ラッキースケベと激重感情
三騎士団の第二位に位置する赤騎士団の騎士たちは、団長であるカミューに似て知的で冷静な者が多い。それゆえ両者間は常に適度な距離感が保たれ、何かと熱く団長との繋がりも深い青騎士たちから見れば、その関係性は淡泊にすら思えた。
だが統制はしっかり取れており、カミューが命令を下せば、誰もがそれに従う。特に戦 の時の一糸乱れぬ動きは見事なもので、青騎士団長を務めるマイクロトフでさえ感嘆のため息を漏らし、奮起させられるほどだった。カミュー本人は「『そこそこ頑張る』が我々赤騎士団の信条だ」などと嘯 いているが、三騎士団の最高位である白騎士団ですら嫉妬するほどの実力とカリスマ性を有しているのだ。
カミュー率いる冷静沈着な赤騎士団と、マイクロトフ率いる勇壮活発な青騎士団。まるきり正反対のタイプの騎士団だが、団長同士が親密なこともあってか両騎士団の交流は盛んで、時には合同で訓練を行うこともあった。中でも騎士たちが特に楽しみにしていたのは訓練の終盤に行われる団長同士の手合わせで、普段はまるで恋人同士のような仲のカミューとマイクロトフが見せる気迫に満ちた打ち合いは、騎士たちを魅了し大いに沸かせた。マイクロトフを心から敬い慕っている青騎士たちはもちろん普段は物静かな赤騎士たちも思わず声援を送るほどだったが、いつも明確な勝敗が決まらない程度の所で切り上げられ、騎士たちは額にうっすらと汗を浮かべ満足げな表情で戻ってきたそれぞれの団長を口々に称えた。とことん本気でやり合ったらどちらが勝つのだろう、という興味はあったが、二人の仲の良さと彼らの性格上敵同士にでもならない限り永遠に決着がつかないであろうことも知っていたので、それ以上のことは望まなかった。カミューもマイクロトフも、若いながら自分たちが信頼を置ける団長である。それだけで充分だった。
「……なあ。カミュー様って綺麗だし、色っぽいよな」
未 だ赤・青騎士団長の手合わせを見た興奮が冷めない中、突如始まった若い青騎士のひそひそ話に、周りにいた同僚の青騎士たちも次々に賛同する。
「やっぱりお前もそう思ってたのか。俺だけじゃなくて良かったよ」
「団長が大事になさるのも分かるよな。団長は、絶対カミュー様のことが好きだと思う」
「だよな。で、カミュー様も団長を物凄く大事になさってるし、あれは間違いなく団長のことが好きだね」
「いっそもう付き合ってしまえばいいのにな。なんで付き合わないんだろう?」
「そりゃお前、いくらカミュー様が綺麗な人でも、お二人は男同士だから……特に団長がその辺のことを気にしそうだし……」
「あんなに堂々とイチャついておいてか? 毎日見せつけられてる俺たちの気持ちも考えてほしいよ」
はあー、と青騎士たちが溜め息を吐いていると、噂をすればなんとやら、当のカミューが姿を現した。「こ、これはカミュー団長!」と慌てて敬礼する青騎士たちに、カミューは笑う。
「そんなに畏 まらなくても。取って食ったりはしないよ。君たちの団長殿を捜しているんだが、どこにいるか分かるかい?」
「あー、ええと……確か先ほど、あちらのほうに……」
「ありがとう。まったく、来いと言ったのはあいつのほうだというのに……」
通り過ぎて行くカミューを緊張気味に見送った青騎士たちだったが、ここが屋外だったのが災いした。不意に体を持って行かれるような強風が吹き、青騎士たちは大きくよろめく。
「うわっ」
「わっ」
見ればカミューも小さな声を上げてよろめき、丈の短い赤い騎士服の裾の後ろ部分が盛大に捲れ上がって――
「!!」
薄い白ズボン越しに浮かび上がった、なだらかな曲線。大き過ぎず小さ過ぎず、きゅっと上がった絶妙な形が美しく――。
「カミュー様! 大丈夫ですか!」
どこからともなく飛んできた赤騎士がカミューを庇うように、そしてその体を隠すように立ち塞がった。「ああ、平気だ。すまないな」と礼を言うカミューに安堵の表情を向けてから、赤騎士は真っ赤になって固まっている青騎士たちを牽制するように一瞥し、自身の団長の肩を抱くようにして去って行く。
「……」
「……今、睨まれた……?」
「なんなんだよ、あいつ……カミュー様はマイクロトフ団長のなのに」
「俺知ってるぞ。赤騎士団の奴ら、スカした顔をしているがその実カミュー様に相当心酔してるって。お慕いしているんなら、素直にそう言えばいいのにな」
「そうそう、変にカッコつけなんだよな。本当は熱いのに、クールを装ってさ」
「カミュー様、団長に会えたかな? ……やっぱり駄目だ。俺、ちょっとトイレに行ってくる」
「そうだな。俺も……」
「お前たちも? ……団長、お許しください。でもあれは、不可抗力でした」
いわゆる「ラッキースケベ」を体験してしまった若い青騎士たちは、若干前屈みになりながら建物の中へと入って行く。無事カミューと合流し彼と連れ立って歩いていたマイクロトフがそれを目撃し「どうしたんだ、お前たち」と声を掛けたが、青騎士たちは「何でもありません」と答えてそそくさと立ち去って行った。「何なんだ」と不思議そうに首を傾げるマイクロトフの横でカミューは原因が自分にあることにうっすら気付いていたが敢えて知らないフリをすることにし、カミューを咄嗟に庇った赤騎士も、二人の団長の邪魔をしないよう遠くから見守りながら、完全黙秘を貫いたのだった。
だが統制はしっかり取れており、カミューが命令を下せば、誰もがそれに従う。特に
カミュー率いる冷静沈着な赤騎士団と、マイクロトフ率いる勇壮活発な青騎士団。まるきり正反対のタイプの騎士団だが、団長同士が親密なこともあってか両騎士団の交流は盛んで、時には合同で訓練を行うこともあった。中でも騎士たちが特に楽しみにしていたのは訓練の終盤に行われる団長同士の手合わせで、普段はまるで恋人同士のような仲のカミューとマイクロトフが見せる気迫に満ちた打ち合いは、騎士たちを魅了し大いに沸かせた。マイクロトフを心から敬い慕っている青騎士たちはもちろん普段は物静かな赤騎士たちも思わず声援を送るほどだったが、いつも明確な勝敗が決まらない程度の所で切り上げられ、騎士たちは額にうっすらと汗を浮かべ満足げな表情で戻ってきたそれぞれの団長を口々に称えた。とことん本気でやり合ったらどちらが勝つのだろう、という興味はあったが、二人の仲の良さと彼らの性格上敵同士にでもならない限り永遠に決着がつかないであろうことも知っていたので、それ以上のことは望まなかった。カミューもマイクロトフも、若いながら自分たちが信頼を置ける団長である。それだけで充分だった。
「……なあ。カミュー様って綺麗だし、色っぽいよな」
「やっぱりお前もそう思ってたのか。俺だけじゃなくて良かったよ」
「団長が大事になさるのも分かるよな。団長は、絶対カミュー様のことが好きだと思う」
「だよな。で、カミュー様も団長を物凄く大事になさってるし、あれは間違いなく団長のことが好きだね」
「いっそもう付き合ってしまえばいいのにな。なんで付き合わないんだろう?」
「そりゃお前、いくらカミュー様が綺麗な人でも、お二人は男同士だから……特に団長がその辺のことを気にしそうだし……」
「あんなに堂々とイチャついておいてか? 毎日見せつけられてる俺たちの気持ちも考えてほしいよ」
はあー、と青騎士たちが溜め息を吐いていると、噂をすればなんとやら、当のカミューが姿を現した。「こ、これはカミュー団長!」と慌てて敬礼する青騎士たちに、カミューは笑う。
「そんなに
「あー、ええと……確か先ほど、あちらのほうに……」
「ありがとう。まったく、来いと言ったのはあいつのほうだというのに……」
通り過ぎて行くカミューを緊張気味に見送った青騎士たちだったが、ここが屋外だったのが災いした。不意に体を持って行かれるような強風が吹き、青騎士たちは大きくよろめく。
「うわっ」
「わっ」
見ればカミューも小さな声を上げてよろめき、丈の短い赤い騎士服の裾の後ろ部分が盛大に捲れ上がって――
「!!」
薄い白ズボン越しに浮かび上がった、なだらかな曲線。大き過ぎず小さ過ぎず、きゅっと上がった絶妙な形が美しく――。
「カミュー様! 大丈夫ですか!」
どこからともなく飛んできた赤騎士がカミューを庇うように、そしてその体を隠すように立ち塞がった。「ああ、平気だ。すまないな」と礼を言うカミューに安堵の表情を向けてから、赤騎士は真っ赤になって固まっている青騎士たちを牽制するように一瞥し、自身の団長の肩を抱くようにして去って行く。
「……」
「……今、睨まれた……?」
「なんなんだよ、あいつ……カミュー様はマイクロトフ団長のなのに」
「俺知ってるぞ。赤騎士団の奴ら、スカした顔をしているがその実カミュー様に相当心酔してるって。お慕いしているんなら、素直にそう言えばいいのにな」
「そうそう、変にカッコつけなんだよな。本当は熱いのに、クールを装ってさ」
「カミュー様、団長に会えたかな? ……やっぱり駄目だ。俺、ちょっとトイレに行ってくる」
「そうだな。俺も……」
「お前たちも? ……団長、お許しください。でもあれは、不可抗力でした」
いわゆる「ラッキースケベ」を体験してしまった若い青騎士たちは、若干前屈みになりながら建物の中へと入って行く。無事カミューと合流し彼と連れ立って歩いていたマイクロトフがそれを目撃し「どうしたんだ、お前たち」と声を掛けたが、青騎士たちは「何でもありません」と答えてそそくさと立ち去って行った。「何なんだ」と不思議そうに首を傾げるマイクロトフの横でカミューは原因が自分にあることにうっすら気付いていたが敢えて知らないフリをすることにし、カミューを咄嗟に庇った赤騎士も、二人の団長の邪魔をしないよう遠くから見守りながら、完全黙秘を貫いたのだった。
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