騎士の務め

 部下の騎士たちを率いている時はあれほど頼もしく凛々しいというのに、女性が相手だと、途端に〝あれ〟だ。街の通りで若い女性たちに囲まれ明らかにまごついているマイクロトフを見て、カミューは思わず吹き出した。助け舟を出してやってもいいのだが、それではいつまで経っても女性に慣れることができない。そう考えたカミューは物陰に身を潜め、成り行きを見守ることにする。
「あら! カミュー様、こんな所で何をなさって――」
「しっ、お静かに。……これは失礼、レディ。見てのとおり、私はここで彼の『騎士の務め』を見守っているところです。もしよろしければ、貴女あなたもご一緒に見守っていただけませんか?」
「えっ? ……あ、ああ~、なるほど! これは『試練』ですね。マイクロトフ様だって騎士様ですもの、女性の扱いは心得ていませんと」
「ええ。年も年ですし、せめてまごつかない程度にはなってもらわなければ」
 カミューに賛同した通りすがりの女性も共に身を潜め、女性に不慣れな青騎士団長をひそかに応援する。そんな二人を不思議に思って近付いてきた人々も事情を知って次々にギャラリーと化して行き、マイクロトフはそれなりの人数の人間に見守られることになってしまったわけだが、むろん彼はそれを知らず、きゃっきゃと積極的に話しかけてくる女性たちに受け身の相槌を打つだけだ。
「もし私が殿方に生まれていたら、絶対に騎士団に入団していましたわ! だってマイクロトフ様とカミュー様がいらっしゃるのですもの。やっぱり、部下を直接ご指導されることもありまして?」
「え、ええ。常にではありませんが」
「マイクロトフ様は、どんな女性がお好みですの? 私が思うに、おしとやかで小柄で守ってあげたくなるような女性がお好みなのかな、って。……積極的で背の高い女性はお嫌い?」
「い、いえ……そういうわけでは……」
「私、お料理とお裁縫が得意で。マイクロトフ様はお肉料理がお好きだと聞いているので毎日お肉を焼いて差し上げたいし、お洋服がほつれたらすぐにお直しできますわ。男性って、家庭的な女性がお好きなのでしょう? それなら、私……」
「は、はあ……」
 ――まったく駄目だ。カミューをはじめ、背後のギャラリーまでもが溜め息を吐く。
「……カミュー様、やっぱりお助けしたほうが……」
「もう見てられないよ……」
「ああいうところがイイ、っていう人もいるけどねえ」
 見るに見兼ねた人々の視線を受け、カミューはやれやれと肩を竦めると、ギャラリーたちに頭を下げる。
「皆さん、一緒に見守ってくださってありがとうございました。あとは私がなんとかしますので、ここで解散といたしましょう」
「いやはや、カミュー様もお疲れ様です。普段はあれほど男らしい方ですのに……毎回大変ですなぁ」
「いえ、別に負担に感じてはいませんよ。それが私の役目ですし、私に足りない部分は彼が補ってくれていますから」
 さらりと言ってのけるカミューに、ギャラリーたちはほう……と感心したように溜め息を吐く。カミューとマイクロトフの仲がいいことはロックアックス中で知られているが、ここにいる半分以上の者たちが「いっそお二人が一緒になったほうがいいのではないか」と考えてしまい、二人の美青年騎士団長を交互に見比べる。
 「それでは」と言ってカミューが出て行くと、マイクロトフは「カミュー!」と途端に顔を輝かせ、安堵の表情を親友へと向けた。カミューは「親友が申し訳ありません、レディ。どうかお気を悪くなさらず」と代わりに頭を下げてマイクロトフを軽く小突き、「行くぞ」と声を掛けて引き上げて行った。いまだ物陰から見守っているギャラリーたちに一礼することを忘れずに。

「まったく……見ていられないな」
「なっ……! 見ていたのか!?」
「ああ、観客付きでな。お前の対応があまりにも酷かったものだから、いい加減助けてやれと言われてしまってね。不本意だったが、仕方なく救援に入ったわけさ」
「……」
 色々と言いたいことはあったがそれをこらえて俯いたマイクロトフを見て、カミューはぼそりと呟く。
「……まあお前が変に女性慣れしていたら、それはそれで心配事が増えることになりそうだが」
「? 何か言ったか? カミュー」
「何でもない。ただの独り言だ」
 カミューの言葉にどこか納得の行かない顔をしながらも、マイクロトフは親友と肩を並べ、本来の「騎士の務め」を果たすべくロックアックス城内へと入って行ったのだった。
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