、という音に、マイクロトフは驚いて振り返った。見ればおのれの後ろを歩いていたカミューが、両膝をついて地面に崩れ落ちているではないか。
「カミュー!?」
「……は、はは……兵舎に着くまで持たなかったか……」
 自らも片膝をついてカミューと目線を合わせたマイクロトフは、カミューの顔が赤く、息も荒いことに気付いた。躊躇ためらいなくその額に手を遣ると、かなりの熱が出ていることが判明する。
「熱があるじゃないか! なぜ早く言わなかった!」
「できれば、黙っていたかったんだがな……やはり、ここ最近の寒さがこたえたか……」
 グラスランド人であるカミューは、寒帯に近いマチルダ騎士団領の気候には不慣れだ。ましてやここ数日雪が降り続き、生粋のロックアックス人であるマイクロトフですら寒いと感じるのだから、カミューが体調を崩すのも無理はない。
 マイクロトフの決断は、早かった。
「この高熱では、歩くのはつらいだろう。――兵舎に戻るのは無しだ。俺が背負ってやる。医務室へ行くぞ」
「えっ」
 地面に片膝をついたまま背を向けたマイクロトフに、カミューは目を丸くした。「ん!」「早くしろ」と促され、思わず周囲を見回す。
「背負う、って……恥ずかしいだろう。肩を貸してくれるだけでいいのに……」
「立ち上がることもできない病人が何を言っているんだ。いいから素直に背負われろ」
「わっ」
 焦れたマイクロトフに引き寄せられて、カミューの体がふわりと浮き上がった。己の太腿を抱えて歩き出したマイクロトフに落とされぬようカミューの腕は自然と親友の首元へと回され、自身より広く逞しい背中に体を密着させる形になる。
(……温かい)
 まさか、ひそかに親友以上の好意を抱いているマイクロトフに背負われ、その温もりを感じることができるとは。人目は気になるが、今はそれ以上に嬉しくて――幸せだ。
「……すまないな」
 それでも精一杯平静を装って礼を言うと、「気にするな。友の危機を救うのは当然だ」と返ってきて、他意が無さそうなことにカミューは少しだけ落胆する。
(だが……私はマイクロトフの、こういうところが好きなんだ。願わくばずっと、このままで――)
 マイクロトフという男の人間性と、こういったささやかな幸せを感じられる時間が失われませんように。
 高熱によるだるさと親友への甘い気持ちを込めてくたりと身を預け、カミューは今一度、服越しに伝わってくる体温と筋肉の躍動を噛み締めたのだった。

 この後二人は無事医務室に到着したわけだが、ベッドに横たわったカミューをマイクロトフが付きっきりで看病し、彼らの仲の良さが改めて広まったのは言うまでもない。
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