水入らずの休暇
「ここのところ団長は働きづめでしたから、たまにはゆっくり休んでください」。体力自慢のマイクロトフにもさすがに疲れが見えていることを心配したのか、ある時、副騎士団長がこう進言した。マイクロトフは「一晩休めばなんとかなる」と反論したが、「疲れ過ぎている時は、眠るのにも体力が要るんです。だから少なくとも丸一日は何もせずしっかりお休みして、気力体力を充分に温存されてください」と返され、何も言えなくなってしまったのだ。
確かに、疲れているという自覚はある。自室に戻った途端ソファーに崩れ落ち、そのまま意識を失って朝を迎えてしまった日もあったほどだ。赤騎士団長を務める親友・カミューからも「無理をしてまで私の部屋に来る必要はない。今の状況がひと段落するまで、お互い自分のやるべきことに集中しよう」と言われ、実に数日もの間、毎晩の晩酌と語らいの時間を犠牲にしてきたのである。そういった点でも限界が訪れつつあり、マイクロトフは副騎士団長の提案を受け入れることにした。
「……で? せっかく自由に使える時間を得たというのに、なぜ真っ先に私の部屋に来るんだ」
さっそく訪ねた部屋の主、カミューの呆れ顔に迎えられたものの、マイクロトフはめげずに食い下がる。
「いや……ここ何日も、お前とじっくり話ができていなかっただろう。話したいこと、相談したいことが山積みなんだ。一人で部屋にいたところで、何もいい考えが浮かばなくてな」
「何もせず休めと言われているのに仕事の話か? それはいけないな。私だって疲れているんだ、好きなように過ごさせてほしいんだが」
「な、ならば仕事の相談はしない! なんだっていい、お前と話がしたいんだ。だから……」
『なんでもいいからお前と話がしたい』。あまりにも正直なマイクロトフの〝告白〟に、カミューは一瞬面食らった後に溜め息を吐いた。そうまで言われてしまっては、断るわけにはいかないじゃないか。私とて、お前と――という言葉は飲み込み、カミューはふ、と笑うと、マイクロトフを部屋に招き入れるべく扉を開いたまま脇に退く。
「……まったく……しょうのない奴だな。そんなだから、我々の仲が誤解されるんだぞ。いつもべったり一緒にいる、まるで愛し合う恋人同士のようだ、と。だからこんな時くらいは、城下のレディとデートでも――」
「……俺にそんな相手がいると思うか?」
「……うん、まったく思わないな」
ははは、と笑うカミューを思わず小突きたくなったが、それを我慢してマイクロトフは、カミューの部屋へと入った。ソファーの向かい側に置かれたテーブルの上には数冊の本が積み上がっていて、己 が訪れる直前まで彼が読書をしていたことが分かる。
「……兵法書に歴史書、武具大全……真面目な本ばかりだな」
「意外か? 時間が空 いた時はこういった本を読んで、参謀役としても動けるように知識を身に付けているのさ。私はそういう役割も期待されているからな。……読みたい本があれば貸すぞ?」
「そうだな、どれも興味深いが……借りてしまってもいいのか? まだ読んでいる最中なのでは……」
「別にいいさ、読みかけの本なんて何冊もある。好きな本を持って行ったらいい。――せっかく来たんだ、紅茶でも淹れよう。今日は仕事から離れてのんびり過ごす、そうだろう?」
カミューのどこか甘い囁き声に、マイクロトフはどきりと胸を高鳴らせた。カミューはこうして時折、まるで己を誘惑するかのような表情を向けてくるものだから質 が悪い。彼が元々持つ色香によるものなのか分かってやっているのかは分からないが、ゴホン、と小さく咳払いをしたマイクロトフはカミューが紅茶を淹れてくれている間、ソファーに浅く腰掛けて自分が読みたい本を見繕い始める。
「……ん? これは……」
不意に本の間から出てきたものに、マイクロトフは目を丸くした。それは己の愛剣・ダンスニーが描かれた栞 で、別のページからはカミューの愛剣・ユーライアが描かれた栞も出てくる。
「ふふ、可愛らしいだろう? 土産物屋の新作グッズだ。店主曰 く、観光客にも人気があるらしい。光栄だな」
「……」
まさか、自分たちの愛剣が定番グッズ化されているとは……とマイクロトフは少々複雑な気持ちになったが、栞のデザインはステンドグラス調で美しく、出来もいい。今度自分の分も買いに行くか、と考え始めたマイクロトフの眼前のテーブルにカミューは二人分の紅茶を置いてから、親友の隣に腰掛ける。
「……さて……積もる話があるんだろう? 今日は一日、二人水入らずで過ごそうじゃないか。とことん付き合うぞ」
「あ、ああ! しばらくまともに話すことができていなかったからな。では、少し長くなるが――」
二人は紅茶の入ったカップを傾けながら、他愛のない話から真面目な話まで徹底的に語り合う。
やがてひと段落つくと彼らはマイクロトフの部屋へと移動したが、そこでも話題は尽きない。マイクロトフとカミューは互いへの好意と二人きりで過ごせる幸せを噛み締めながらもそれを口にすることはなく、熱く甘い想いを胸に秘めたまま、深夜近くまで共に過ごしたのだった。
確かに、疲れているという自覚はある。自室に戻った途端ソファーに崩れ落ち、そのまま意識を失って朝を迎えてしまった日もあったほどだ。赤騎士団長を務める親友・カミューからも「無理をしてまで私の部屋に来る必要はない。今の状況がひと段落するまで、お互い自分のやるべきことに集中しよう」と言われ、実に数日もの間、毎晩の晩酌と語らいの時間を犠牲にしてきたのである。そういった点でも限界が訪れつつあり、マイクロトフは副騎士団長の提案を受け入れることにした。
「……で? せっかく自由に使える時間を得たというのに、なぜ真っ先に私の部屋に来るんだ」
さっそく訪ねた部屋の主、カミューの呆れ顔に迎えられたものの、マイクロトフはめげずに食い下がる。
「いや……ここ何日も、お前とじっくり話ができていなかっただろう。話したいこと、相談したいことが山積みなんだ。一人で部屋にいたところで、何もいい考えが浮かばなくてな」
「何もせず休めと言われているのに仕事の話か? それはいけないな。私だって疲れているんだ、好きなように過ごさせてほしいんだが」
「な、ならば仕事の相談はしない! なんだっていい、お前と話がしたいんだ。だから……」
『なんでもいいからお前と話がしたい』。あまりにも正直なマイクロトフの〝告白〟に、カミューは一瞬面食らった後に溜め息を吐いた。そうまで言われてしまっては、断るわけにはいかないじゃないか。私とて、お前と――という言葉は飲み込み、カミューはふ、と笑うと、マイクロトフを部屋に招き入れるべく扉を開いたまま脇に退く。
「……まったく……しょうのない奴だな。そんなだから、我々の仲が誤解されるんだぞ。いつもべったり一緒にいる、まるで愛し合う恋人同士のようだ、と。だからこんな時くらいは、城下のレディとデートでも――」
「……俺にそんな相手がいると思うか?」
「……うん、まったく思わないな」
ははは、と笑うカミューを思わず小突きたくなったが、それを我慢してマイクロトフは、カミューの部屋へと入った。ソファーの向かい側に置かれたテーブルの上には数冊の本が積み上がっていて、
「……兵法書に歴史書、武具大全……真面目な本ばかりだな」
「意外か? 時間が
「そうだな、どれも興味深いが……借りてしまってもいいのか? まだ読んでいる最中なのでは……」
「別にいいさ、読みかけの本なんて何冊もある。好きな本を持って行ったらいい。――せっかく来たんだ、紅茶でも淹れよう。今日は仕事から離れてのんびり過ごす、そうだろう?」
カミューのどこか甘い囁き声に、マイクロトフはどきりと胸を高鳴らせた。カミューはこうして時折、まるで己を誘惑するかのような表情を向けてくるものだから
「……ん? これは……」
不意に本の間から出てきたものに、マイクロトフは目を丸くした。それは己の愛剣・ダンスニーが描かれた
「ふふ、可愛らしいだろう? 土産物屋の新作グッズだ。店主
「……」
まさか、自分たちの愛剣が定番グッズ化されているとは……とマイクロトフは少々複雑な気持ちになったが、栞のデザインはステンドグラス調で美しく、出来もいい。今度自分の分も買いに行くか、と考え始めたマイクロトフの眼前のテーブルにカミューは二人分の紅茶を置いてから、親友の隣に腰掛ける。
「……さて……積もる話があるんだろう? 今日は一日、二人水入らずで過ごそうじゃないか。とことん付き合うぞ」
「あ、ああ! しばらくまともに話すことができていなかったからな。では、少し長くなるが――」
二人は紅茶の入ったカップを傾けながら、他愛のない話から真面目な話まで徹底的に語り合う。
やがてひと段落つくと彼らはマイクロトフの部屋へと移動したが、そこでも話題は尽きない。マイクロトフとカミューは互いへの好意と二人きりで過ごせる幸せを噛み締めながらもそれを口にすることはなく、熱く甘い想いを胸に秘めたまま、深夜近くまで共に過ごしたのだった。
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