お姉ちゃんのおもてなし
恋愛とは無縁な生活を送ってきたナナミとて、大人の男性から優しくされれば惹かれないわけがなく。ミューズ市の会議場で出会い、己 を「レディ」と呼んで上司の非礼を詫びてきたマチルダ騎士団赤騎士団長・カミューに、ナナミは少なからず好意を抱いていた。とはいえその感情は恋と言うより憧れに限りなく近いものであり、カミューと彼の親友であるマイクロトフの両者はタイプこそ違えど揃って美青年だったため、純粋に「目の保養」でもあった。美しいものを少しでも長く見ていたいという願望は、誰しもが持っているものだ。
そんなわけでナナミは、新しく本拠地へとやってきたカミューとマイクロトフを「おもてなし」しようと張り切っていた。借り切った厨房からは彼女の楽しそうな鼻歌が聞こえ、ぐつぐつと何かを煮込んでいる音がする。
「……なあ、あそこにいるのって……」
「最近、マチルダ騎士団の奴らが来ただろ? だから、あいつ自ら〝おもてなし〟するんだとさ」
「馬鹿か! あいつだけは厨房に入れるなって言われてただろ! どうして止めなかった!!」
通りすがりの二人組――フリックは顔色を変えたが、一方のビクトールは全く動じることなく、厨房に立っているナナミの後ろ姿をニヤニヤと見つめるだけだ。
「いいねえ、こりゃあ面白いもんが見られそうだ」
「面白がるな! って、もう完成しちまったのか……まさかあいつらも、ここに来て早々あの恐ろしい洗礼を受けることになるとは思ってもみなかっただろうな……かわいそうに……」
「わはは、懐かしいだろ? 俺もお前も通った道だ、あれからちったぁ上達してりゃいいんだがな」
鍋の中身を二つの器に盛り付け、それを盆に載せたナナミはうきうきと厨房から出て行く。視線の先には、あらかじめ声を掛けられていたと思われるカミューとマイクロトフの姿。並んでいるだけで絵になる二人だ。
「カミューさん、マイクロトフさん、座って座って! わたしからのおもてなしっていうのは、これ! 『ボリューム満点! ナナミ特製お肉ごろごろビーフシチュー』! 頑張って作ったから、ぜひ食べてほしくて」
「おお……なんと、ナナミ殿お手製料理ですか。これはかたじけない」
「ナナミ殿が、わざわざ我々のために……? レディの手作り料理と来ては、味わわないわけにはいきませんね。では、ありがたくいただきましょう」
ネーミングどおりたっぷり肉が入っていることに喜ぶ肉好きのマイクロトフと、女性の手作り料理に敬意を表するカミュー――二人は目の前に置かれたナナミ特製シチューを見て、笑顔になる。
「この焼き立てパンと一緒に召し上がれ! おかわりもありますからねっ」
「はい。――よし、いただこうか」
「そうだな。では、さっそく」
カミューとマイクロトフは両手を合わせ、「いただきます」と口にしてからスプーンを手に取った。銀色のスプーンで皿の中身を掬 い、それをひと口、口に含み――
「ゴフッ!!」
「ン゙ン゙ッ!」
同時に噎 せた。その様子を後ろから見ていたフリックが片手で顔を覆い、ブハッ! と吹き出したビクトールが実に楽しそうに解説を始める。
「おおっとぉ元青騎士団長マイクロトフ、美味 さのあまりにすっかり感じ入っている! 元赤騎士団長カミュー、どうした? 感激のあまりにうまい言葉が出て来ないか?」
「そ、そんなに……!?」
ビクトールの言葉をそのまま受け取ったナナミがきらきらと目を輝かせ、
「違うぞ。絶対に違うからな。……はあ……」
衝撃のあまりに固まりみるみるうちに青褪め始めた元騎士団長たちに、唯一の良心であるフリックは心底同情したのだった。
P.S.残りのナナミ特製シチューは、彼女の義理の弟兼この軍のリーダーを務める少年をはじめ味オン……食いしん坊の仲間たちで美味しくいただきましたとさ。
そんなわけでナナミは、新しく本拠地へとやってきたカミューとマイクロトフを「おもてなし」しようと張り切っていた。借り切った厨房からは彼女の楽しそうな鼻歌が聞こえ、ぐつぐつと何かを煮込んでいる音がする。
「……なあ、あそこにいるのって……」
「最近、マチルダ騎士団の奴らが来ただろ? だから、あいつ自ら〝おもてなし〟するんだとさ」
「馬鹿か! あいつだけは厨房に入れるなって言われてただろ! どうして止めなかった!!」
通りすがりの二人組――フリックは顔色を変えたが、一方のビクトールは全く動じることなく、厨房に立っているナナミの後ろ姿をニヤニヤと見つめるだけだ。
「いいねえ、こりゃあ面白いもんが見られそうだ」
「面白がるな! って、もう完成しちまったのか……まさかあいつらも、ここに来て早々あの恐ろしい洗礼を受けることになるとは思ってもみなかっただろうな……かわいそうに……」
「わはは、懐かしいだろ? 俺もお前も通った道だ、あれからちったぁ上達してりゃいいんだがな」
鍋の中身を二つの器に盛り付け、それを盆に載せたナナミはうきうきと厨房から出て行く。視線の先には、あらかじめ声を掛けられていたと思われるカミューとマイクロトフの姿。並んでいるだけで絵になる二人だ。
「カミューさん、マイクロトフさん、座って座って! わたしからのおもてなしっていうのは、これ! 『ボリューム満点! ナナミ特製お肉ごろごろビーフシチュー』! 頑張って作ったから、ぜひ食べてほしくて」
「おお……なんと、ナナミ殿お手製料理ですか。これはかたじけない」
「ナナミ殿が、わざわざ我々のために……? レディの手作り料理と来ては、味わわないわけにはいきませんね。では、ありがたくいただきましょう」
ネーミングどおりたっぷり肉が入っていることに喜ぶ肉好きのマイクロトフと、女性の手作り料理に敬意を表するカミュー――二人は目の前に置かれたナナミ特製シチューを見て、笑顔になる。
「この焼き立てパンと一緒に召し上がれ! おかわりもありますからねっ」
「はい。――よし、いただこうか」
「そうだな。では、さっそく」
カミューとマイクロトフは両手を合わせ、「いただきます」と口にしてからスプーンを手に取った。銀色のスプーンで皿の中身を
「ゴフッ!!」
「ン゙ン゙ッ!」
同時に
「おおっとぉ元青騎士団長マイクロトフ、
「そ、そんなに……!?」
ビクトールの言葉をそのまま受け取ったナナミがきらきらと目を輝かせ、
「違うぞ。絶対に違うからな。……はあ……」
衝撃のあまりに固まりみるみるうちに青褪め始めた元騎士団長たちに、唯一の良心であるフリックは心底同情したのだった。
P.S.残りのナナミ特製シチューは、彼女の義理の弟兼この軍のリーダーを務める少年をはじめ味オン……食いしん坊の仲間たちで美味しくいただきましたとさ。
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