食と歓談

 向かい側に座るマイクロトフが、ステーキを美味おいしそうに頬張っている。
 とはいえ、食べ方は綺麗だ。丸ごとかぶり付くわけでは全然なく、フォークとナイフを上手く使って一口大に切った肉を上品に口に運んでは、静かに咀嚼している。上流階級出身ではないにしろ、やはりロックアックス生まれロックアックス育ちの人間はこういった所作が自然と身につくのだろうなと、カミューはひそかに感心する。
「……カミュー」
「うん?」
 不意に名を呼ばれ、テーブルに頬杖をついて親友の食事風景を眺めていたカミューが小首を傾げた。見ればマイクロトフは両手にフォークとナイフを持ったまま、困惑の表情を浮かべているではないか。なんだ? と無言で促してくるカミューに、マイクロトフはおのれの今の気持ちを正直に伝える。
「その……そんなにじっと見られていては、食事がしにくい」
「ああ、これは失礼。いや、お前があまりにも美味うまそうにステーキを食べているものだから、本当に肉が好きなんだな、と思ってな」
「……」
「あと食べ方が綺麗だな、ともね。肉好きと言えば骨付き肉をワイルドに丸齧りして口の周りを脂まみれにしている者ばかりというイメージが強かったんだが、今、それが覆された。やはりお前は、ロックアックスの人間なんだな」
 カミューの言葉にマイクロトフはますます困惑したが、そんな彼をよそに、カミューは続ける。
「私はグラスランドから来た人間だから、ロックアックス流のテーブルマナーを身に付けるのには少々苦労したんだ。こんなものまでフォークとナイフを使って食べるのかと、驚きの連続だったよ。食材にしても、ほぼそのままの形で出てくることはない。味付けだって、繊細だ」
「……そうなのか」
「この『白身魚のムニエル』なんてここに来てから初めて食べて、即惚れ込んだね。世の中にこんなに美味いものがあったのか、というくらいに。毎日の食事が美味いかどうかで、日々のモチベーションも決まるからな」
「グラスランド料理は好きではなかったのか?」
「好きではなかった……と言うより、こんなものだと受け入れていた、といったほうが正しいかもな。今でこそすっかりここの料理に馴染んでいるが、故郷へ帰れば帰ったで、大雑把な料理でも懐かしく感じるんだろうな」
 ついカミューの話に耳を傾けてしまったが、マイクロトフはあと二口三口で食べ終わり、カミューはもう少しかかりそうだということに気付いた。今は雑談タイムではない、食事中である。
 以前のマイクロトフならば、「食べることに集中しろ」「早く食え」などと急かしただろう。だがカミューと親しくなった今、友の話を聞きながら、また自身も話しながら食べるのも悪くはないと思えるようになった。こんな時間もまた楽しくて、胸が温かくなるのだ。
「……まだ結構残っているじゃないか。話はそのくらいにして、早く食ってしまえ」
 それでも突っ込むと、カミューは「お前が早過ぎるんだ」と苦笑してから、皿に置いていたフォークとナイフを手にする。
 努力の賜物なのか、今となってはお前のほうがよほど優雅に見えるぞ、と心の中で呟いて、マイクロトフも食事を再開したのだった。
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