遠き、懐かし我が故郷
きっかけは幼い頃、マチルダ騎士団からやってきたという騎士たちを目にしたからだった。
なんてかっこよくて、なんて気品があるんだろう――子供ながらにカミューはまるで恋する乙女のように胸をときめかせ、大きくなったら僕もあの制服を着たい、マチルダ騎士団に入団したいと思ったものだ。
日々の鍛錬の成果が出たのはもちろん元々才能に恵まれていたこともあってか、彼は若くしてめきめきと頭角を現していった。気が付けばカマロ自由騎士団内でカミューの右に出る者はいなくなり、同騎士団の推挙で、晴れてマチルダ騎士団に入団する運びとなったのだ。
「――つまり、入団の主な動機は制服だった、と」
「ああ。カマロの正騎士の制服は、どうにも私の趣味には合わなくてな。大型の盾に鎖帷子、色は緑・黄系のみ……あれを着て騎士をやっている自分が想像できなかった」
「……確かに想像できないな」
「だろう?」
そう言って笑ったカミューは、自身が纏っている赤騎士団長の服を眺めながら再度口を開く。
「防御面だけで言えば、圧倒的にカマロに軍配が上がるだろう。なにせあちらは大部分が鎧だからな。対して、こちらは布だ。少しでも敵の攻撃を受ければ簡単に破れるし、負傷もする。それでも私は、マチルダの制服を着たいと思った。機能性よりデザイン性を重視しがちなのは昔からだったし、それで身内と揉めたこともあったな」
「揉めた?」
「見た目ばかり気にするな! と何度言われたことか。そういうのにも嫌気が差していたから、私はますます鍛錬に励んだ。まあつまり、周囲から浮いていたってことさ。そのおかげか、女性にはそれなりにモテたが」
「……」
「はは、そんな顔をするな。昔の話だ。当時の私は女性と付き合うよりも、少しでも早く一人前の剣士として認められたくて必死だった。マチルダ騎士の制服と洗練された振る舞いは、一人の異国の少年の人生を一変させた……それだけ影響力があったんだ」
グラスの底に残っていたワインを飲み干して、カミューはふう、と息を吐き出した。少し喋り過ぎたかな、と小声で呟いたカミューに、マイクロトフは首を横に振る。
「いや、とても興味深い話だった。お前は俺の友だからな、俺の知らないお前を知ることができるのは嬉しい」
「……」
今のは素なのか、己 以上に酔っているゆえの発言なのか。自身もほろ酔い状態のカミューが判断しあぐねている中、当のマイクロトフはそのままのテンションで続ける。
「俺はまだ、グラスランドに行ったことがない。いずれ……見てみたいな、お前の故郷を。いつになるか分からないが、叶うことならばお前と二人で――」
「――はい、そこまで。相当酔っているな? マチルダ騎士団随一の堅物と名高い青騎士団長殿は、酒に酔うとどうやら口説き魔になるようだ。だがそういう情熱的な言葉は、お前を心から慕うレディのために取っておけ」
ひらひらと手を振りながら己の言葉を遮ったカミューにムッと唇を引き結んだマイクロトフだったが、酔った勢いで胸に秘めていた想いの一端を口走ってしまったことを恥じ、彼は気まずそうに視線を逸らして黙り込んだ。それゆえに、気付いていなかった。マイクロトフとは逆方向に目を逸らしたカミューがほんのりと頬を染め、何かを堪えるように目を閉じて深く息を吐き出していたことを。
この数年後、紆余曲折を経て二人は本当にグラスランドへ旅立つことになるわけだが、それはまた別の話である。
なんてかっこよくて、なんて気品があるんだろう――子供ながらにカミューはまるで恋する乙女のように胸をときめかせ、大きくなったら僕もあの制服を着たい、マチルダ騎士団に入団したいと思ったものだ。
日々の鍛錬の成果が出たのはもちろん元々才能に恵まれていたこともあってか、彼は若くしてめきめきと頭角を現していった。気が付けばカマロ自由騎士団内でカミューの右に出る者はいなくなり、同騎士団の推挙で、晴れてマチルダ騎士団に入団する運びとなったのだ。
「――つまり、入団の主な動機は制服だった、と」
「ああ。カマロの正騎士の制服は、どうにも私の趣味には合わなくてな。大型の盾に鎖帷子、色は緑・黄系のみ……あれを着て騎士をやっている自分が想像できなかった」
「……確かに想像できないな」
「だろう?」
そう言って笑ったカミューは、自身が纏っている赤騎士団長の服を眺めながら再度口を開く。
「防御面だけで言えば、圧倒的にカマロに軍配が上がるだろう。なにせあちらは大部分が鎧だからな。対して、こちらは布だ。少しでも敵の攻撃を受ければ簡単に破れるし、負傷もする。それでも私は、マチルダの制服を着たいと思った。機能性よりデザイン性を重視しがちなのは昔からだったし、それで身内と揉めたこともあったな」
「揉めた?」
「見た目ばかり気にするな! と何度言われたことか。そういうのにも嫌気が差していたから、私はますます鍛錬に励んだ。まあつまり、周囲から浮いていたってことさ。そのおかげか、女性にはそれなりにモテたが」
「……」
「はは、そんな顔をするな。昔の話だ。当時の私は女性と付き合うよりも、少しでも早く一人前の剣士として認められたくて必死だった。マチルダ騎士の制服と洗練された振る舞いは、一人の異国の少年の人生を一変させた……それだけ影響力があったんだ」
グラスの底に残っていたワインを飲み干して、カミューはふう、と息を吐き出した。少し喋り過ぎたかな、と小声で呟いたカミューに、マイクロトフは首を横に振る。
「いや、とても興味深い話だった。お前は俺の友だからな、俺の知らないお前を知ることができるのは嬉しい」
「……」
今のは素なのか、
「俺はまだ、グラスランドに行ったことがない。いずれ……見てみたいな、お前の故郷を。いつになるか分からないが、叶うことならばお前と二人で――」
「――はい、そこまで。相当酔っているな? マチルダ騎士団随一の堅物と名高い青騎士団長殿は、酒に酔うとどうやら口説き魔になるようだ。だがそういう情熱的な言葉は、お前を心から慕うレディのために取っておけ」
ひらひらと手を振りながら己の言葉を遮ったカミューにムッと唇を引き結んだマイクロトフだったが、酔った勢いで胸に秘めていた想いの一端を口走ってしまったことを恥じ、彼は気まずそうに視線を逸らして黙り込んだ。それゆえに、気付いていなかった。マイクロトフとは逆方向に目を逸らしたカミューがほんのりと頬を染め、何かを堪えるように目を閉じて深く息を吐き出していたことを。
この数年後、紆余曲折を経て二人は本当にグラスランドへ旅立つことになるわけだが、それはまた別の話である。
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