ON&OFF

 マチルダ騎士団は白・赤・青騎士団の三騎士団から成る騎士団で、くらいも上から順に白・赤・青となっている。中でも白騎士団長ゴルドーは騎士団全体を統括する最高指導者であり、騎士たちはゴルドーはもちろんのこと、自らが属する騎士団の団長に忠誠を誓っているのだ。
 そして不思議なことに、各騎士団の騎士たちの気質も、それぞれの団長に似るという傾向があった。
 ゴルドー率いる白騎士団の騎士たちは、傲岸不遜。
 カミュー率いる赤騎士団の騎士たちは、冷静沈着。
 マイクロトフ率いる青騎士団の騎士たちは、勇壮活発。
 よって大半の白騎士たちは赤・青騎士団の騎士たちを見下していたが、赤騎士団と青騎士団は団長同士の仲が良いため、上下関係はほとんど存在しないと言っても良かった。赤騎士たちと青騎士たちは団の垣根を越えて交流を深め、時には合同鍛錬を行ったりもする。つまり両騎士団は、実に上手くやっていたのである。

 赤・青騎士団の騎士たちにとって、仲の良い団長を眺めることは日々の癒しでもあった。たまに――否、結構な頻度で「いくらなんでも仲が良過ぎだろう」という感想を抱くこともあったが、いがみ合っている姿を見るよりはずっといい。我々はお二人を温かく見守りつつ、決してお邪魔はしない。両騎士団の騎士たちの誰もが、この心持ちだった。
 だが――今日はそんな「仲良しコンビ」の間に、暗雲が立ち込めていた。いくさで気が昂っていたのもあったのだろうが、赤騎士団の陣地に、マイクロトフが怒りも露わに乗り込んで来たのである。
「カミュー! やはり先程のめいは納得が行かない! なぜあの状況で後退を命じた!?」
「……騒々しいな。私が、そうしたほうがいいと判断したからだ。相手の情報が不足している中で、下手にこちらから動けばどうなるか。お前にも分かるだろう」
「我々に助けを求めていた民がいたんだぞ! にもかかわらず傍観を決め込むとは、これの何が騎士か!!」
「その助けを求めていたという民も、正体を探らせてみたが不明な点が多かった。そのような得体の知れない者たちにまで手を差し伸べろと? 残念ながら、それは我々の仕事ではない。あと少し動きがないようであれば、撤退する」
「……っ、しかし……!」
「――青騎士団長マイクロトフ。これは命令・・だ」
 カミューの感情を伴わない平坦な声が、氷のように冷たい眼光が、マイクロトフを射竦めた。彼は拳を握り締めて歯を食いしばり、「……承知した」と短く答える。
 その一部始終を見ていた赤騎士たちと、マイクロトフを止めようとついてきた二人の青騎士が、背筋を凍らせる。彼らは思った――「赤騎士団と青騎士団の間に上下関係が無いというのは嘘だ」と。
 この直後、後方から様子を見ていた白騎士団長ゴルドーから正式に撤退命令が出たことで、騎士団は一斉に引き上げて行った。そして、カミューの判断が間違っていなかったことも判明したのである。

 赤・青騎士団の騎士たちは、カミューとマイクロトフがこのまま険悪な関係になるのではと心配し、心を痛めていた。しかし彼らはロックアックス城下に足を踏み入れた途端に、肩を並べて歩き始めたではないか。その表情も、いつもどおりのものだ。
「……言っただろう? 私の悪い勘はよく当たる、と」
「そうだな、危ないところだった。しかし、まさか俺たちに助けを求めていた民たちが、よりにもよって敵側とグルだったとは。道理ではっきりと素性を明かさなかったわけだ。やはりお前は凄いな」
「お前はもう少し慎重になれ。それで何度痛い目に遭っていると思っている。まったく、いつまで経っても手のかかる青騎士団長殿だ」
 え? え?? と、騎士たちは互いの顔と和やかに話す二人の団長を交互に見遣る。
 なるほど、これが仕事とプライベートの「オン/オフスイッチ」――とりあえず、団長たちが元通りになってくれて良かった。少し距離が近過ぎる気もするが、と騎士たちはほっと胸を撫で下ろし、彼らにもようやく笑顔が戻ったのだった。
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