無二の親友、あるいは

 子供はもちろん女性は守るべき対象ではあるが、そこに必要以上の情、とりわけ色恋が絡むのは苦手だ。
 反面、親友のカミューはレディーファーストを重んじているだけあって女性の扱いを心得ており、女性と仲睦まじく話しているところもたびたび目撃し、されていた。よって、一部の者からは「女好き」のレッテルまで貼られている有様である。
 だが、それは違うとマイクロトフは思う。カミューはよそ行きの顔を作ることに長けている上、夜になるとおのれを自身の部屋に呼ぶか、己の自室へやってくる。勤務中に女性と遊んでいるとは到底考えにくく、カミュー本人も「紳士とたらしはまったく違う」と否定しているのだ。マイクロトフもそのとおりだと思っているし、この言葉を信じている。むしろ素のカミューを知っているのは俺だけだという自負すらあるほどだ。
 そして今日もカミューは数人の女性に囲まれ、笑顔を振りまいていた。やはりよそ行きの顔だなとどこかで安堵していると、そのうち一人の女性がカミューの腕に豊満な胸を押し付けるようにしてしなだれかかり、ちらちらと誘うような視線を投げかけ始めたではないか。――もう見ていられない。マイクロトフは早足でカミューの元へと歩み寄り、声を掛ける。
「カミュー」
「やあ、マイクロトフ。そっちの仕事は終わったのか?」
「ああ、つい今しがた。今日は天気もいい、時間が空き次第共に遠乗りにでもと思っていたんだが……」
 マイクロトフの言葉を聞いた途端、カミューに群がっている女性たちが一斉に悲鳴を上げた。彼女たちは二人の騎士団長を交互に見ながら、口々にはやし立てる。
「まあ、相変わらず仲がよろしくていらっしゃるのね。羨ましいわ」
「できることなら私もご一緒して、お二人の凛々しく美しいお姿を目に焼き付けたいですわ……」
「マイクロトフ様がそうおっしゃるのなら仕方がないですわね。残念ながら、わたくしたちの出る幕はないわ。カミュー様、またお相手してくださいましね」
「もちろん。またお話しましょう、レディ」
 優雅に一礼してから、カミューはマイクロトフと共にその場を去って行く。その場に残された女性たちは後ろ姿まで凛々しい青年たちを見て、うっとりと感嘆の溜め息を吐いた。

「……邪魔をしたか?」
 馬小屋へと向かう道すがらマイクロトフが尋ねると、カミューはいや、と短く答えてから続ける。
「むしろ助かった。お前が私に声を掛けたのは、あの女性の大胆な行動を見たからだろう?」
「そうだ。あれはさすがに目に余った。若い女性があのような……はしたないにも程がある」
「ふふ。いてくれたのか?」
「そ、そんな意図はない!」
「どうだか。まあもしあの時の立場が逆だったら、私は黙って見ていただろうな。面白そうだから」
「……」
「ははは。いい加減、お前も少しは女性に慣れろ。女性に紳士的に接することも騎士の嗜みの一つだぞ。生粋のロックアックス育ちのお前が、よそ者の私に負けてどうする」
「お前……! 実力で赤騎士団長にまで上り詰めたお前が、まだそれを言うか!」
 マイクロトフは、カミューが自身を「よそ者」と卑下することが嫌いだった。「よそ者」でありながら異例のスピードで昇格して行くカミューを快く思わない者たちは一定数いて、そのことで彼はそれなりに苦労してきたわけだが、マイクロトフは常にカミューの味方であり、無二の親友であり、誰よりもそばにいた。今もあの時も己のために怒ってくれるマイクロトフに、カミューは作り笑いではない、自然な笑みを浮かべる。
「相変わらずだな、お前は。冗談を真に受けるな。私がグラスランド人である事実が覆ることはないし、劣等感を抱いているわけでもない。少なくとも、今はな。お前の言うとおり、私は私自身の実力で団長の座に上り詰めた。仮に今でも何か言っているやからがいたとしても、言わせておけばいいのさ」
「お前が見過ごしても、俺の気が済まない。そんな卑劣な輩がいたら、俺が片っ端から叩き潰してやる」
「はいはい。……まったく、真っ直ぐ過ぎるのも困りものだな」
 だが、そんなお前だからこそ私は。――ありがとう。
 当時を思い出したのかすっかり憤慨しているマイクロトフの横顔に、カミューは表面上はやれやれと肩を竦めながらも、心の中で感謝したのだった。
1/1ページ