赤・青元騎士団長二人旅
馬ではなく徒歩で旅をしていると、宿のある村や町に辿り着けないことがある。「今日はもう歩きたくないからここで野宿をしよう」と言い出したカミューに、マイクロトフはやや呆れながらも従うことにする。
「まだまだ鍛え方が足りないな。だから朝の鍛錬に付き合えとあれほど」
「絶対に嫌だ。言っただろう、私は〝そこそこ頑張る〟を信条としている、と。力を入れるべき時は入れるが、そうでない時は適度にやる。誰もがお前のような体力お化けではないんだ」
「はあ……そんなだから新同盟軍で戦っていた時、軍主殿に度々 迷惑をかけていたんだ。何度モンスターとの戦いで気を失った? 明らかに体力不足のせいだろう」
「あれはあのモンスターが、なぜか私ばかりを狙ってきたからで……過去のことはもういいだろう。少し休みたい。一日歩き通しだったんだ、お前も休め」
そう言って地面に座ったカミューへ、だがマイクロトフは倣 うことなくその場に立ったまま、
「俺はまだ動ける。焚き火をするための薪が必要だろう、集めてくる」
言い終えるなり近くの茂みの中へと入って行ってしまった。頼もしい反面、どれだけ体力が有り余ってるんだ、とカミューは思う。
(……まあ、同行を申し出てきたのはあいつだからな。初めは驚いたが、同時に嬉しくもあった。私一人で行かせるのは心配だからというのと、純粋にグラスランドに行ってみたかったというのと……何はともあれ、私としてはとても心強い。確かに今回は、外の世界を知る絶好の機会でもあったのかもしれないな)
一人旅では味わうことがなかったであろう温かい気持ちが、胸を満たす。時折先程のように小言も言うが、そのほとんどが私の身を案じてのことだ。良き友を持ったなとしみじみ思っていると、背後の茂みがガサガサと揺れる音がした。戻って――来るには、少し早過ぎる。それに、このただならぬ気配は。
「……へっへっへ、一人か。こりゃあツイてるな」
「しかも、よく見たらかなりの上玉じゃねえか。このツラなら、野郎でも金になりそうだ。そっちの趣味の金持ちに売り渡せば……」
「売り飛ばす前に楽しませてもらうってのも手だぜ? お前らがヤらねえっていうんなら、俺一人でも――」
薄汚い身なりに、下卑た言動――俗に言う「ごろつき」だ! ざっと数えたところ、五人。すっくと立ち上がり剣の柄に手を掛けるカミューを見て、ごろつきたちはニヤニヤと笑いながら舌なめずりをする。
「そっちは一人、こっちは五人だ。無駄な抵抗はしねえほうが身のためだぞ」
「どっかのワケありお貴族様か何かか? なら有り金全部と、そのマントの下に着ている服を寄越しな。そうすれば、見逃してやらんでもないぜ」
ごろつきたちはカミューを取り囲み、じりじりと距離を詰めてくる。マイクロトフは、まだ戻って来ない――。
「……うん、こんなものか」
思いのほか遠くまで来てしまった。だがそのおかげで大量の薪が手に入ったなと、マイクロトフは口元を綻ばせる。これだけあれば、以前立ち寄った村で買っておいた食材を焼いて食べるくらいはできるはずだ。途中で火が燃え尽きるようであれば、また俺が調達しに行けばいい。あいつに同行する以上は、できる限り力になるつもりだ。
(……ん? 向こうのほうが騒がしいな)
俺たち以外にも野宿をしている者がいるのか? 初めはそう思ったが、来た道を戻るうちに、それはカミューがいる方角から聞こえてくるものだと分かった。すぐに只事ではないと気付いて、マイクロトフは顔色を変える。
(カミュー!!)
拾い集めた薪を放り出しマイクロトフが駆け出すと、突然視界の先が明るくなり、轟音と共に真っ赤な火柱が上がった。
「うわああっ、熱い、熱い! 助けてくれぇっ!!」
「マズい! よりにもよって烈火の紋章の使い手か! このままじゃ全員焼き殺されちまうぞ!!」
「――集団でよってたかって旅人を襲うとは、感心しませんね。それに私は、貴族などではありませんよ」
自身が放った烈 しい火魔法とは裏腹に涼しげな顔で言うカミューに、ごろつきたちは途轍もない恐怖を覚えた。先程の力はあくまでも牽制で、あれをまともに食らったら全員即死、こいつは怒らせてはいけない人間だと、即座に悟る。火の紋章の使い手はさほど珍しくはないが、その上位である烈火の紋章を使いこなすとは、明らかに只者ではない。
「じゃあ、てめえはいったい何者だってん――」
「カミュー! 無事か!?」
そこへ長身の黒髪の男が飛び込んできて、ごろつきたちは目と耳を疑った。こいつは一人ではなかったのか、という驚きはもちろんだが、それよりも。
「……カミュー? どこかで聞いた気が……」
「ようやく戻ったか、マイクロトフ。心配をかけたようだな」
「マイクロトフ……?」
「おい、まさか……」
戸惑いざわつくごろつきたちに追い打ちをかけるように、カミューとマイクロトフは旅装束として身に付けていた外套を脱ぎ去った。彼らがその中に着ていたのは――。
「そ、その服は……! 間違いねえ、マチルダ騎士団の制服だ! しかも、赤と青の……」
「元赤騎士団長・カミューに、元青騎士団長・マイクロトフ……マチルダ騎士団脱退後は新同盟軍で戦ってたっていう……」
「や、やべえ。ケンカを売っていい相手じゃな……」
「――俺が少し目を離した隙に、このようなことになっていたとは。友が無事だったとはいえ、貴様らのような輩 を見逃すわけにはいかない!」
「これでも一応騎士ではあるのでね。見かけてしまった以上は取り締まるのも我々の務めかと」
マイクロトフが真っ直ぐに剣を構え、カミューは『烈火の紋章』を宿した右手の甲をごろつきたちに向ける。マチルダ騎士団最強の騎士と謳 われたマイクロトフと、騎士でありながら紋章の使い手でもあるカミュー。ごろつきたちに、勝ち目はなかった。
二人の元騎士団長にたっぷり懲らしめられたごろつきたちは、「もう二度と略奪行為はせず、どこかで仕事を見つけて真面目に働く」と約束して去って行った。おとなしく捕まった者もいたが、一部の抵抗してきた者たちにはマイクロトフによる強烈な一撃と、カミューの紋章で髪や髭、尻を焦がされるといった〝罰〟が課された。懲りずにまたどこかで悪さを働いているのを見つけたら、その時は容赦はしない、とも付け加えて。
「ふう……何事もなくて良かったものの、途中で放り出してきた薪を拾って来なければならない。あんな連中が出没する場所で野宿というのも考えものだな」
「さすがに二度は無いだろう。仮にあったとしても、この紋章があればなんとかなるさ」
「紋章の力に頼り過ぎるな。そう何度も使えるわけではないだろう。……薪を拾ってくる」
「ああ、頼む。私も行くと言いたいところだが、荷物を放ったらかしにしていくわけにはいかないからな」
再び外套を羽織り、夜の寒さと騎士の服の保護に備える。こうしていれば、二人はただの旅人同然だ。
故郷の家族に友をどう紹介しようと日々考えているカミューと、グラスランドそのものを楽しみ、まだ見ぬ友の故郷『カマロ自由騎士団』とはどんなものなのかと胸を弾ませるマイクロトフ――彼らの二人旅は、まだ始まったばかりである。
「まだまだ鍛え方が足りないな。だから朝の鍛錬に付き合えとあれほど」
「絶対に嫌だ。言っただろう、私は〝そこそこ頑張る〟を信条としている、と。力を入れるべき時は入れるが、そうでない時は適度にやる。誰もがお前のような体力お化けではないんだ」
「はあ……そんなだから新同盟軍で戦っていた時、軍主殿に
「あれはあのモンスターが、なぜか私ばかりを狙ってきたからで……過去のことはもういいだろう。少し休みたい。一日歩き通しだったんだ、お前も休め」
そう言って地面に座ったカミューへ、だがマイクロトフは
「俺はまだ動ける。焚き火をするための薪が必要だろう、集めてくる」
言い終えるなり近くの茂みの中へと入って行ってしまった。頼もしい反面、どれだけ体力が有り余ってるんだ、とカミューは思う。
(……まあ、同行を申し出てきたのはあいつだからな。初めは驚いたが、同時に嬉しくもあった。私一人で行かせるのは心配だからというのと、純粋にグラスランドに行ってみたかったというのと……何はともあれ、私としてはとても心強い。確かに今回は、外の世界を知る絶好の機会でもあったのかもしれないな)
一人旅では味わうことがなかったであろう温かい気持ちが、胸を満たす。時折先程のように小言も言うが、そのほとんどが私の身を案じてのことだ。良き友を持ったなとしみじみ思っていると、背後の茂みがガサガサと揺れる音がした。戻って――来るには、少し早過ぎる。それに、このただならぬ気配は。
「……へっへっへ、一人か。こりゃあツイてるな」
「しかも、よく見たらかなりの上玉じゃねえか。このツラなら、野郎でも金になりそうだ。そっちの趣味の金持ちに売り渡せば……」
「売り飛ばす前に楽しませてもらうってのも手だぜ? お前らがヤらねえっていうんなら、俺一人でも――」
薄汚い身なりに、下卑た言動――俗に言う「ごろつき」だ! ざっと数えたところ、五人。すっくと立ち上がり剣の柄に手を掛けるカミューを見て、ごろつきたちはニヤニヤと笑いながら舌なめずりをする。
「そっちは一人、こっちは五人だ。無駄な抵抗はしねえほうが身のためだぞ」
「どっかのワケありお貴族様か何かか? なら有り金全部と、そのマントの下に着ている服を寄越しな。そうすれば、見逃してやらんでもないぜ」
ごろつきたちはカミューを取り囲み、じりじりと距離を詰めてくる。マイクロトフは、まだ戻って来ない――。
「……うん、こんなものか」
思いのほか遠くまで来てしまった。だがそのおかげで大量の薪が手に入ったなと、マイクロトフは口元を綻ばせる。これだけあれば、以前立ち寄った村で買っておいた食材を焼いて食べるくらいはできるはずだ。途中で火が燃え尽きるようであれば、また俺が調達しに行けばいい。あいつに同行する以上は、できる限り力になるつもりだ。
(……ん? 向こうのほうが騒がしいな)
俺たち以外にも野宿をしている者がいるのか? 初めはそう思ったが、来た道を戻るうちに、それはカミューがいる方角から聞こえてくるものだと分かった。すぐに只事ではないと気付いて、マイクロトフは顔色を変える。
(カミュー!!)
拾い集めた薪を放り出しマイクロトフが駆け出すと、突然視界の先が明るくなり、轟音と共に真っ赤な火柱が上がった。
「うわああっ、熱い、熱い! 助けてくれぇっ!!」
「マズい! よりにもよって烈火の紋章の使い手か! このままじゃ全員焼き殺されちまうぞ!!」
「――集団でよってたかって旅人を襲うとは、感心しませんね。それに私は、貴族などではありませんよ」
自身が放った
「じゃあ、てめえはいったい何者だってん――」
「カミュー! 無事か!?」
そこへ長身の黒髪の男が飛び込んできて、ごろつきたちは目と耳を疑った。こいつは一人ではなかったのか、という驚きはもちろんだが、それよりも。
「……カミュー? どこかで聞いた気が……」
「ようやく戻ったか、マイクロトフ。心配をかけたようだな」
「マイクロトフ……?」
「おい、まさか……」
戸惑いざわつくごろつきたちに追い打ちをかけるように、カミューとマイクロトフは旅装束として身に付けていた外套を脱ぎ去った。彼らがその中に着ていたのは――。
「そ、その服は……! 間違いねえ、マチルダ騎士団の制服だ! しかも、赤と青の……」
「元赤騎士団長・カミューに、元青騎士団長・マイクロトフ……マチルダ騎士団脱退後は新同盟軍で戦ってたっていう……」
「や、やべえ。ケンカを売っていい相手じゃな……」
「――俺が少し目を離した隙に、このようなことになっていたとは。友が無事だったとはいえ、貴様らのような
「これでも一応騎士ではあるのでね。見かけてしまった以上は取り締まるのも我々の務めかと」
マイクロトフが真っ直ぐに剣を構え、カミューは『烈火の紋章』を宿した右手の甲をごろつきたちに向ける。マチルダ騎士団最強の騎士と
二人の元騎士団長にたっぷり懲らしめられたごろつきたちは、「もう二度と略奪行為はせず、どこかで仕事を見つけて真面目に働く」と約束して去って行った。おとなしく捕まった者もいたが、一部の抵抗してきた者たちにはマイクロトフによる強烈な一撃と、カミューの紋章で髪や髭、尻を焦がされるといった〝罰〟が課された。懲りずにまたどこかで悪さを働いているのを見つけたら、その時は容赦はしない、とも付け加えて。
「ふう……何事もなくて良かったものの、途中で放り出してきた薪を拾って来なければならない。あんな連中が出没する場所で野宿というのも考えものだな」
「さすがに二度は無いだろう。仮にあったとしても、この紋章があればなんとかなるさ」
「紋章の力に頼り過ぎるな。そう何度も使えるわけではないだろう。……薪を拾ってくる」
「ああ、頼む。私も行くと言いたいところだが、荷物を放ったらかしにしていくわけにはいかないからな」
再び外套を羽織り、夜の寒さと騎士の服の保護に備える。こうしていれば、二人はただの旅人同然だ。
故郷の家族に友をどう紹介しようと日々考えているカミューと、グラスランドそのものを楽しみ、まだ見ぬ友の故郷『カマロ自由騎士団』とはどんなものなのかと胸を弾ませるマイクロトフ――彼らの二人旅は、まだ始まったばかりである。
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