報酬は、君自身

 昨夜はシーツの上に広がっていたプラチナブロンドの髪が、その持ち主である青年の手で一つに束ねられる。
 高い位置で結われた髪に繊細なアクセサリーを絡めて行く様は実に見事で、ヌサカーンは目を細めてそれを見つめた。ここがほとんど昼夜の区別のつかないクーロン裏通りではなく眩い朝日が射し込む部屋であったなら、尚更美しい光景になっていただろう。陽の光を受けてきらきらと輝き、さらさらと風になびく青年の髪は、ヌサカーンの心を魅了してやまないのだ。
「……何を見ている」
 妖魔医師の視線に気付いた青年・ブルーが眉を顰めると、ヌサカーンはフフ、と小さく笑う。
「相変わらず君は美しいな。昨夜存分に愛でたつもりだったが、その凛とした姿を見ていると、再び乱したくなる」
 そう口にしたヌサカーンから、ブルーは即座に距離を取った。この男ならやりかねない。昨夜も魅了されて心身の自由を奪われ、そこかしこをまさぐられたのだ。まぐわいこそしなかったが、男の愛撫によって火照った体を鎮めるのが大変だった。また同じ思いをするのは、絶対に御免だ。
「まったく……これさえ無ければあなたは頼りになる人物だというのに」
「おや、毎回無償でろと? 金の代わりに君の時間を少しばかり貰って何が悪い?」
「明らかに〝少し〟を超えている。過度の戯れは大概にしてくれ」
 警戒心をあらわにするブルーへ、だがヌサカーンは態度を改める気など一切無いとばかりに妖しく微笑んだのだった。
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