元騎士団長たちと僕の風呂ミュニケーション
「一緒にお風呂に行きませんか」と誘われた。軍のリーダーを務めるリオウ少年曰 く、この本拠地の風呂は広々としていて心地良いらしい。ちょうど早朝鍛錬を終えて汗も掻いたところだ。マイクロトフは快く頷いたものの、一方のカミューは少し考えてからリオウに尋ねる。
「……本当に、私も行ってよろしいのですか?」
「えっ?」
「騎士団に在籍していた頃にも大浴場はありましたが、私が行くと、なぜかほとんどの者がそそくさと立ち去って行ってしまいましてね。そのようなことが続いたので、自然と人の少ない深夜近くに一人きりで入ることが常となっていたのです。落ち着いて入浴することができた一方で、少々寂しくもありましたね」
「カミュー、それは……」
「……なんででしょうね?」
マイクロトフが何か言いかけたが、リオウが首を傾げているのを見て口を噤 んだ。実を言うとカミューとは長い付き合いのマイクロトフも、共に入浴したことがあるのはかろうじて両手で数えるほどだ。それも平騎士時代に数度程度で、団長になってからは一度もない。だが、マイクロトフにはよく分かる。騎士たちが、なぜカミューを避けていたのかが。
(俺はその時のことを、隣で見ていた。カミューが入って行った途端に空気が変わり、皆が顔を赤らめて目を逸らし、その場にいたほとんどの者たちが前を押さえて出て行ったのを。当時はそれが不思議でならなかったが、今なら俺にも分かる。こいつの容姿の美しさと、どことなく醸し出されている色香ゆえだ)
何より今は、マイクロトフ自身もひそかにカミューに親友以上の好意を抱いている。カミューの裸は上半身のみとはいえ見たことがあるので彼がれっきとした男性であることは知っているのだが、今の自分が裸のカミューを見て耐えられるかどうかというのは、いまいち自信がない。しかしだからと言ってそのためにリオウの誘いを断るわけにもいかず、マイクロトフは心の中で「平常心、平常心……」と連呼しながらカミューに呼びかける。
「何を言う、カミュー。リオウ殿からのお誘いだぞ。お前も鍛錬で汗を掻いただろう、せっかくだからご一緒させていただこうじゃないか」
「ああ、そうだな。……それにしても、リオウ殿も随分早起きなのですね。やはりご多忙だからでしょうか?」
「うーん……それもあるけど、早くに目が覚めてしまうことが多くなったから、かな。夢見が悪かったりとか」
「……リオウ殿……」
「い、いやだな、そんな顔をしないでください。僕は大丈夫です。大変なことも多いけど今は今で毎日が充実してるし、この本拠地は僕の、ナナミのもう一つの〝家〟ですから」
途端にしんみりしてしまった元騎士団長二人に慌てて手を振ったリオウは、努めて明るく「行きましょう!」と言って歩き出した。その後に、マイクロトフとカミューも続いた。
なるほど確かに、リオウの言うとおりだった。多くの仲間が集う場所だからか風呂は広々としていて、非常に清潔に保たれている。
衣服を脱ぎ腰にタオルを巻いた三人が湯気が立ち込める浴場へ入って行くと、早朝だからか、運のいいことに貸し切り状態だった。これなら心置きなく楽しめそうだ。
「いい風呂ですね。ゆっくり……と言いたいところですが、私とマイクロトフの部下たちも待っていることですし、ほどほどの時間で済ませましょう」
「それもそうだな。あいつら、カミューはともかく俺にも遠慮があるのか共に入りたがらないものだから……」
「あはは、それはそうですよ。お二人は騎士の皆さんからとても慕われているというか、崇拝さえされているように見えるので」
「崇拝、ですか……そんな域にまで」
「リオウ殿には、そのように見えていらっしゃるのですか」
「誰が見てもそう感じると思うんですけど……」
話しながらそれぞれ椅子に座り、まずはシャワーを浴びることにした。体の汗を流し、顔を洗い、頭も濡らす。
ふと隣に座るカミューが、マイクロトフに目を遣った。それに気付いたマイクロトフはぎょっとして、なるべくカミューの顔だけを見るように視線を返す。
「な、なんだ? カミュー」
「いや……せっかくの機会だし、背中の流し合いをしてみないか? もちろん、リオウ殿もご一緒に」
「えっ、僕も? いいんですか?」
「あなたはこんな我々でも受け入れてくださったリーダーですから。ささやかですが、ぜひご奉仕させてください」
「ご奉仕だなんて、そんな……」
「では、俺が! 俺がリオウ殿のお背中をお流しします。カミュー、お前は俺の背中を頼む」
「お前の馬鹿力でリオウ殿のお背中を……心配だな。きちんと手加減しろよ? で、私はお前の背中を洗えばいいんだな。後で私の背中も頼むよ。もちろん手加減必須でな」
「あ、ああ……」
二人のやりとりを聞いていたリオウが、何かに気付いてわずかに頬を赤らめる。カミューさんが騎士の人たちから避けられていた理由って。マイクロトフさんってもしかして、カミューさんのことを。確かにカミューさんは綺麗な人だけど、どこからどう見ても僕たちと同じ男の人だ。しかも騎士団長まで務めていた人だから、細身ではあるけど筋肉もそれなりについていて――。
「……リオウ殿、どうされたのです? きちんと手加減はさせていただきますので、ご心配なく」
「あ、ああ、うん。じゃあ、お願い……します」
マイクロトフに急かされて、リオウは一番前に置かれた椅子に座る。その後ろにマイクロトフ、さらに後ろにカミューが座った。三人は一列に並び、石鹸を専用のタオルでたっぷりと泡立てると、目の前の背中をごしごしと洗い始める。
「……痛くはないですか? リオウ殿」
「大丈夫です。むしろ気持ちいいです」
「それは良かった。……カミュー、もう少し強く擦 ってもいいんだぞ」
「強く、と言われても。まあ、お前は筋肉量が違うからな……では、もう少しだけ力を入れようか」
カミューが少し力を込めてマイクロトフの背中を擦ると、彼は「そうだ、それくらいだ。いいぞ」と満足したように頷いた。親友の広く逞しい背中を、カミューはひそかに胸を高鳴らせながらじっと見つめる。
「あの、ありがとうございました。あとは自分でできるので、お二人でどうぞ」
背中をマイクロトフに洗ってもらったリオウが椅子から立ち上がり、再びシャワーの蛇口を捻 った。気遣ってもらえるのは嬉しいけど、これ以上邪魔をしてはいけない気がする。僕はひたすら傍観者になろう――そう決めて、リオウは頭からシャワーを浴び始める。
案の定、元騎士団長たちは二人の世界を醸し出し始めた。カミューが前の椅子に座るとマイクロトフがその後ろに座り、彼はおそるおそるといった様子で親友のしなやかな背中を擦り始める。
「……うん、絶妙な力加減だ。いつだったかお前にマッサージを施してもらった時にも思ったが、馬鹿力の割に、ここぞという時の加減は上手いんだな」
「それくらいは俺も心得ている。骨にヒビでも入ったら一大事だからな」
「……」
「はあ……やはり、誰かと入る風呂というのもいいものだな。風呂は交流の場でもあるというが、まったくもってその通りだと思う」
「だが、あまりに混んでいる時はやめておけよ? 狙うなら今回のように早朝、もしくは深夜だ」
「それもそうだな。……またこうして付き合ってくれるか?」
「あ、ああ! お前が望むのなら」
「……」
――つまりマイクロトフさんはカミューさんにマッサージをしたことがあって、カミューさんが多くの人の目に触れることを良しとしない、と。そしてカミューさんも、マイクロトフさんと一緒にお風呂に入りたがっている。噂には聞いていたけど、物凄く仲がいいんだな……というか僕が知らないだけで、もう付き合ってたりする?
僕は何を見せられたんだろう――そう思いながらもそれを表情に出すことはなく、全身を洗い終わったリオウはひと足先に湯船に浸かった。ひとしきりいちゃいちゃしていた元騎士団長たちもようやく離れ、それぞれ体を洗った後に湯船に浸かる。
「ふう……湯加減もちょうどいいですね。これなら多少長く浸かっていてものぼせなさそうです」
「ほどほどの時間で済ませようと言ったのはお前だろう。あれから結構経っているぞ。……あと少し浸かったら上がりましょう。我々があまり長く居座っていると、他の者の迷惑にもなってしまいます」
「そうですね。十数えたら上がりましょう」
リオウの言葉にマイクロトフとカミューは素直に従い、それぞれが心の中で十秒数えると湯船から立ち上がった。すぐに腰にタオルを巻いたリオウが退出すると、マイクロトフ、カミューも同様に続く。
「カミューさん、マイクロトフさん、楽しかったです。お付き合いいただいてありがとうございました」
「こちらこそ。我々で良ければ、またぜひ呼んでください」
「少しでもリオウ殿のお力になれるのならば」
柔らかく微笑むカミューさんと、どこまでも真面目なマイクロトフさん――タイプは違うけどお二人は揃って「美青年」だから、僕の立場からしてみれば「両手に花」なんだけどなぁ。彼らを侍らせることができるという少しの優越感と、例え己 であっても二人の邪魔をしてはいけないのではないかという気持ちの両方がせめぎ合ったリオウは、今度それとなく騎士の皆さんにお二人のことを訊 いてみようと決意したのだった。
この後、配下の騎士たちから団長自慢を聞かされたリオウは思った――「あれでまだ付き合ってないんだ!?」と。
以降も騎士たちやリオウは、元騎士団長たちの異常な距離の近さと親密さを見せつけられる羽目になるのである。
「……本当に、私も行ってよろしいのですか?」
「えっ?」
「騎士団に在籍していた頃にも大浴場はありましたが、私が行くと、なぜかほとんどの者がそそくさと立ち去って行ってしまいましてね。そのようなことが続いたので、自然と人の少ない深夜近くに一人きりで入ることが常となっていたのです。落ち着いて入浴することができた一方で、少々寂しくもありましたね」
「カミュー、それは……」
「……なんででしょうね?」
マイクロトフが何か言いかけたが、リオウが首を傾げているのを見て口を
(俺はその時のことを、隣で見ていた。カミューが入って行った途端に空気が変わり、皆が顔を赤らめて目を逸らし、その場にいたほとんどの者たちが前を押さえて出て行ったのを。当時はそれが不思議でならなかったが、今なら俺にも分かる。こいつの容姿の美しさと、どことなく醸し出されている色香ゆえだ)
何より今は、マイクロトフ自身もひそかにカミューに親友以上の好意を抱いている。カミューの裸は上半身のみとはいえ見たことがあるので彼がれっきとした男性であることは知っているのだが、今の自分が裸のカミューを見て耐えられるかどうかというのは、いまいち自信がない。しかしだからと言ってそのためにリオウの誘いを断るわけにもいかず、マイクロトフは心の中で「平常心、平常心……」と連呼しながらカミューに呼びかける。
「何を言う、カミュー。リオウ殿からのお誘いだぞ。お前も鍛錬で汗を掻いただろう、せっかくだからご一緒させていただこうじゃないか」
「ああ、そうだな。……それにしても、リオウ殿も随分早起きなのですね。やはりご多忙だからでしょうか?」
「うーん……それもあるけど、早くに目が覚めてしまうことが多くなったから、かな。夢見が悪かったりとか」
「……リオウ殿……」
「い、いやだな、そんな顔をしないでください。僕は大丈夫です。大変なことも多いけど今は今で毎日が充実してるし、この本拠地は僕の、ナナミのもう一つの〝家〟ですから」
途端にしんみりしてしまった元騎士団長二人に慌てて手を振ったリオウは、努めて明るく「行きましょう!」と言って歩き出した。その後に、マイクロトフとカミューも続いた。
なるほど確かに、リオウの言うとおりだった。多くの仲間が集う場所だからか風呂は広々としていて、非常に清潔に保たれている。
衣服を脱ぎ腰にタオルを巻いた三人が湯気が立ち込める浴場へ入って行くと、早朝だからか、運のいいことに貸し切り状態だった。これなら心置きなく楽しめそうだ。
「いい風呂ですね。ゆっくり……と言いたいところですが、私とマイクロトフの部下たちも待っていることですし、ほどほどの時間で済ませましょう」
「それもそうだな。あいつら、カミューはともかく俺にも遠慮があるのか共に入りたがらないものだから……」
「あはは、それはそうですよ。お二人は騎士の皆さんからとても慕われているというか、崇拝さえされているように見えるので」
「崇拝、ですか……そんな域にまで」
「リオウ殿には、そのように見えていらっしゃるのですか」
「誰が見てもそう感じると思うんですけど……」
話しながらそれぞれ椅子に座り、まずはシャワーを浴びることにした。体の汗を流し、顔を洗い、頭も濡らす。
ふと隣に座るカミューが、マイクロトフに目を遣った。それに気付いたマイクロトフはぎょっとして、なるべくカミューの顔だけを見るように視線を返す。
「な、なんだ? カミュー」
「いや……せっかくの機会だし、背中の流し合いをしてみないか? もちろん、リオウ殿もご一緒に」
「えっ、僕も? いいんですか?」
「あなたはこんな我々でも受け入れてくださったリーダーですから。ささやかですが、ぜひご奉仕させてください」
「ご奉仕だなんて、そんな……」
「では、俺が! 俺がリオウ殿のお背中をお流しします。カミュー、お前は俺の背中を頼む」
「お前の馬鹿力でリオウ殿のお背中を……心配だな。きちんと手加減しろよ? で、私はお前の背中を洗えばいいんだな。後で私の背中も頼むよ。もちろん手加減必須でな」
「あ、ああ……」
二人のやりとりを聞いていたリオウが、何かに気付いてわずかに頬を赤らめる。カミューさんが騎士の人たちから避けられていた理由って。マイクロトフさんってもしかして、カミューさんのことを。確かにカミューさんは綺麗な人だけど、どこからどう見ても僕たちと同じ男の人だ。しかも騎士団長まで務めていた人だから、細身ではあるけど筋肉もそれなりについていて――。
「……リオウ殿、どうされたのです? きちんと手加減はさせていただきますので、ご心配なく」
「あ、ああ、うん。じゃあ、お願い……します」
マイクロトフに急かされて、リオウは一番前に置かれた椅子に座る。その後ろにマイクロトフ、さらに後ろにカミューが座った。三人は一列に並び、石鹸を専用のタオルでたっぷりと泡立てると、目の前の背中をごしごしと洗い始める。
「……痛くはないですか? リオウ殿」
「大丈夫です。むしろ気持ちいいです」
「それは良かった。……カミュー、もう少し強く
「強く、と言われても。まあ、お前は筋肉量が違うからな……では、もう少しだけ力を入れようか」
カミューが少し力を込めてマイクロトフの背中を擦ると、彼は「そうだ、それくらいだ。いいぞ」と満足したように頷いた。親友の広く逞しい背中を、カミューはひそかに胸を高鳴らせながらじっと見つめる。
「あの、ありがとうございました。あとは自分でできるので、お二人でどうぞ」
背中をマイクロトフに洗ってもらったリオウが椅子から立ち上がり、再びシャワーの蛇口を
案の定、元騎士団長たちは二人の世界を醸し出し始めた。カミューが前の椅子に座るとマイクロトフがその後ろに座り、彼はおそるおそるといった様子で親友のしなやかな背中を擦り始める。
「……うん、絶妙な力加減だ。いつだったかお前にマッサージを施してもらった時にも思ったが、馬鹿力の割に、ここぞという時の加減は上手いんだな」
「それくらいは俺も心得ている。骨にヒビでも入ったら一大事だからな」
「……」
「はあ……やはり、誰かと入る風呂というのもいいものだな。風呂は交流の場でもあるというが、まったくもってその通りだと思う」
「だが、あまりに混んでいる時はやめておけよ? 狙うなら今回のように早朝、もしくは深夜だ」
「それもそうだな。……またこうして付き合ってくれるか?」
「あ、ああ! お前が望むのなら」
「……」
――つまりマイクロトフさんはカミューさんにマッサージをしたことがあって、カミューさんが多くの人の目に触れることを良しとしない、と。そしてカミューさんも、マイクロトフさんと一緒にお風呂に入りたがっている。噂には聞いていたけど、物凄く仲がいいんだな……というか僕が知らないだけで、もう付き合ってたりする?
僕は何を見せられたんだろう――そう思いながらもそれを表情に出すことはなく、全身を洗い終わったリオウはひと足先に湯船に浸かった。ひとしきりいちゃいちゃしていた元騎士団長たちもようやく離れ、それぞれ体を洗った後に湯船に浸かる。
「ふう……湯加減もちょうどいいですね。これなら多少長く浸かっていてものぼせなさそうです」
「ほどほどの時間で済ませようと言ったのはお前だろう。あれから結構経っているぞ。……あと少し浸かったら上がりましょう。我々があまり長く居座っていると、他の者の迷惑にもなってしまいます」
「そうですね。十数えたら上がりましょう」
リオウの言葉にマイクロトフとカミューは素直に従い、それぞれが心の中で十秒数えると湯船から立ち上がった。すぐに腰にタオルを巻いたリオウが退出すると、マイクロトフ、カミューも同様に続く。
「カミューさん、マイクロトフさん、楽しかったです。お付き合いいただいてありがとうございました」
「こちらこそ。我々で良ければ、またぜひ呼んでください」
「少しでもリオウ殿のお力になれるのならば」
柔らかく微笑むカミューさんと、どこまでも真面目なマイクロトフさん――タイプは違うけどお二人は揃って「美青年」だから、僕の立場からしてみれば「両手に花」なんだけどなぁ。彼らを侍らせることができるという少しの優越感と、例え
この後、配下の騎士たちから団長自慢を聞かされたリオウは思った――「あれでまだ付き合ってないんだ!?」と。
以降も騎士たちやリオウは、元騎士団長たちの異常な距離の近さと親密さを見せつけられる羽目になるのである。
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