故郷への旅路
ヒュッ、と風を切る音がして、放たれた矢が獲物へと向かった。それは見事に命中し、標的となった野兎はしばらく痙攣した後に動かなくなる。
「……ふう。久しぶりに弓を使ったが、なんとかなったな」
「その割には一発で仕留めたじゃないか。素晴らしいな。久方ぶりとは思えない腕前だ」
手放しで褒めるマイクロトフへ「まあ、グラスランド人の嗜みさ」と答えたカミューは、これまた慣れた手つきで野兎を捌 き始めた。普段は優雅で貴族然としているのに、さすがはグラスランドの民というべきか、たまにこうして妙に野性的な一面を覗かせることがあるんだよなと、マイクロトフは思う。
「――よし、こんなものか。あとは焼くだけだ。旅先だから凝った味付けはできないが、次の村に着くまでの腹塞ぎくらいにはなるだろう。しっかり食べて、道中に備えてくれ」
「ああ。何から何まですまんな、カミュー」
隣に腰を下ろしたマイクロトフに、カミューは無言で微笑んでから火を起こし、肉を焼き始めた。マチルダ騎士団に、そして新同盟軍の本拠地にいた頃に食べていた料理とは全くと言っていいほど比べ物にならないが、唯一無二の親友であり、今は恋人同士でもある男と二人きりで過ごす時間は、他の何にも代えがたい。そんな幸せな気分に浸っていたのも束の間、ふと熱い視線に気付いてカミューがそちらを見遣ると、同じ気分を味わっているのかいつになく口元を綻ばせ、愛おしそうに己 を見つめるマイクロトフと目が合った。マチルダ騎士団随一の堅物男と言われていたマイクロトフにこんな顔をさせられるのは、世界広しといえどもカミューだけだろう。二人の間に甘い空気が流れ、どちらからともなく顔を近付けたものの、彼らは唇は重ねずただ至近距離で見つめ合う。
「……いくら兎肉では物足りないからと言って、私を食べるなよ?」
「分かっている。俺は外で事に及ぶほど恥知らずではない」
「うーん、確かに野外で致したことはまだ無いな。その分、宿に無事ありつけた日の夜のお前ときたら――」
「カミュー!!」
「ははは。最近泊まった宿は軒並み壁が薄かったからな、さぞ欲求不満だろう。……やや遠回りにはなってしまうが、この先にグラスランドでも比較的近代的で頑丈な建物が立ち並ぶ村があるんだ。そう急ぐ旅でもないし、ついでに立ち寄ってみてもいいかもしれないな」
つまり、その村に行けば。カミューからの「提案」と「お誘い」に、マイクロトフは恥ずかしさ半分、期待の気持ち半分で全身が燃え上がるように熱くなる。
「ふふ、耳まで真っ赤じゃないか。一度タガが外れたらあれだけ情熱的なのに、平時はいつまで経ってもウブなままだな、お前は。……ほら、早く食べないと肉が冷めて硬くなってしまうぞ」
正直、食事どころではないのだが。しかしここは持ち前の鉄の自制心を行使して、今は我慢だ。一つ年上の魔性の恋人を前にマイクロトフは詰めていた息を深く吐き出すと、雑念を振り払うように焼きたての肉に齧 り付いたのだった。
「……ふう。久しぶりに弓を使ったが、なんとかなったな」
「その割には一発で仕留めたじゃないか。素晴らしいな。久方ぶりとは思えない腕前だ」
手放しで褒めるマイクロトフへ「まあ、グラスランド人の嗜みさ」と答えたカミューは、これまた慣れた手つきで野兎を
「――よし、こんなものか。あとは焼くだけだ。旅先だから凝った味付けはできないが、次の村に着くまでの腹塞ぎくらいにはなるだろう。しっかり食べて、道中に備えてくれ」
「ああ。何から何まですまんな、カミュー」
隣に腰を下ろしたマイクロトフに、カミューは無言で微笑んでから火を起こし、肉を焼き始めた。マチルダ騎士団に、そして新同盟軍の本拠地にいた頃に食べていた料理とは全くと言っていいほど比べ物にならないが、唯一無二の親友であり、今は恋人同士でもある男と二人きりで過ごす時間は、他の何にも代えがたい。そんな幸せな気分に浸っていたのも束の間、ふと熱い視線に気付いてカミューがそちらを見遣ると、同じ気分を味わっているのかいつになく口元を綻ばせ、愛おしそうに
「……いくら兎肉では物足りないからと言って、私を食べるなよ?」
「分かっている。俺は外で事に及ぶほど恥知らずではない」
「うーん、確かに野外で致したことはまだ無いな。その分、宿に無事ありつけた日の夜のお前ときたら――」
「カミュー!!」
「ははは。最近泊まった宿は軒並み壁が薄かったからな、さぞ欲求不満だろう。……やや遠回りにはなってしまうが、この先にグラスランドでも比較的近代的で頑丈な建物が立ち並ぶ村があるんだ。そう急ぐ旅でもないし、ついでに立ち寄ってみてもいいかもしれないな」
つまり、その村に行けば。カミューからの「提案」と「お誘い」に、マイクロトフは恥ずかしさ半分、期待の気持ち半分で全身が燃え上がるように熱くなる。
「ふふ、耳まで真っ赤じゃないか。一度タガが外れたらあれだけ情熱的なのに、平時はいつまで経ってもウブなままだな、お前は。……ほら、早く食べないと肉が冷めて硬くなってしまうぞ」
正直、食事どころではないのだが。しかしここは持ち前の鉄の自制心を行使して、今は我慢だ。一つ年上の魔性の恋人を前にマイクロトフは詰めていた息を深く吐き出すと、雑念を振り払うように焼きたての肉に
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