青騎士たちと秘密の本

 珍しく出動命令が出ていない日の、穏やかな昼下がり。とある一室に何やら青騎士たちが集まって、わいわいと盛り上がっているのが見えた。そこへ偶然通りかかった青騎士団長マイクロトフは、特に悪気もなく声を掛ける。
「楽しそうだな」
「マ、マイクロトフ様!」
「団長!」
 いつものように元気のいい挨拶が返ってくると思ったが、青騎士たちは一斉に顔色を変え、ひどく動揺した様子で振り返った。そのうちの一人が何かを背に隠したのを見逃すマイクロトフではない。彼は途端に眉を顰め、棒立ちになっている青騎士たちを見回す。
「……今、何を隠した?」
「な、なんでもありません!」
「決して騎士道に反するものでは!」
「ならば、なぜ隠す? 騎士道に反したものでなければ、正々堂々としていればいいだろう。事と次第によっては、相応の罰を下すぞ」
「ば、罰……」
「きっ、騎士の称号剥奪だけは、何卒なにとぞご勘弁を! 後生ですから!!」
「おい、俺たちの騎士生命がかかってるんだ。おとなしくアレ・・を差し出せ」
「……『アレ』?」
 ついには威風堂々たる青騎士団長の詰問に根負けして、青騎士たちはしょんぼりと肩を落としながら道を開けた。彼らの一番奥にいた何かを隠した青騎士が、自身の背後からおそるおそる一冊の本を取り出し、震える手でそれを差し出す。
「その……これは、清廉潔白と名高い団長にお見せするようなものではないかと……」
「なんだ、ただの本じゃないか。書物による知識を共有し合うのは、決して悪いことではないと思うぞ」
「いえ……そのような高尚なものでは全くなく……」
「……随分歯切れが悪いな。何だと言うんだ」
 痺れを切らしたマイクロトフが青騎士の手から本を奪い取り、表紙を確認するのもそこそこにパラパラとページを捲り始めた。そして――仰天する。
「――ッ!?」
「ほらぁ……だから言ったじゃないですかぁ……」
 瞬時にして真っ赤になったマイクロトフが取り落としかけた本を、目の前の青騎士が慌てて受け止めた。周囲の青騎士たちも片手で顔を覆い、揃って項垂れている。
 青騎士たちが異様に盛り上がり、マイクロトフが手にしたその本は、俗に言う「エロ本」だった。騎士たちも若い盛りである、そういうものに興味を持っても全くおかしくはない。
 だがマチルダ騎士団随一の堅物男と言われるマイクロトフには、その手の耐性は無いに等しかった。そういった方面の知識が無いわけではないが、日々ひたすらに騎士道に邁進するマイクロトフにとって、色欲など二の次もいいところだ。そんな彼が、イラストとはいえ裸であられもないポーズを取っている女性たちを見てしまったのである。動揺しないわけがない。
「……なんか、ほんと……すみません……」
「……やっぱり騎士の称号剥奪、ですかね……?」
「ご、ゴホン……! お、お前たち、なんてものを……! ……いや、この場合はそう厳しく叱るものではないか……」
「そうそう、団長だって俺たちと同じ男子ですもんね! ヘヘ……団長はどういう子がお好みなのかなー、って……」
「バカ、やめろ! 調子に乗るな、勧めるな!」
「大変失礼いたしました。これからは団長にバレないように……じゃなくて、軽はずみな言動は控えます。ですから、どうかお許しを」
 姿勢良く立つ青騎士たちに、ようやく顔の火照りが治まったマイクロトフは、深い溜め息を吐いてから部下たちに言う。
「……別に怒ってはいない上に、罰を下したりもしない。だが、騎士として人として、最低限の節度は保て。くれぐれも、羽目は外し過ぎるなよ」
「はい!」
「誓って!」
「分かりました! 肝に銘じます!」
 びしっ、と敬礼した青騎士たちに、マイクロトフは何とも言えない気持ちで再び溜め息を吐いたのだった。

 この後――
 どこから漏れたのか、この出来事はマイクロトフの親友である赤騎士団長カミューにも伝わり、彼は「なぜ私はその場にいなかったのか」と肩を震わせながらひとしきり笑ったわけだが、件の「エロ本」は青騎士団内だけでなく赤騎士団、果ては白騎士団にまで行き渡り、団ごとに反応も様々だったという。
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