異国語の響き

 「赤騎士団長カミューと青騎士団長マイクロトフは、属する騎士団は違うものの大体一緒にいる」。彼らが所属するマチルダ騎士団内ではもちろん、騎士団の城下街であるロックアックスの民たちの間でも有名な話だ。
 だがいくさとなれば白・赤・青騎士団それぞれに役割があり、当然のことながら陣営も異なる。さらに戦の規模や内容によっては三騎士団で最も下位に位置する青騎士団のみが出陣という場合もあって、単独で戦地へと向かう青騎士団を赤騎士団が後方からサポートに回るパターンもよくあることだった。今がまさにそれだ。
「しかし……先日大怪我をしてまだ間もないのに、ゴルドー様も人が悪い。いくら青騎士団が血気盛んな人間の集まりだからといって、こうも情け容赦なく働かせるか?」
「何を言う、カミュー。俺は騎士で、しかも青騎士団の団長だぞ。戦場に立ち領民を守ることこそ騎士の務め。剣を振るえぬ騎士など、ただのなまくらだ」
「お前お得意の根性論でどうにかなるものではないぞ。この日数では、あの時に負った傷はまだ完全には塞がっていないはずだ。いざという時に傷が開いたら……」
「それは俺も分かっている。だから今回は、いつものような戦い方はしない。部下たちにもそう伝えてある」
「?」
 怪訝な顔をするカミューへ、胸のあたりで拳を作ったマイクロトフが得意そうに言う。
「俺たちは〝友〟だからな。お前自身のことはまだまだ理解できているとは言い難いが、戦術はある程度把握しているつもりだ。――攻める戦い方ではなく、守る戦い方をする。手本は、赤騎士団だ」
「……!」
 直情的で熱くなりやすい性格ゆえに「脳筋」と言われることがあるマイクロトフだが、決してそうではないことを、カミューは知っている。彼は意外とおのれのことをよく見ているし、知ることに貪欲だ。そんなマイクロトフが最も信頼する親友であるカミューの戦術を取り入れ、本気で真似まねれば。
「……できるのか?」
「できるとも。何年の付き合いだと思っている。むろん敵の出方にもよるが、やり遂げてみせる。俺とて無駄死にしたくはないからな」
「そうか。ならば、お前を信じよう。……――、――……」
「……ん? 今、何と?」
 突然カミューの口から聞いたことのない言葉が囁かれ、マイクロトフはもう一度聞き取ろうと身を乗り出した。だがカミューはふ、と微笑み、マイクロトフを正面から見つめる。
「今のはグラスランドの古い言葉で、まあ……簡単に言えば『ご武運を』という意味さ。なぜか急に頭に浮かんでね。何年ぶりに使っただろうか」
「そうなのか。……神秘的な響きだな。他の言葉も聞いてみたくなったぞ」
「そうか? 気に入ったのなら後でもう一つくらい披露してもいいが、向こうには長らく帰っていないから、実は少し忘れかけているんだ」
「それはもったいないな。俺が帰って来るまでに、なんとか思い出しておいてくれ。……では、行ってくる」
「……ああ。絶対に、生きて戻って来い」
 ――〝ご武運を〟。
 戦場へと赴くマイクロトフの背中へ、胸に手を当てたカミューはグラスランドに伝わる古き祈りの言葉を、もう一度捧げたのだった。
1/1ページ