み。

「今年は巳年みどし? ……蛇、かぁ。――丸……」
 髭切の何気ない呟きに、おのれと兄の蜜柑の皮を一心に剥いていた膝丸が、びくりと肩を震わせた。手の中のそれを取り落としそうになったがなんとかこらえ、思わず身を乗り出す。
「兄者、今、なんと……?」
「うん? なんだっけ、えーっと……ほえ、まる」
「そうだ! 俺が時折蛇に例えられるのは、『蜘蛛切』と呼ばれていた時代、とある夜に蛇のように鳴き(正確には「音を出す」だが)、『吼丸ほえまる』と名を改められたという逸話があるからだ。昔の名とはいえ覚えておられるとは、凄いぞ兄者。では、今の俺の名は?」
 いつになく目を輝かせていてくる膝丸だったが、髭切の関心は弟の手の中にある蜜柑に戻ったようだった。まだ少ししか剥けておらず、すぐには食べられそうにない。
「ちょっと、手が止まってるんじゃない?」
「その前に、俺の今の名を」
「やだ。今すぐ蜜柑が食べたい」
「……」
 ただ兄に名前を呼んでほしい膝丸VS早く蜜柑が食べたい髭切の兄弟バトル勃発――と思いきや、膝丸があっさり折れた。兄に敵うわけがない。
「(まあ、「弟」と呼んでくださるのは兄者だけだしな……)……剥けたぞ、兄者。筋は敢えて取らなかった。筋にも栄養分が含まれているらしいからな」
「へえ、そうなんだ。ありがとう、膝丸、、
「!?」
 ――今年も、自由きままな兄に振り回されることになりそうだ。
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