暑くて、熱い
「ふう、暑いねえ」
今日は、兄弟二振りで畑当番。豊かに実った青果物を収穫していた髭切は、首からかけたタオルで額の汗を拭った。少し離れた所で鍬を振るっていた膝丸も手を止め、髭切同様首からかけたタオルで顔の汗を拭う。
「兄者、少し休憩するか?」
「そうだね。いったん戻って、水分補給をしようか」
畑から本丸へと戻り、日陰に座る。しかし座ったのは髭切のみで、膝丸は本丸内へと入って行った。ほどなくして戻ってきた膝丸の手には、二人分の麦茶。礼を言って受け取り、髭切はごくごくと麦茶を飲み始める。
「あー、おいしい。喉に染み渡るねえ」
「そうだな。おかわりもあるぞ」
「当然おかわりするよ。三杯は飲まないと足りないね」
そう言った髭切の額から首筋にかけて、ひと筋の汗が伝った。続けて服の中で胸元や背中にも汗が伝ったらしく、髭切はぱたぱたと内番服を扇ぐ。
「急にどっと汗が出てきた。困ったねえ」
「それは大変だ。今、濡れたおるを……」
「むむっ……いっそこの服を脱いでしまえば、少しは涼しくなるかも」
そう言うなり突如上着を脱いで服を捲り上げた髭切に、膝丸は慌てて兄の捲り上げられた服を下ろした。阻止された髭切は不満そうだ。
「なんだい? 弟。あそこにいる……なんて言ったかな、槍の人(内番服の日本号)はああいう恰好をしているのに、どうして僕は駄目なの?」
「兄者は駄目だ! なんというか、いめーじというものがな……」
「いめーじ? 別に全裸になりたいって言ってるわけじゃないんだし、上半身くらい……」
「俺が嫌なのだ!」
しまった、と思ったが、もう遅い。思わず本音を口走ってしまった膝丸に、髭切はしばし目を瞬かせ、不思議そうに首を傾げる。
「どうしてお前が嫌なの? 僕が脱ぐことで、お前が何か損をするのかい?」
「むっ……むやみやたらに肌を曝すことは、控えてほしい。そう、思ったのだ……」
消え入りそうな声で答えた膝丸に、髭切はしばし考え込んでからふう、と溜め息を吐いた。そして、
「……本当にお前は、僕に対して過保護だよね。女の子じゃないんだから、そこまで守られなくても大丈夫だよ。第一ここには男しかいないんだから、僕が脱いだところで誰も何とも思わないだろう」
「す、すまない。だがそれでも、嫌なものは嫌なのだ」
まったく、弟の過剰な独占欲には困ったものだ。だがそんなところも可愛くて、そんな感情を向けられるのが嫌ではない自分もいる。僕も大概だよね、と髭切は小さく笑い、晴れ渡る空を仰いだのだった。
また、とある日――
少し目を離した隙に髭切がシャツ一枚の恰好になっており、その白い肌のあちこちに紅い花を咲かせている様を見た膝丸が大慌てで自らの上着を羽織らせたわけだが、それはしばらく後の話。
今日は、兄弟二振りで畑当番。豊かに実った青果物を収穫していた髭切は、首からかけたタオルで額の汗を拭った。少し離れた所で鍬を振るっていた膝丸も手を止め、髭切同様首からかけたタオルで顔の汗を拭う。
「兄者、少し休憩するか?」
「そうだね。いったん戻って、水分補給をしようか」
畑から本丸へと戻り、日陰に座る。しかし座ったのは髭切のみで、膝丸は本丸内へと入って行った。ほどなくして戻ってきた膝丸の手には、二人分の麦茶。礼を言って受け取り、髭切はごくごくと麦茶を飲み始める。
「あー、おいしい。喉に染み渡るねえ」
「そうだな。おかわりもあるぞ」
「当然おかわりするよ。三杯は飲まないと足りないね」
そう言った髭切の額から首筋にかけて、ひと筋の汗が伝った。続けて服の中で胸元や背中にも汗が伝ったらしく、髭切はぱたぱたと内番服を扇ぐ。
「急にどっと汗が出てきた。困ったねえ」
「それは大変だ。今、濡れたおるを……」
「むむっ……いっそこの服を脱いでしまえば、少しは涼しくなるかも」
そう言うなり突如上着を脱いで服を捲り上げた髭切に、膝丸は慌てて兄の捲り上げられた服を下ろした。阻止された髭切は不満そうだ。
「なんだい? 弟。あそこにいる……なんて言ったかな、槍の人(内番服の日本号)はああいう恰好をしているのに、どうして僕は駄目なの?」
「兄者は駄目だ! なんというか、いめーじというものがな……」
「いめーじ? 別に全裸になりたいって言ってるわけじゃないんだし、上半身くらい……」
「俺が嫌なのだ!」
しまった、と思ったが、もう遅い。思わず本音を口走ってしまった膝丸に、髭切はしばし目を瞬かせ、不思議そうに首を傾げる。
「どうしてお前が嫌なの? 僕が脱ぐことで、お前が何か損をするのかい?」
「むっ……むやみやたらに肌を曝すことは、控えてほしい。そう、思ったのだ……」
消え入りそうな声で答えた膝丸に、髭切はしばし考え込んでからふう、と溜め息を吐いた。そして、
「……本当にお前は、僕に対して過保護だよね。女の子じゃないんだから、そこまで守られなくても大丈夫だよ。第一ここには男しかいないんだから、僕が脱いだところで誰も何とも思わないだろう」
「す、すまない。だがそれでも、嫌なものは嫌なのだ」
まったく、弟の過剰な独占欲には困ったものだ。だがそんなところも可愛くて、そんな感情を向けられるのが嫌ではない自分もいる。僕も大概だよね、と髭切は小さく笑い、晴れ渡る空を仰いだのだった。
また、とある日――
少し目を離した隙に髭切がシャツ一枚の恰好になっており、その白い肌のあちこちに紅い花を咲かせている様を見た膝丸が大慌てで自らの上着を羽織らせたわけだが、それはしばらく後の話。
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