夜風に吹かれて

 火照った体を冷ますため、二人でベランダへと出る。
 ほとんどの村人たちが灯りを落とし、寝静まる夜。夜空には明るい月と満天の星、吹き抜ける夜風。その心地良さにカミューが目を細め、かたわらに立つマイクロトフも夜空を見上げる。
「……やはりグラスランドの風は、私の身に馴染むな。身も心も都市同盟領の人間になったかと思っていたが、根の部分は変わっていなかったようだ」
「それはそうだろう。お前がロックアックスに来たのは、ほぼ大人と言える年齢になってからだ。生まれ育った地を恋しく思うのは、至極当然だと思うぞ」
「逆に今、お前はロックアックスが恋しいだろう」
「……正直に言うと少し、な。ここは俺にとっては異国の地だからな。だがお前について行くと言ったのは、他ならぬ俺だ。お前の故郷をこの目で見てみたかったのはもちろん、今更お前のいない騎士団になど……」
「はいはい、次期騎士団長候補がそんな弱音を吐くな。晴れて恋仲になってからというもの、すっかり私にべったりだな。困った男だ」
 カミューに軽く背を叩かれなだめられたマイクロトフは、むう、と口を尖らせる。
「人のことが言えるか。お前こそ、俺がついていくと言った時は半泣きだったじゃないか」
「半泣き? 冗談だろう。お前の愛の告白に胸を打たれはしたが、断じて泣いてはいない」
「いや、あの時の顔は泣いていたも同然……」
「泣いていない」
「……」
「……」
 む、とカミューも口を尖らせ、マイクロトフと睨み合う。しかしそれは長くは続かず、ほどなくして二人はぷっ、と小さく吹き出した。痴話喧嘩にすらならない。
「ははは、睨めっこは引き分けだな。泣いた・泣いていない論争も終わりにしよう。私は泣いていない」
「お前は変な所で強情だな……まあいい。そろそろ部屋に戻らないか? 体を冷やし過ぎるのは良くない」
 体を気遣う言葉に「いや、もう少し」と答えたカミューは、そのままマイクロトフにしなだれかかると、吐息混じりに囁く。
「……あれだけ激しくされて、そう簡単に熱が冷めると思うか?」
「!!」
「今回ばかりは、本気で死ぬかと思ったぞ。いくら我慢に我慢を重ねていたとはいえ、あれは」
「わ、悪かった。実は、途中から意識が飛んで……その、大丈夫か……?」
「大丈夫じゃなかったら私は今ここに立っていないし、お前の恋人なんてやっていないさ。色々な意味でな」
「……」
 平然と言ってのけるカミューの細い腰を、マイクロトフがごく自然な流れで抱き寄せる。
 ぴったりと身を寄せ合った二人は、ほとぼりが完全に冷めるまでグラスランドの夜風を存分に感じることにしたのだった。
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