三騎士副団長の酒の肴になる話
「おお副団長(赤)殿、いいところに。ちょうど良いワインが手に入ったのだが、共にどうだ?」
廊下で鉢合わせた青騎士副団長からの誘いに、一日の仕事を終えて自室へと帰るところだった赤騎士副団長は、足を止めつつ首を傾げた。確か、この青騎士副団長は。
「別に、私はいいけど……君、酒に弱いんじゃなかったか?」
「うっ……貴殿の言うとおり強くはないが、俺だって、多少は飲みたい時があるのだ」
「多少、ねえ……どうせ早々に酔い潰れることが目に見えてるんだから赤葡萄ジュースにしておけばいいのに。まあ、いいだろう。付き合うよ」
赤騎士副団長が笑顔で承諾すると、青騎士副団長もぱっと目を輝かせて笑顔になった。さっそく二人は肩を並べて城の屋上へと向かったが、いざ屋上に着くと先客がいて、その人物がこちらに背を向けて静かに佇んでいるのが見えた。制服の色は、白。白騎士団の者だ。
「これは、副団長(白)殿。奇遇ですな」
「まさか、ここで副団長が全員揃うとは」
「ああ……お前たちか。こんな時間に屋上デートとは、各々 の団長殿同様仲が良いのだな」
「なに、団長方には敵いません。ただの気晴らしですよ。もしよければ、副団長(白)殿もいかがです?」
明るく言う青騎士副団長がワインボトルを掲げてみせると、その横で赤騎士副団長も静かに頷いた。どうやらお邪魔ではないらしいと知った白騎士副団長も、またとない誘いに乗ることにする。
「そうだな。せっかく三人揃ったのだ、ぜひ御一緒させていただこうか」
こうして、三人の副団長によるささやかな月夜の酒宴が始まった。
「――そこで、マイクロトフ様はおっしゃったのだ。『民を守らずして、何が騎士か!』と!」
グラス一杯のワインですっかり出来上がった青騎士副団長が、尊敬してやまない己の団長・マイクロトフについて熱く語り出した。その隣から、まだ正気の赤騎士副団長が「しっ、声が大きいよ」と窘 める。
「つまりマイクロトフ様は、またゴルドー様に真っ向から意見した、と」
「そうなんだよ~、ウチの団長と青騎士団長殿が衝突するの、これで何回目かなあ? いつか青騎士団長殿が騎士団から追い出されるんじゃないかって、毎回気が気でないっていうかぁ」
「……副団長(白)殿も、酒に弱くていらっしゃいましたか」
なんと、普段は物静かな白騎士副団長も出来上がってしまったらしい。そういえば、彼だけ飲むペースが異様に早かったような。まあ、あのゴルドー様の補佐役ともなれば我々以上に気苦労も多いんだろうなと、赤騎士副団長は思う。
「はいはい。お二人とも、これで終わりにしましょうね。これ以上飲まれると、私一人であなた方を介抱しなければならなくなるので」
「だいたい、貴殿のところの団長殿、カミュー様もカミュー様だ。いつもマイクロトフ様ばかり諫 めて、ゴルドー様に従順過ぎる。いくらゴルドー様が騎士団のトップでも、その言動が明らかに間違っていれば自ら進言することもだな……」
さらに開放的な気分になったのか、青騎士副団長のカミューを非難するような言葉に、赤騎士副団長の笑顔が凍り付いた。それまでの穏やかな態度が一変、険しく眉を顰め、彼は静かな怒りを込めた低い声で言い返す。
「……それはさすがに聞き捨てならないな。我らが団長を愚弄する気か? 誰がゴルドー様とマイクロトフ様の間を取り持っていると思っている。カミュー様がいなければ、マチルダ騎士団はとっくに瓦解しているぞ」
「瓦解などするものか。マイクロトフ様こそ、騎士の中の騎士。民の間でも、あの方が最もマチルダ騎士団を率いるにふさわしいという声があるほどなのだ。なのにゴルドー様もカミュー様もそれを分かっておらず、マイクロトフ様を過小評価している」
「……」
「こらこら、私闘禁止~! 副団長(赤)殿、剣を納めて。副団長(青)殿も煽らない。あとさりげなくウチの団長も貶 された気がするけど、最近のあれこれを見てたらまあ……致し方ないよな……」
あわや一触即発の事態になりかけた赤騎士副団長と青騎士副団長を仲裁した白騎士副団長だったが、ゴルドーの近年の言動や周囲からの評判を思い出したのだろう。途端に肩を落とし、悲しげな表情になる。
「……ハア……俺、なんで白騎士団なんかにいるんだろ……」
「まあまあ、そうおっしゃらずに。三騎士団の頂点である白騎士団に属するにふさわしいと評価されたから、今のあなたがあるのでしょう。ゴルドー様を補佐し、時に代行を務める役目は、そうそう誰でもできるものではありませんよ。ですから、もっと自信を持って」
「そうですぞ。俺が貴殿の立場であったならあのふてぶてしい顔に思いっきりエンブレムを投げつけて、今頃とっくに騎士団を去っている。よくぞあのゴルドー様の下 で務めを果たされているものだ」
「だから、ウチの団長をどストレートにディスるのやめて……」
青騎士副団長の余計な一言にめそぉ……という顔をした白騎士副団長だったが、青騎士副団長本人は、良いフォローができたと思い込んでいるらしい。赤騎士副団長のジト目には気付かず、若干〝アホの子〟の気もある彼は「そういえば」と言った後にやや声を潜め、まったく別の話を切り出す。
「……貴殿らは、こんな噂を知っているか? その……マイクロトフ様とカミュー様は実はデキていて、夜な夜な互いの部屋を行き来していらっしゃる、と」
「ん? 今更?」
「い、今更とは? もしや、真実なのか!?」
「だから、声が大きいって。……夜になるとどちらかの部屋に入ったきりなかなか出て来ない、っていうのは本当だよ。我が赤騎士団と君のところの青騎士団では仕事の内容が異なるからね、積もる話もあるんだろう。いいじゃないか、仲が良くて」
笑顔でさらりと肯定する赤騎士副団長を見て口をぱくぱくさせる青騎士副団長だったが、酔って気分が高揚しているせいか、持ち前の好奇心が頭をもたげたらしい。彼は身を乗り出すと、赤騎士副団長におそるおそる尋ねる。
「……やはり、デキていると?」
「んー、さすがにそこまでは。部屋の中で何をなさっているのかまでは、誰も見たことがないからねえ。抱き合ってたとかキスしてたとかそういう目撃談は耳にしたことがないし、ご本人たちも、いつもしゃんとされてるし。我々が興味本位で詮索するようなことでは――」
「……」
「……副団長(白)殿?」
それまで黙って話を聞いていた白騎士副団長の様子がおかしい。俯いてぶるぶると肩を震わせている白騎士副団長の顔を二人が覗き込むと、彼は胸壁に両拳を打ち付け、吠えるように叫ぶ。
「いっそのこと、もう正式に付き合っちゃえよ!!」
「わあ、副団長(白)殿がご乱心だあ。……あ、グラスは割らないでくださいね。それ高いんで」
「赤騎士団長殿も青騎士団長殿もあの年まで独身を貫いてるんだし恋人がいるっていう話も聞かないし、普通にお似合いだからいいんじゃないか。例え周りが反対しようとも、俺は陰ながら応援するぞ」
「応援……するべきなのか? 今は多様性の時代とは言うが……」
「別にいいじゃないか。カミュー様が上手く立ち回れているのは、ゴルドー様に気に入られていてあの方と寝ているから、なんていう根も葉もない噂よりはよっぽどいいよ」
「何だと! どこでそんな話を聞いた!?」
「副団長(白)殿も声が大きいです。あくまでもただの噂ですから。もしこれが事実だったとしても、我々が口を出すようなことではありません。そうでしょう?」
「ぐぬぬ……」
「……」
色々と思うところはあれど、やはり己 の団長が絡む低俗な噂を聞くと許しがたい思いに駆られるらしい。憤怒の形相で両拳をきつく握り締める白騎士副団長と、あらぬ噂話の光景を想像して赤くなったり青くなったりを繰り返している青騎士副団長を宥 めつつ、ひとり冷静な赤騎士副団長はぱん、と両手を叩く。
「さて、そろそろお開きにしませんか? 副団長(青)殿はともかく、副団長(白)殿なんて人格まで変わっちゃってますしね。本来はこういう方なんだと知ることができて、私は面白かったですが。――これからも我々三騎士団、力を合わせて頑張りましょう」
「むう……確かにゴルドー様も独身ではいらっしゃるし浮いた噂も特に聞かないが、もし副団長(赤)殿の話が真実だとしたら、ごく身近なところでパワハラとセクハラが同時に起こっているわけで……」
「もうその話題からは離れてください。まさかお二方に直接お尋ねするわけにもいかないでしょう? 副団長(青)殿、吐くのなら自室に戻ってからにしておくれよ。さすがにそこまで面倒は見きれないからね」
「ブツブツ……無二の親友と懇意にしながら、その裏では上司と体だけの関係を……ブツブツ……」
「こっちもか。一発殴って目を覚まさせたほうがいいかな」
「キミ、優しそうな顔してちょいちょい過激だよね?」
こうして白・赤・青騎士副団長によるロックアックス城屋上の集いは、和やかさと少しの不穏さを漂わせながらお開きとなった。
一方、その頃。
「へっぶしゅん!」
「大丈夫ですか、ゴルドー様? まさか、お風邪を召されたのでは」
「ふん、大袈裟な。わしとて人間だ、くしゃみの一つや二つくらいはする。どうせどこかの取るに足らん奴らがくだらん噂でもしておるのだろう」
そう言って懐からハンカチを取り出し、盛大に鼻をかんだ白騎士団長・ゴルドーは、側に控えていた白騎士に「洗っておけ」と汚れたそれを放り投げた。そして再び、くしゃみをした。
さらに、その頃――赤騎士団長の部屋では。
「……今日は屋上が随分と騒がしかったな。しかも、ほとんど聞こえていたんだが」
「? 屋上に誰かいたのか?」
「お前が来る前に少し、な。あまり部下のプライベートに干渉はしたくないんだが、あとで彼らにはよく言い聞かせておかないと」
不思議そうに首を傾げながら椅子に腰掛けた青騎士団長・マイクロトフと、その向かい側で溜め息を吐きながらこめかみを押さえる部屋の主、カミューの姿があったのだった。
廊下で鉢合わせた青騎士副団長からの誘いに、一日の仕事を終えて自室へと帰るところだった赤騎士副団長は、足を止めつつ首を傾げた。確か、この青騎士副団長は。
「別に、私はいいけど……君、酒に弱いんじゃなかったか?」
「うっ……貴殿の言うとおり強くはないが、俺だって、多少は飲みたい時があるのだ」
「多少、ねえ……どうせ早々に酔い潰れることが目に見えてるんだから赤葡萄ジュースにしておけばいいのに。まあ、いいだろう。付き合うよ」
赤騎士副団長が笑顔で承諾すると、青騎士副団長もぱっと目を輝かせて笑顔になった。さっそく二人は肩を並べて城の屋上へと向かったが、いざ屋上に着くと先客がいて、その人物がこちらに背を向けて静かに佇んでいるのが見えた。制服の色は、白。白騎士団の者だ。
「これは、副団長(白)殿。奇遇ですな」
「まさか、ここで副団長が全員揃うとは」
「ああ……お前たちか。こんな時間に屋上デートとは、
「なに、団長方には敵いません。ただの気晴らしですよ。もしよければ、副団長(白)殿もいかがです?」
明るく言う青騎士副団長がワインボトルを掲げてみせると、その横で赤騎士副団長も静かに頷いた。どうやらお邪魔ではないらしいと知った白騎士副団長も、またとない誘いに乗ることにする。
「そうだな。せっかく三人揃ったのだ、ぜひ御一緒させていただこうか」
こうして、三人の副団長によるささやかな月夜の酒宴が始まった。
「――そこで、マイクロトフ様はおっしゃったのだ。『民を守らずして、何が騎士か!』と!」
グラス一杯のワインですっかり出来上がった青騎士副団長が、尊敬してやまない己の団長・マイクロトフについて熱く語り出した。その隣から、まだ正気の赤騎士副団長が「しっ、声が大きいよ」と
「つまりマイクロトフ様は、またゴルドー様に真っ向から意見した、と」
「そうなんだよ~、ウチの団長と青騎士団長殿が衝突するの、これで何回目かなあ? いつか青騎士団長殿が騎士団から追い出されるんじゃないかって、毎回気が気でないっていうかぁ」
「……副団長(白)殿も、酒に弱くていらっしゃいましたか」
なんと、普段は物静かな白騎士副団長も出来上がってしまったらしい。そういえば、彼だけ飲むペースが異様に早かったような。まあ、あのゴルドー様の補佐役ともなれば我々以上に気苦労も多いんだろうなと、赤騎士副団長は思う。
「はいはい。お二人とも、これで終わりにしましょうね。これ以上飲まれると、私一人であなた方を介抱しなければならなくなるので」
「だいたい、貴殿のところの団長殿、カミュー様もカミュー様だ。いつもマイクロトフ様ばかり
さらに開放的な気分になったのか、青騎士副団長のカミューを非難するような言葉に、赤騎士副団長の笑顔が凍り付いた。それまでの穏やかな態度が一変、険しく眉を顰め、彼は静かな怒りを込めた低い声で言い返す。
「……それはさすがに聞き捨てならないな。我らが団長を愚弄する気か? 誰がゴルドー様とマイクロトフ様の間を取り持っていると思っている。カミュー様がいなければ、マチルダ騎士団はとっくに瓦解しているぞ」
「瓦解などするものか。マイクロトフ様こそ、騎士の中の騎士。民の間でも、あの方が最もマチルダ騎士団を率いるにふさわしいという声があるほどなのだ。なのにゴルドー様もカミュー様もそれを分かっておらず、マイクロトフ様を過小評価している」
「……」
「こらこら、私闘禁止~! 副団長(赤)殿、剣を納めて。副団長(青)殿も煽らない。あとさりげなくウチの団長も
あわや一触即発の事態になりかけた赤騎士副団長と青騎士副団長を仲裁した白騎士副団長だったが、ゴルドーの近年の言動や周囲からの評判を思い出したのだろう。途端に肩を落とし、悲しげな表情になる。
「……ハア……俺、なんで白騎士団なんかにいるんだろ……」
「まあまあ、そうおっしゃらずに。三騎士団の頂点である白騎士団に属するにふさわしいと評価されたから、今のあなたがあるのでしょう。ゴルドー様を補佐し、時に代行を務める役目は、そうそう誰でもできるものではありませんよ。ですから、もっと自信を持って」
「そうですぞ。俺が貴殿の立場であったならあのふてぶてしい顔に思いっきりエンブレムを投げつけて、今頃とっくに騎士団を去っている。よくぞあのゴルドー様の
「だから、ウチの団長をどストレートにディスるのやめて……」
青騎士副団長の余計な一言にめそぉ……という顔をした白騎士副団長だったが、青騎士副団長本人は、良いフォローができたと思い込んでいるらしい。赤騎士副団長のジト目には気付かず、若干〝アホの子〟の気もある彼は「そういえば」と言った後にやや声を潜め、まったく別の話を切り出す。
「……貴殿らは、こんな噂を知っているか? その……マイクロトフ様とカミュー様は実はデキていて、夜な夜な互いの部屋を行き来していらっしゃる、と」
「ん? 今更?」
「い、今更とは? もしや、真実なのか!?」
「だから、声が大きいって。……夜になるとどちらかの部屋に入ったきりなかなか出て来ない、っていうのは本当だよ。我が赤騎士団と君のところの青騎士団では仕事の内容が異なるからね、積もる話もあるんだろう。いいじゃないか、仲が良くて」
笑顔でさらりと肯定する赤騎士副団長を見て口をぱくぱくさせる青騎士副団長だったが、酔って気分が高揚しているせいか、持ち前の好奇心が頭をもたげたらしい。彼は身を乗り出すと、赤騎士副団長におそるおそる尋ねる。
「……やはり、デキていると?」
「んー、さすがにそこまでは。部屋の中で何をなさっているのかまでは、誰も見たことがないからねえ。抱き合ってたとかキスしてたとかそういう目撃談は耳にしたことがないし、ご本人たちも、いつもしゃんとされてるし。我々が興味本位で詮索するようなことでは――」
「……」
「……副団長(白)殿?」
それまで黙って話を聞いていた白騎士副団長の様子がおかしい。俯いてぶるぶると肩を震わせている白騎士副団長の顔を二人が覗き込むと、彼は胸壁に両拳を打ち付け、吠えるように叫ぶ。
「いっそのこと、もう正式に付き合っちゃえよ!!」
「わあ、副団長(白)殿がご乱心だあ。……あ、グラスは割らないでくださいね。それ高いんで」
「赤騎士団長殿も青騎士団長殿もあの年まで独身を貫いてるんだし恋人がいるっていう話も聞かないし、普通にお似合いだからいいんじゃないか。例え周りが反対しようとも、俺は陰ながら応援するぞ」
「応援……するべきなのか? 今は多様性の時代とは言うが……」
「別にいいじゃないか。カミュー様が上手く立ち回れているのは、ゴルドー様に気に入られていてあの方と寝ているから、なんていう根も葉もない噂よりはよっぽどいいよ」
「何だと! どこでそんな話を聞いた!?」
「副団長(白)殿も声が大きいです。あくまでもただの噂ですから。もしこれが事実だったとしても、我々が口を出すようなことではありません。そうでしょう?」
「ぐぬぬ……」
「……」
色々と思うところはあれど、やはり
「さて、そろそろお開きにしませんか? 副団長(青)殿はともかく、副団長(白)殿なんて人格まで変わっちゃってますしね。本来はこういう方なんだと知ることができて、私は面白かったですが。――これからも我々三騎士団、力を合わせて頑張りましょう」
「むう……確かにゴルドー様も独身ではいらっしゃるし浮いた噂も特に聞かないが、もし副団長(赤)殿の話が真実だとしたら、ごく身近なところでパワハラとセクハラが同時に起こっているわけで……」
「もうその話題からは離れてください。まさかお二方に直接お尋ねするわけにもいかないでしょう? 副団長(青)殿、吐くのなら自室に戻ってからにしておくれよ。さすがにそこまで面倒は見きれないからね」
「ブツブツ……無二の親友と懇意にしながら、その裏では上司と体だけの関係を……ブツブツ……」
「こっちもか。一発殴って目を覚まさせたほうがいいかな」
「キミ、優しそうな顔してちょいちょい過激だよね?」
こうして白・赤・青騎士副団長によるロックアックス城屋上の集いは、和やかさと少しの不穏さを漂わせながらお開きとなった。
一方、その頃。
「へっぶしゅん!」
「大丈夫ですか、ゴルドー様? まさか、お風邪を召されたのでは」
「ふん、大袈裟な。わしとて人間だ、くしゃみの一つや二つくらいはする。どうせどこかの取るに足らん奴らがくだらん噂でもしておるのだろう」
そう言って懐からハンカチを取り出し、盛大に鼻をかんだ白騎士団長・ゴルドーは、側に控えていた白騎士に「洗っておけ」と汚れたそれを放り投げた。そして再び、くしゃみをした。
さらに、その頃――赤騎士団長の部屋では。
「……今日は屋上が随分と騒がしかったな。しかも、ほとんど聞こえていたんだが」
「? 屋上に誰かいたのか?」
「お前が来る前に少し、な。あまり部下のプライベートに干渉はしたくないんだが、あとで彼らにはよく言い聞かせておかないと」
不思議そうに首を傾げながら椅子に腰掛けた青騎士団長・マイクロトフと、その向かい側で溜め息を吐きながらこめかみを押さえる部屋の主、カミューの姿があったのだった。
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