星に願いを
「あ、流れ星だ」
夜空を駆け抜けて行った流れ星を見て、髭切が声を上げる。本丸の屋根の上に膝丸と二人きり、同じ方向を見ていた彼の目にも、しっかり映ったようだ。
「ああ、鮮やかな色の流れ星だったな」
「運がいいよねえ。……流れ星を見たら三回願い事をすれば願いが叶うと言われてるけど、いつどこに現れるか分からない上にあんなに一瞬で消えてしまうんじゃ、三回も願うなんて無理だよね」
髭切の言葉に、膝丸は夜空から兄の横顔へと視線を移す。
「……兄者は、三度も願いたいことがあるのか?」
「うーん、どうだろう。だいたいの願いはもう叶っちゃってるからなあ。そういうお前こそ、何かあるの?」
「うむ……流れ星に願い事をしたことはないが、兄者がこの本丸に来られる前は、毎日兄者の顕現を神仏に祈っていたな。付喪神が神仏に祈るなど、滑稽な話かもしれんが」
「あはは、お前らしいねえ。初めて人の身を得た僕を見た時のお前の情けない顔ったら。まさか、一番最初に見た弟の顔が泣き顔だったなんてね」
「ま、まだその話を……俺の名はすぐに忘れるくせに、そのようなことだけは覚えているのだな」
「そりゃあ、可愛い弟に会えた日だもの。忘れるわけがないじゃないか。僕が先に顕現していたら、お前と同じことをしていたと思うよ」
「兄者……」
にこにこと笑う髭切を、膝丸が様々な思いを込めた表情で見つめる。
人の身を得て、兄の隣に並び立つこと。最も大きな願いは叶った。だがそれが叶った今、物足りなさを感じている己 がいる。もっとこの人のことを知りたい、もっとその瞳に映りたい、もっと触れたい、もっと近くに感じたい――兄本人には言えない醜い感情が、日に日に膨らんでいることを自覚している。
「……弟?」
熱っぽく見つめてくる膝丸を不思議に思ったのか首を傾げる髭切に、我に返った膝丸は「膝丸だ、兄者」と苦笑してみせ、「そろそろ戻るか」と湧き上がる欲望を無理やり押し込めて立ち上がる。
髭切も膝丸に続いて立ち上がったが、己よりわずかに広く逞しいその背をじっと見つめ、
(……お前も僕も、まだ全ての願いは叶っていないようだけどね)
と、冷静ながらも熱っぽい視線を送ったのだった。
夜空を駆け抜けて行った流れ星を見て、髭切が声を上げる。本丸の屋根の上に膝丸と二人きり、同じ方向を見ていた彼の目にも、しっかり映ったようだ。
「ああ、鮮やかな色の流れ星だったな」
「運がいいよねえ。……流れ星を見たら三回願い事をすれば願いが叶うと言われてるけど、いつどこに現れるか分からない上にあんなに一瞬で消えてしまうんじゃ、三回も願うなんて無理だよね」
髭切の言葉に、膝丸は夜空から兄の横顔へと視線を移す。
「……兄者は、三度も願いたいことがあるのか?」
「うーん、どうだろう。だいたいの願いはもう叶っちゃってるからなあ。そういうお前こそ、何かあるの?」
「うむ……流れ星に願い事をしたことはないが、兄者がこの本丸に来られる前は、毎日兄者の顕現を神仏に祈っていたな。付喪神が神仏に祈るなど、滑稽な話かもしれんが」
「あはは、お前らしいねえ。初めて人の身を得た僕を見た時のお前の情けない顔ったら。まさか、一番最初に見た弟の顔が泣き顔だったなんてね」
「ま、まだその話を……俺の名はすぐに忘れるくせに、そのようなことだけは覚えているのだな」
「そりゃあ、可愛い弟に会えた日だもの。忘れるわけがないじゃないか。僕が先に顕現していたら、お前と同じことをしていたと思うよ」
「兄者……」
にこにこと笑う髭切を、膝丸が様々な思いを込めた表情で見つめる。
人の身を得て、兄の隣に並び立つこと。最も大きな願いは叶った。だがそれが叶った今、物足りなさを感じている
「……弟?」
熱っぽく見つめてくる膝丸を不思議に思ったのか首を傾げる髭切に、我に返った膝丸は「膝丸だ、兄者」と苦笑してみせ、「そろそろ戻るか」と湧き上がる欲望を無理やり押し込めて立ち上がる。
髭切も膝丸に続いて立ち上がったが、己よりわずかに広く逞しいその背をじっと見つめ、
(……お前も僕も、まだ全ての願いは叶っていないようだけどね)
と、冷静ながらも熱っぽい視線を送ったのだった。
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