とある一夜からの、

 朝――あくびをしながらのろのろと服を着た髭切は、ふと違和感を覚えた。
 なんだか普段より、少しサイズに余裕がある気がする。まだ半開きの目をこすっておのれが纏った衣服を見た髭切の口から、「ありゃ」と声が出た。今自身が着ているのは、いつもの黒いシャツではなく白いシャツ。珍しくまだ布団から出てこない弟の膝丸のものだ。
(隣に掛けてあった弟の服を取って着ちゃったのか。……ふふ、弟の匂いがする。今は触れ合ってないのに、まるで抱きしめられているみたいだ)
「ん……んん……? ――はっ!?」 
 兄の気配と声に気付いたのか勢いよく飛び起きた膝丸は、真っ先に時計を見て安堵し、次に枕元に立っている髭切を見上げた。そして、驚きに目を見開く。
「あ、兄者!? 起きていたのか。それはそうと、なぜ俺の服を……」
「ああ、おはよう。うん、気が付いたらお前のを着てたんだよね。悪いね、ぼうっとしてたら間違えちゃった」
「普通、色で気付……いや、下! 何も身に付けていないではないか! せめて下着は先に着てくれ!!」
「ありゃ、ほんとだすっぽんぽんだ。なんだかすーすーすると思ったら……って、お前のほうがもっとすっぽんぽんじゃない。なにせなんにも着てないんだから」
 髭切に指摘されて、身を乗り出していた膝丸が捲れた毛布を慌てて直した。いくら見慣れているとはいえ、朝っぱらから兄の剥き出しの白い脚と臀部の美しいカーブは刺激が強過ぎる。しかも、俗に言う「彼しゃつ」状態。これで悶々とするなというほうが無理だ。
「えーっと、まずはぱんつを履かなきゃいけないね。ついでにお前のも取ってあげ――」
 突如後ろから抱きつかれ、髭切はそのまま布団に組み敷かれた。見上げると膝丸の息は荒く、まったく余裕がないといった様子だ。
「……確か、今日は非番だったな」
「え……お前、まさか」
「すまんが、もう持ちそうにない。失礼する」
「ちょっと、えっ、準備も無しにいきなりなんて、さすがに無理――」
 本丸の庭から発された高らかな鶏の鳴き声と、兄弟の部屋から響いた甘い啼き声が重なる。見事布団に突っ伏す羽目になった髭切は、土下座せんばかりの勢いで謝り倒す膝丸をなだめながらも、今日が非番で良かったと心の底から思ったのだった。
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