焔(ほむら)
宿に着き、部屋に入るなり背後から抱きすくめられて、首筋に顔を埋 められた。至近距離に感じる恋人の熱い吐息に甘い疼きを覚えながらも、カミューは己 を閉じ込めているその腕に自身の手を添えて宥 める。
「どうした? マイクロトフ。今日はやけに性急だな」
「……」
だがマイクロトフは答えないどころか、突如カミューの首筋に舌を這わせた。さすがのカミューもびくりと身を震わせ、いくら何でも急過ぎると背後のマイクロトフをやや上擦った声で軽く叱る。
「こ、こら、汗臭いだろう。こういうことは、せめて風呂に入ってから――」
「風呂に入る前のほうが、かえって都合がいい。お前そのものの匂いを感じることができるからな」
「……」
普段は理性の塊のような男だが、晴れて恋人同士になってからというもの、一度火が付くとこれ だ。まいったな……とカミューは溜め息を吐き、優しく囁くように問う。
「お前、今日は変だぞ。何かあったのか?」
「……先程……宿の女主人と話をしていただろう。それも、長い間」
「ああ、確かに話はしたな。それがどうかしたのか?」
「お前は女性と見れば、未 だに愛想良くし過ぎる。気を持たせるような言動は慎めと言っているのに」
「なんだ。まさか、やきもちか?」
「……」
目を丸くしたカミューに、マイクロトフの抱擁がよりいっそう強まった。どうやら図星のようだ。カミューはふっ、と小さく吹き出すと、背後のマイクロトフに体重を預けて笑い混じりに答える。
「あれは社交辞令と、ただの交渉だ。いい部屋はないか、とな」
「交渉……?」
「成人男子二人がただ一晩泊めてくれと言ったんじゃ、部屋を分けられる可能性が高いだろう。だからそれとなくお前と私が〝離れられない関係〟であることを匂わせて、二人で泊まれる部屋を用意してもらったのさ。――見ろ、あのベッドを。いいベッドだと思わないか?」
「!」
カミューが示した部屋の奥のベッドは大人二人が優に寝られるサイズで、この辺りの宿にしてはかなり上等な部類に入るものだと一目で分かった。おまけに部屋も広く、多少の物音を立てても周囲には漏れにくいだろう。――それにしても、だ。
「カ、カミュー……まさか、俺たちの関係をそのまま伝えたのか……?」
「それとなく、と言っただろう。だが、ご主人は少ない言葉ですぐに察してくれてね。受け入れられるかは一種の賭けだったが、彼女は理解のあるレディだったようで助かったよ。チップもはずんだしな」
「……」
カミューと何やらいい雰囲気で話し込んでいた女主人に嫉妬した己は何だったのか。マイクロトフの腕の力が緩んだ隙にカミューが抜け出し、今度はカミューのほうからマイクロトフに抱きついてその首筋に顔を埋める。
「……なるほど。好ましく思う相手の体臭は、多少汗臭くとも気にならない……どころかそそられるな。うん、嗅ぎ慣れているお前の匂いだ」
「……だ」
「……ん?」
「――もう、限界だ。風呂に入る前に、一戦交えよう」
「わっ」
不意にマイクロトフに抱き上げられ、カミューの体はほぼ放り投げられるようにしてベッドに押し倒される。
その上から覆い被さり、再び首筋に顔を埋めてきたマイクロトフの「雄」を感じさせる匂いに包まれたカミューの全身は瞬時にして情欲に燃え上がり、彼は恍惚とした表情で恋人の広い背へ両腕を回したのだった。
「どうした? マイクロトフ。今日はやけに性急だな」
「……」
だがマイクロトフは答えないどころか、突如カミューの首筋に舌を這わせた。さすがのカミューもびくりと身を震わせ、いくら何でも急過ぎると背後のマイクロトフをやや上擦った声で軽く叱る。
「こ、こら、汗臭いだろう。こういうことは、せめて風呂に入ってから――」
「風呂に入る前のほうが、かえって都合がいい。お前そのものの匂いを感じることができるからな」
「……」
普段は理性の塊のような男だが、晴れて恋人同士になってからというもの、一度火が付くと
「お前、今日は変だぞ。何かあったのか?」
「……先程……宿の女主人と話をしていただろう。それも、長い間」
「ああ、確かに話はしたな。それがどうかしたのか?」
「お前は女性と見れば、
「なんだ。まさか、やきもちか?」
「……」
目を丸くしたカミューに、マイクロトフの抱擁がよりいっそう強まった。どうやら図星のようだ。カミューはふっ、と小さく吹き出すと、背後のマイクロトフに体重を預けて笑い混じりに答える。
「あれは社交辞令と、ただの交渉だ。いい部屋はないか、とな」
「交渉……?」
「成人男子二人がただ一晩泊めてくれと言ったんじゃ、部屋を分けられる可能性が高いだろう。だからそれとなくお前と私が〝離れられない関係〟であることを匂わせて、二人で泊まれる部屋を用意してもらったのさ。――見ろ、あのベッドを。いいベッドだと思わないか?」
「!」
カミューが示した部屋の奥のベッドは大人二人が優に寝られるサイズで、この辺りの宿にしてはかなり上等な部類に入るものだと一目で分かった。おまけに部屋も広く、多少の物音を立てても周囲には漏れにくいだろう。――それにしても、だ。
「カ、カミュー……まさか、俺たちの関係をそのまま伝えたのか……?」
「それとなく、と言っただろう。だが、ご主人は少ない言葉ですぐに察してくれてね。受け入れられるかは一種の賭けだったが、彼女は理解のあるレディだったようで助かったよ。チップもはずんだしな」
「……」
カミューと何やらいい雰囲気で話し込んでいた女主人に嫉妬した己は何だったのか。マイクロトフの腕の力が緩んだ隙にカミューが抜け出し、今度はカミューのほうからマイクロトフに抱きついてその首筋に顔を埋める。
「……なるほど。好ましく思う相手の体臭は、多少汗臭くとも気にならない……どころかそそられるな。うん、嗅ぎ慣れているお前の匂いだ」
「……だ」
「……ん?」
「――もう、限界だ。風呂に入る前に、一戦交えよう」
「わっ」
不意にマイクロトフに抱き上げられ、カミューの体はほぼ放り投げられるようにしてベッドに押し倒される。
その上から覆い被さり、再び首筋に顔を埋めてきたマイクロトフの「雄」を感じさせる匂いに包まれたカミューの全身は瞬時にして情欲に燃え上がり、彼は恍惚とした表情で恋人の広い背へ両腕を回したのだった。
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